2013年10月8日、さくらインターネットとインテルは共同で「石狩データセンター施設見学ツアー」を開催。ツアーでは、北海道石狩市に設立されている「石狩データセンター」の中を実際に見せてもらうことができた。
2013年10月8日、さくらインターネットとインテルは共同で「石狩データセンター施設見学ツアー」を開催。ツアーでは、北海道石狩市に設立されている「石狩データセンター」の中を実際に見せてもらうことができた。
ツアー前夜にはレセプションが行われ、インテル データセンター事業開発部 シニア・スペシャリスト 田口栄治氏や、さくらインターネット 代表取締役社長 田中邦裕氏と、北海道の地酒を交わしながらカジュアルな形で「石狩データセンター」の裏話を聞くことができた。本レポートでは、そのとき聞いた豆知識をトピックに交えながらレポートする。
データセンターの場所を北海道に決めた理由として、田中氏は「雄大な土地や冷涼な気候、自然エネルギー、通信回線の結節点、誘致担当者の熱意、風景がシリコンバレーに似ていること」などを挙げている。
今回のツアーではさらにもう1つ、あまり聞かない理由を耳にした。それは、「ゴキブリが少ないこと」だ。「ゴキブリ 北海道」で検索してみると、確かに北海道に生息するゴキブリは少ないようだ。これは、田中氏がゴキブリ嫌いだからというわけではない。データセンターにとって小動物や虫は大敵であり、万が一センター内に入り込んでしまえば運用にも影響を及ぼす。そのため、細心の注意を払わなければならない。
実際、データセンター内を視察すると、動植物の侵入を防ぐ仕掛けがたくさんあった。
石狩データセンターの外観から見ていく。石狩データセンターは、想像をはるかに超える巨大な建物だった。カメラのレンズに収まりきらないほどの迫力で、一見すると総合体育館のようにも思える。
石狩データセンターは建物下部から冷気を取り入れ、建物上部にある黒い窓のような部分から熱を排出している。冷却装置に頼るのではなく自然の冷気を活用することで、空調エネルギーを年間80%削減しているという。
建物下部には外気を取り入れる部分がある。よく見てみると高床式倉庫で見られる「ねずみ返し」のような設計が取り入れられている。こうすることで、小動物や昆虫が入りづらくなり、さらには津波などの災害対策にもなるという。
建物内に入ると、雪対策用の壁と網目の細かいフィルタが壁一面に設置されている。雪対策用の壁は、吹き込む雪を排除する役割を持ち、フィルタはキレイな外気を取り入れるために空気をろ過している。汚れたフィルタの表面には、小さなゴミや虫がへばりついていた。北海道では少ないようだが、ここで花粉も除去できる。
さらに奥へ進むと、各所にハエ取り紙のような粘着質のテープが設置されている。1ミリ程度の小さな虫対策のためだ。石狩データセンターのようなハイテクな空間とハエ取り紙の組み合わせに、時代を超えた知恵の融合を感じさせられた。
石狩データセンターは、東京ドーム約1個分の敷地面積を持つ。そのため、緊急時などの連絡手段の確保は課題の1つだ。しかし、データセンター内では、サーバルームで作業している人も多数おり、固定電話を使用することは不可能。作業場では常に大きな音がしているため、携帯電話を持ち歩いていたとしても聞き逃してしまいそうな環境だ。そのため、天井にはスピーカーが設置されている。
11時30分ごろ、偶然このスピーカーからこんなアナウンスが流れてきた。
緊急時のアナウンスはもちろんだが、これで普段どこにいても弁当屋の到着を確認できる。「弁当屋の到着を確認することがそれほど重要なことなのか」と思うかもしれないが、近くにコンビニや食堂がないこの地域では、とても重要なライフラインなのだ。スピーカーには、こんな活用方法もあった。
「会話が聞こえなくなる音楽」というものがあるのをご存じだろうか。石狩データセンターでは、一部の会議室にこのような仕掛けも施されている。
