第3回 業務アプリ開発者が活用すべきマルチプラットフォーム向けの開発技術&サービス連載:業開中心会議議事録

“BaaS”の登場などにより、既存のサービスと組み合わせて本格的なアプリを“楽”に構築できるようになってきている。そいういった技術やサービスを業務アプリ開発にも適用できるのか?

» 2013年09月03日 16時14分 公開
[一色政彦デジタルアドバンテージ]
連載:業開中心会議議事録
業務アプリInsider/Insider.NET

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「連載:業開中心会議議事録」のインデックス

連載目次

 2013年7月6日(土曜日)、@IT/.NET開発者中心コーナー主催のオフライン・セミナー「第3回 業開中心会議 知っているとマルチプラットフォーム開発が“楽”になる技術&サービス」(スポンサー:グレープシティ)が開かれた。

会場の様子 会場の様子

 今回のテーマは、「クロスプラットフォーム開発をするための技術&サービス」だ。最近では、アプリに必要なバックエンド処理をクラウド上のサービスとして提供する「BaaS(Backend as a Service)」などが新たに登場しており、既存のサービスと組み合わせて本格的なアプリを“楽”に構築できるようになってきている。こういった開発技術やサービスを知っているのと、知らないのとでは、開発生産性に大きな違いが出てくるだろう。今回の中心会議では、そういった『知っていると開発が“楽”になる開発技術&サービス』にスポットを当て、業務アプリ開発への応用について講演・議論した。セミナーの構成は、下記のとおり。

  1. 基調講演『モバイルサービスを素早く構築するクラウドサービス BaaS (Backend as a Service)概要』
  2. 技術セッション1『MonacaとHTML5、JavaScriptで作る業務アプリ開発 〜ハイブリッドアプリの基礎とMonaca BaaS機能の便利な使い方〜』
  3. 技術セッション2『Windows 8/iOS/Androidの業務アプリにも簡単に対応 - Windows Azure Mobile Services 活用方法(デモ中心)』
  4. パネル・ディスカッション『業務アプリ開発者が活用すべきマルチプラットフォーム向けの開発技術&サービス』
  5. 交流会

 本稿では、基調講演および各セッションのUstream中継の動画を視聴・閲覧できるようにしている。また、Twitter上でさまざまなコメントがツイートされたが、その内容は「Togetter」に残されている。

基調講演『モバイルサービスを素早く構築するクラウドサービス BaaS (Backend as a Service)概要』

 基調講演では、@ITでBaaSの記事を執筆したエクサ・コンサルティング推進部の安藤 幸央 氏が、BaaS活用の優位性や、有効活用のポイント、陥りやすい点など、BaaSを活用したシステムの構築・提案時に役立つ材料を説明した。

株式会社エクサ コンサルティング推進部 安藤 幸央 氏

 基調講演の詳しい内容については、以下のプレゼンテーション用スライドUstream中継の動画を閲覧・視聴してほしい。

基調講演のプレゼンテーション用スライド


基調講演のUstream中継の動画

セッションは00:03:20(3分20秒)〜00:47:00(47分00秒)まで。

技術セッション1『MonacaとHTML5、JavaScriptで作る業務アプリ開発 〜ハイブリッドアプリの基礎とMonaca BaaS機能の便利な使い方〜』

 続いて技術セッションでは、「Monaca」というHTML5アプリ開発プラットフォームでBaaS機能を提供しているアシアルの田中 正裕 氏が、Monacaを用いてマルチプラットフォーム対応の業務アプリを開発する方法を、デモを交えながら紹介した。

アシアル株式会社 田中 正裕 氏

 技術セッション1の内容については、以下のUstream中継の動画を閲覧・視聴してほしい。

技術セッション1のUstream中継の動画

セッションは00:49:30(49分30秒)〜01:16:00(1時間16分00秒)まで。

技術セッション2『Windows 8/iOS/Androidの業務アプリにも簡単に対応 - Windows Azure Mobile Services 活用方法(デモ中心)』

