CloudStackはどう進化し、変身していくのか企業に向けた展開も本格化

10月初めに、シトリックスシステムズジャパンがネットワークおよびクラウドに関する国内事業戦略とともに発表したCloudStackベースのクラウド構築・運用基盤製品の最新版は、水平方向、垂直方向での機能強化が進んでいる。CloudPlatformでは企業での利用に便利な機能が強化され、CloudPortalではマルチクラウド対応と各種サービスの統合提供プラットフォームへの進化が始まった。

» 2013年10月16日 18時33分 公開
[三木 泉,@IT]

 シトリックスのクラウド運用基盤製品群の進化の方向性がはっきりとしてきた。10月初めに、シトリックスシステムズジャパンがネットワークおよびクラウドに関する国内事業戦略とともに発表した最新版は、水平方向、垂直方向での機能強化が進んでいる。

 シトリックスのCloudStackをベースとしたクラウド運用製品群は、サービス事業者向けの製品というだけではなく、企業が大規模なITインフラ基盤を運用するために使えるように進化している。その一方で、インフラだけでなく、ミドルウェアやアプリケーションなど、すべてのレイヤでの多様なIT機能をサービスとして提供するためのプラットフォームツールになろうとしている。同社のクラウド製品群の進化は、他社の製品やサービスに対して排他的なものではない。これらを巻き込みながら、もっとも統合的なクラウド運用基盤として機能することを目指しているようだ。

 CloudStackをベースとしたシトリックスのクラウド運用ツールは2つの製品で構成されている。機能的にはOpenStackに近い、IaaSの運用を支えるプラットフォームソフトウェアである「CloudPlatform」と、サービス機能のカタログ作成、セルフサービスポータル提供、課金管理などを支援する「CloudPortal」だ。CloudPortalは当初、CloudPlatformの付加製品という位置付けだった。しかし現在では、この2つの分離が完了し、別製品として提供されるようになった。つまり、CloudPlatformユーザーでなくとも、CloudPortalを買えるようになっている。今後CloudPortalは、CloudPlatform以外のクラウドサービス提供を統合的に管理する機能がさらに強化されていくという。

CloudPlatformは2つの意味でハイブリッドIaaSを実現

 CloudPlatform自体については、Amazon Web Services(AWS)に追いつくための機能強化が引き続き行われている。

 最新版では「リージョン」という管理単位の新設。従来は「ゾーン」が最上位だったが、最新版からは、例えば東京と大阪のデータセンターを1つのリージョンとして管理できる。

 IPアドレス管理、負荷分散についてもAWSの「Elastic IP」「Elastic Load Balancer」に相当する機能が追加された。また、Amazon S3互換のAPIを提供するオブジェクトストレージをサポート。単一のストレージ空間を複数のゾーンから利用できる。また、複数リージョンにまたがるスナップショットも可能。

 一方、企業向け/企業内クラウドサービスに特に役立つ機能が加わり、プライベートクラウド構築・運用プラットフォームとしての価値が向上した。

 その1つは「Amazon VPC」に相当するネットワーク分割機能の強化。各テナントの論理専有空間のなかで、複数階層のネットワークを構成できるのは従来通りだが、最新版ではすべての階層でファイアウォール、負荷分散を設定できるようになった。これで、複雑な構成の業務システムを、IaaSに移行しやすくなった。また、ネットワーク関連では仮想ルータの機能を一部Nexus 1000Vに委譲できるなど、シスコの製品をはじめとする外部ネットワーク製品との連携が可能になった。

複雑な構成のアプリケーション運用がしやすくなった

 2つめはテナントにリソースを専有させる機能の強化。物理サーバ、ラック(複数サーバ)、データセンター単位での専有を設定できる。共有ストレージ装置についても、特定LUNを貸し出せる。また、各テナントへのリソース割り当て上限を、論理CPU数、メモリ量、IPアドレス数、ディスク容量で設定できるようになった。

 もう1つのエンタープライズ対応は、VMware vSphereのサポート強化だ。CloudPlatformは、以前からマルチハイパーバイザ対応を特徴としている。vCenter経由でVMware ESXi/VMware vSphereの一部機能を制御してきた。最新版で、主要機能のカバーが完了したという。

 具体的には、CloudPlatformの最新版4.2で、vSphereの「Storage vMotion」「Dynamic Resource Scheduler(DRS)」「Storage DRS」「Dynamic Power Management(DPM)」「dvSwitch」といった機能を制御できるようになった(vMotionやVMware HAはサポート済み)。