キーでロックされた二重扉の奥に2畳ほどのスペースがあり、その先に会議室への扉がある。その扉の前のスペースには、会話が漏れても外部の人に聞こえないようにするための音楽が流れている。この音楽は、人の会話と似たような周波数を持つために、人の声が聞き取りにくくなるという。データセンターでは、デジタルデータのみならず、会議室での会話から漏れる恐れのあるアナログの情報さえもこうして守られている。
今回、田中氏にお願いして特別に許可をもらい、会話が聞こえなくなる音楽を録音させてもらった。穏やかでどこにでも流れているような音楽なだけに、不思議である。
一方、建物全体のセキュリティも堅固である。建物内部に入るには同意書と登録データの突き合わせが必要であり、漢字が一文字違うだけでも入ることはできない。また、サーバルームには指紋認証システムがあり、あらかじめ指紋を登録した人でなければ通り抜けることはできない。万が一すり抜けられたとしても、出られないようになっている。ここまで厳重に管理されているため、門を通り抜ければ田中氏でさえもこの笑顔だ。
そして、データセンターといえば火災が心配される。このデータセンターでは、超高感度煙感知器と窒素消火設備が備えられている。ここで注目したいのは、「火災報知機」ではないことだ。田中氏は、「火が出てからでは遅い。わずかな煙を感知し、火が出る前に対処することが重要だ」と語る。
田中氏は自給自足にこだわり、ここでは鉄骨などを含めすべて石狩産のものを使用している。工事も地元の工事会社に依頼しているため、地元からも愛されているようだ。
石狩データセンターは最終的に全8棟、合計4000ラック以上の規模まで拡張を計画している。2号棟は、2013年11月に完成予定だという。工事中の2号棟を見せてもらうと、熱を逃がすために天井裏に大きな空間を取っていることが分かる。
田中氏の作ろうとしている未来は、データセンターを中心としたスマートシティだ。エネルギーのあるところにデータセンターを作り、そこから情報を送る。「データセンターは手段でしかない。それを使ってサービスを売る」(田中氏)。
実は数年前から、さくらインターネット研究所とインテルは共同で分散型ストレージシステムの研究を行っている。石狩データセンターは、プロセッシングやストレージ処理など、ネットワーク以外の部分で差別化を図ろうとしており、並列処理に特化し非常に高速に演算を行える「Xeon Phi」や、分散ストレージシステム「Amplidata」にアプローチしている。また、開発者コミュニティ向けにも「XeonPhi ハッカソン」を行うなど、積極的な姿勢を見せている。
田中氏は、「日本で一番安価に1bitを保存できる場所を目指そうと考えている。このデータセンターでは、ラックに入っているサーバは基本的にすべてインテルのCPU。これが意味するところは、『コモディティを中心に組み立てている』というメッセージである。
コモディティ化はネガティブにとらえられがちだが、われわれはコモディティ化を目指す。コモディティには2つあり、安くなってもそれで終わりのものと、安くなればなるほどたくさん使ってもらえるものがある。例えば、トイレットペーパーは10分の1の価格になったとしても、10倍買うことはない。しかし、ITのサービスは値段が半分になれば倍売れる。ITの世界では、わざわざ値段を高くするよりも、たくさんの人に買ってもらうことが大事。個人向けに大量に売り、開発費を分散させ、インフラをいかに安く作るか。安価でたくさん出ているものは、信頼性も高いし、必要なときに必要なだけ手に入る。そういう意味で、インテルのCPUはこのデータセンターに非常にマッチしている」と話す。
「コモディティだから誰でも買えて誰でもできるというのは正しい。しかし、例えば誰でもグーグルやアマゾンになれたかというと、そうではない。グーグルにしかグーグルになれなかったし、アマゾンにしかアマゾンにはなれなかった。それは、グーグルの考えていた戦略だったり、アイデアだったりがあるからだ。ハードだけではなく、ソリューションがなければならない。だから私たちはこの石狩データセンターでの取り組みを応援したいし、新しいことに挑戦するだけの体力と規模を持っている彼らに感謝している」(田口氏)。
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