 続いて技術セッションでは、「Windows Azure Mobile Services」というBaaSを提供する日本マイクロソフトの鈴木 章太郎 氏が、Windows 8/iOS/Android向け業務アプリのバックエンド・サービスとしてWindows Azureモバイル・サービス(Mobile Services)を利用して開発する方法についてデモ中心で紹介した。

日本マイクロソフト株式会社 テクニカルエバンジェリスト 兼 マイクロソフトテクノロジーセンター アーキテクト 鈴木 章太郎 氏

 技術セッション2の内容については、以下のUstream中継の動画を閲覧・視聴してほしい。

技術セッション2のUstream中継の動画

セッションは01:18:00(1時間18分00秒)〜最後まで。

パネル・ディスカッション『業務アプリ開発者が活用すべきマルチプラットフォーム向けの開発技術&サービス』

 パネル・ディスカッションでは、各セッションを受けて、業務アプリでのBaaSなどのサービス活用の現実的な可能性について議論した。ご登壇いただいたのは、下記の方々である。

登壇者のプロフィール

 以下は、パネル・ディスカッションで筆者が重要だと思ったポイントである(以下、敬称略)。ここに書き出しているもの以外にも注目すべき発言(例えばフロント部分のクロスプラットフォーム対応などに関してのディスカッションなど)が多々あったので、興味がある方はぜひUstream動画を視聴してほしい(本稿の最後に埋め込んでいる)。

●業務アプリでのBaaS活用について

―― 実際に業務アプリでもBaaSは活用できるのでしょうか?

安藤 いきなり大規模なサービスや業務システムでBaaSを使うことはほとんどないと思います。最も効果が高いのは、試作やデモをサッと作りたいときにBaaSを活用することです。動かしてみないと気が付かないことも多いので、プロトタイプなどの作成は重要ですが、そういう場面でBaaSが役立ちます。

 また、業務システムでBaaSを活用しようとした場合、業務や手順の方をBaaSで実現できることに合わせてしまうことも有効な手段です。例えばモバイルで何もかも実現するのではなく、決済の確認と承認のみに機能を絞るなどです。

田中 わたしも同じ考えです。スマートフォンやタブレットを業務で使う場合、フル機能を実装する必要はなく、例えば「出先で会社の情報が閲覧できるだけ」というような単機能でのモバイル活用が、今後の本命になってくると考えています。従ってBaaS活用は、そういった「モバイル活用」をテーマにするべきでしょう。実際に弊社のMonacaのBaaS機能もそこがテーマになっています。

 弊社の事例でいうと、「カタログをタブレットでお客さんに見せるだけ」という単機能のアプリを開発したことがあります。アプリ内容はBaaSを活用して数日で開発できるようなものですが、これがあるのとないのとでは業務効率に大きな違いが出てきます。

初音 大きな流れとしてクラウド化があり、その中でBaaSを知ると、確かに「使いたい」という気持ちになります。しかし実際に使おうとすると、機能的な面などで力不足なのは否めません。今日、いくつかの事例で紹介されたように、業務アプリの隙間部分で活用されることはありますが、業務アプリのメイン部分で使えるほどの実力はまだありません。「今後、もっとメイン部分でも使えるようになるとうれしい」と思っています。

鈴木 例えばWindows Azureモバイル・サービスは、既存アプリの機能を拡張する方向でサービスが提供されています。今後、恐らくActive Directoryでの認証サービスや、ほかのBaaSとの連携実行などの機能が順次追加されていくと思われますので、そのような「メイン部分では使えない」という制約は徐々に解消してくのではないかと思います。

田中 Monacaの場合は、「BaaSをどんどん機能拡張していく」という方向は想定しておらず、「クロスプラットフォーム向けの開発の中で、どうしてもバックエンドの開発をしなくてはならなくなった人へのファースト・ステップとして使ってもらいたい」と考えています。確かに「保存データなどは、特定のBaaSにロックインされてしまう」というデメリットもありますが、BaaSはオープンな技術でマルチ言語/マルチプラットフォーム対応していることが一般的なので、そこで身に付けた技術知識などはほかでも応用可能なはずです。