 特に国内の大規模・中規模企業の情報システム子会社の間で、vSphere対応への関心が高いという。

 「IT子会社には、親会社に加え、グループ全体や外部に対してサービスを提供することが求められている。情報システム部というよりサービスプロバイダの発想になっている。親会社はVMware vSphereを使っているとしても、自分たちがサービスをやるときにそれでいいのか。SAPを動かすのはESXi/vSphereかもしれないが、開発環境の提供ではKVMなどがいいのではないのかと考えるようになっている」と、シトリックスジャパンのクラウドネットワーキングソリューション事業部クラウドプラットフォーム営業統括部ディレクター 脇本亜紀氏は話す。

CloudPortalはXaaSサービス管理ツールへの進化が始まる

 セルフサービスポータルやサービスカタログ構築、課金管理の機能を提供するCloudPortalでは、「CloudPortal Business Manager 2.1」が登場した。この最新版ではCloudPlatformに加え、Apache CloudStack、OpenStackに対応した(現段階では実験的実装)。今後vCloud APIにも対応するという。

管理インターフェイスは改善が続けられている

 今後の方向性は、IaaSだけでなく、Storage as a Service(StaaS)、Platform as a Service、Desktop as a Service(DaaS)、UTM as a Serviceなど、多様なサービスのカタログ登録と提供管理ができるようにしていくことだという。StaaSについてはCloudia、Calingoが使える状態で、近くシトリックスのSharefileにも対応する。DaaSについては、XenDesktopとの一部連携を、実験的実装として提供している。コネクタを通じた連携により、サードパーティのソフトウェアベンダーが自社製品をサービスとして提供できるようになっている。

 CloudPortal Business Managerについては、APIの整備も注目点だ。これまでCloud Portalは、コンサルティングが入ってカスタマイズすることを前提に構築・メンテナンスされてきた。API/SDKの提供により、CloudPortalを利用する事業者などは、自らの構築やメンテナンスがしやすくなる。

 さらにCloudPortal Business Managerでは、クラウドサービスのOEM提供というビジネスモデルに対応した機能強化も進められている。

OpenStackに備えながらいまのユーザーに注力

 クラウド構築・運用基盤の世界では、OpenStack関連の動きを意識しないわけにはいかない。だが、脇本氏は「少なくとも現時点での成熟度は比較にならない。ユーザー組織が求める機能の追加と品質の向上に務める」と話す。また、「vCloud DirectorやOpensStackが出てくることを前提に製品戦略をとっている」とし、CloudPortalにおけるOpenStackのサポートを例に挙げる。

 シトリックスジャパンが現在注力していることの1つは、サービス基盤を自社開発してきた事業者への対応だ。

 「(IaaSを)内製した事業者が見直しの時期に入っている。こうした事業者の多くはIaaSの部分に投資をして勝負する時代は過ぎたという認識。もう少し上の部分に投資するため、クラウドのレイヤはCloudStackなりOpenStackを使おう。そこで自分でがんばることをやめようと考えている。そういう意味でCloudPlatform、CloudPortalを採用するサービスプロバイダの例を、年末にかけて何社か発表できる」。

 一方、一般企業やIT子会社向けには、上記のような機能強化を背景に、パートナー支援体制を強化していく。シトリックスジャパンは新たに、富士通とのパートナー契約を締結。同社はCloudPlaform、CloudPortalを自社のサービスで利用しながら、ユーザー組織に対して販売していく。すでに複数の販売パートナーが、検証済みのクラウドインフラ製品を提供しており、これも企業における導入を促進すると、シトリックスジャパンのクラウドネットワーキングソリューション事業部長兼パートナービジネス担当 鈴木和典氏は話す。XenDesktop、NetScalerとのクロスセルも強化していくという。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

スポンサーからのお知らせPR

注目のテーマ

Microsoft & Windows最前線2025
AI for エンジニアリング
ローコード/ノーコード セントラル by @IT - ITエンジニアがビジネスの中心で活躍する組織へ
Cloud Native Central by @IT - スケーラブルな能力を組織に
システム開発ノウハウ 【発注ナビ】PR
あなたにおすすめの記事PR

RSSについて

アイティメディアIDについて

メールマガジン登録

@ITのメールマガジンは、 もちろん、すべて無料です。ぜひメールマガジンをご購読ください。