安藤 やはり大規模な業務システムやデータベースを全てBaaSに移行するようなことは永遠にあり得ないと思います。繰り返しになりますが、例えばiOS、Android、Windows Phoneと各種プラットフォーム向けにプッシュ配信する必要がある場合、(独自に実装すると大変なので)そのプッシュ配信のところだけにBaaSを活用するなど、「つまみ食いする」ような使い方がよいです。

―― さまざまなBaaSがありますが、何を使えばいいのでしょうか?

田中 現状では、「これを使うとよい」というBaaSの決定版はありません。BaaS自体が2年前に登場したばかりで、まだ進化中です。その進化が速すぎて、2年後、どう進化しているのかすら分からない状況です。各社がオープンな技術を使いながら切磋琢磨(せっさたくま)する中で、Monacaのように開発プラットフォームと融合したものがさらに登場するかもしれませんし、プッシュ通信専門や写真サービス専門のBaaSなどが登場するかもしれません。そういったものをうまく組み合わせて、できるだけ開発を短期間化することが、今後のトレンドになっていくことは十分に考えられます。

―― 開発者の皆さんに対してパネリストの方からメッセージをひと言ずつお願いします。

安藤 「バース(BaaS)は、みんなの助っ人」です。

田中 Monacaを使ってください、お願いします。Monacaのもともとのテーマは「ユーザー・インターフェイス(UI)」です。スマートフォンやタブレットが業務アプリで使われれば使われるほど、B2Cで提供されているコンシューマ向けアプリのUIと比較されるようになります。そうなると、「業務アプリのUIが良くない」という評価になりがちです。従って、今後、業務アプリのエンジニアが注力すべき課題は「フロントエンド」だと思います。もちろんここでいうフロントエンドとは、グラフィックの美しさではなく、使い勝手の良さです。Monacaはこれを意識して、HTMLで簡単に作れて試せる「Rapid開発」や「プロトタイプ開発」を目指しています。宣伝になりますが、『日経コンピュータ』で「今さら聞けないスマホアプリ開発の基本」という連載記事(全7回)を執筆しており(本稿公開時点で連載は完了しています)、今回のテーマのような内容についてもまとめていますので、ぜひご一読ください。

鈴木 Windows Azure、そしてWindows Azureモバイル・サービスをぜひ試してください。30日間の無償利用も可能です。今日のセッションでデモしたサンプル・アプリは約1日半で完成しています。このようにWindows Azureモバイル・サービスの生産性は非常に高いので、これをぜひ実感してほしいです。

初音 これまでいろんなアプローチで「モジュール化」や「ロジックをサービスとして外に出すこと」などが行われてきました。その集大成が「BaaS」というになるのではないかと思い、大変期待しています。

―― ディスカッション前はBaaSと業務アプリの関係性を理解できませんでしたが、ディスカションを終えてBaaSの利用イメージが湧いてきました。特に印象に残ったのは、田中さんの「社内にいるExcel職人がちょっとしたアプリを作っており、そういう人こそBaaSを活用してほしい」という発言です。わたし自身も社内アプリを書いているので、「20MbytesのデータをWindows Azureモバイル・サービスに乗っけたりできるのではないか?! その開発は楽しそうだな」と思いました。皆さんもそういった小さなところからBaaSやクロスプラットフォーム開発についてさらに勉強していくとよいと思いました。それでは皆さま、ありがとうございました。

パネル・ディスカッションのUstream中継された過去動画

セッション開始は00:00:25(25秒)から。


 次回の業開中心会議のテーマは、「NoSQL」もしくは「Visual Studio 2013」。11月9日(土曜日)に開催予定なので、興味のある方はぜひご参加いただきたい。

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