2人のリーダーが決断した賢い世代交代YAPCの世代交代を見た

Perl技術や文化の啓蒙・促進を促す組織「JPA」は2013年11月11日、新人事を公開。2013年11月1日をもって、肥後彰秀氏と和田裕介氏が新理事に就任したと発表した。

» 2013年11月20日 18時17分 公開
[太田智美,@IT]

 Perl技術や文化の啓蒙・促進を促す組織「Japan Perl Association(以下、JPA)」は2013年11月11日、新人事を公開。2013年11月1日をもって、肥後彰秀氏と和田裕介氏が新理事に就任したと発表した。JPAは、Perl技術の発展を促す技術者のためのカンファレンス「YAPC::Asia(以下、YAPC)」も主催しており、今回理事となった和田氏はYAPC運営委員会の委員長にも同時に就任する。これまでのYAPCを支えてきた人物の突然の引退発表により開催が危ぶまれた2014年のYAPCだったが、今回の発表により来年度のYAPC開催が約束された。

牧大輔氏(左)櫛井優介氏(右)、撮影:@M_Ishikawa 牧大輔氏(左)櫛井優介氏(右)、撮影:@M_Ishikawa

 これまでのYAPCを支えてきたその人物とは、牧大輔氏と櫛井優介氏の2人である。牧氏は2006年の「YAPC::Asia Tokyo」から8年間、毎年イベントスタッフ・主催者としてYAPCを盛り上げ、櫛井氏は2010年からそこに加わった。2006年当初、参加者は150人ほどにすぎなかったが、2013年には1131人へと膨れ上がった。東京で開催されるYAPCが世界最大規模のPerlイベントとなったのには、この2人の存在がとても大きい。しかし、2013年9月21日、「YAPC::Asia 2013」のクロージングで彼らの口から突然の引退宣言があった。

 ここで、お知らせが1つございまーす。ばーーーん! これが最後です。ぼくと櫛井さんは、引退しまーす! もう決まったの。分かった? 決まったの!

 突然の発表に、会場は異様な空気に包まれた。そして、彼らが引退するという以上の情報はなく、「今後YAPCはどうなってしまうのか」と多くの人が不安を抱いた。

 その発表から1カ月半が経ち、ワディット代表取締役とオモロキ取締役兼最高技術責任者を兼務する和田(@yusukebe)氏の就任が決まった。和田氏は今、何を考え、どのようなことを感じているのか。就任発表直後、インタビューを行った。

筆者 YAPCを引き継ごうと思ったきっかけは、何かありましたか?

和田裕介氏 和田裕介氏

和田氏 特にないですね。自分はずっと、YAPC運営やJPAに携わるまいと思っていました。しかし、いつの間にか牧さんや関係者の方々に電話をかけている自分がいたんです。周りに「YAPCがなくなるのは悲しい」という雰囲気があり、それを打開するには牧さんの姿を比較的昔から見ている自分がふさわしいのではないかと正直感じたことはありました。

 しかし、自分がチャレンジしたいという気持ちは強くあったように思います。チャレンジというのは、「自分なりのYAPCを自分で運営する」ということです。あのイベントって、妙に「熱気」があるんですよ。たぶん、若さとか勢いとかそういうことかと思うのですが。他のイベントにはない、「グァー」ってこみ上げる何かが。言葉で説明するのは難しいですが……。それを大切にしていきたいし、それをより体験できる仕掛けを作っていきたいです。単純に「スーツの人が少ない」というのもその要因の一つかもしれません。言いたいことを言いまくるというのも、「グァー」って感じですよね。

 おそらく何かしらの技術に興味がある人ならば、一度その中に入れば楽しさが分かると思うので、そこへ飛び込むための機会をたくさん作りたいと思っています。今はそのためのアイデアを出している段階ですね。あとは、僕が今話した抽象的「グァー」をいかに伝えるか。言葉やイラストなどでいかに具体的な形にするか、というのも重要だと思います。

筆者 来年のYAPCに向けて考えてる具体的に施策はありますか?

和田氏 ないです。とはいえ、例えば今年からスポンサー向けにメニューを用意したのですが、そのフィードバックを元に改善をしていきたいと思っています。また、知り合いのPRやマーケティングが得意な友達に相談しようかと思っています。それと、考えを言葉にすることに関しては自分は得意だと思っているので、そこは活かしたいです!

筆者 引き継ぎのとき、牧氏や櫛井氏からの無言の圧力やプレッシャー、期待のようなものはありましたか?

和田氏 ないです、まったく。2人はだいぶ「ニュートラル」っていうのかな? 押しもしないし、引きもしないようなスタンスですね。強制もしないし、否定もしない。自由にやらせてくれそうです。ただ、ついつい頼っていまいそうなんで、頑張りたいです。2人とも気さくで、「いいお兄さん」って感じが好きです。プレッシャーについては、もちろん「いいYAPCにしないといけない!」という思いはありますが、そこまで感じてはいないですね。それは、彼らなりのやり方と僕のやり方はたぶん違うだろうなと思うからです。同じYAPCをやるわけではないので。

筆者 来年はどんなYAPCにしたいですか?

和田氏 そうですね……。今年のYAPCで、@bayashiさんがツイートしたのを櫛井さんが拾っていましたが、「YAPCに新しい風が吹き出した」というところにフィーチャーしていきたいと思っています。具体例を挙げるならば、盛況だったPerl入学式とか、iPhone上でPerlを動かすPerl Motionなどの新しい技術とかです。それと、今年YAPCに初参加した人が半分くらいいたので、こうした人がまた来たいと思えるようにしたいです。例えば、Perl初心者向けにトラックを1つ用意してもいいし、「Perlを使ってアプリケーションを作りました!」という応用に目を向けてもいいし、いつもと同じくライブラリ作者の話を聞けるトラックももちろん考えています。もう1つ、これは「YAPC::NA」に6月に行かせてもらって知ったのですが、もっと「hallway(廊下でのコミュニケーション)」を促進するイベントと環境作りをしたいです。

筆者 今、コミュニティは、全体的に成熟期のように思うのですが、そこはどう思いますか?

和田氏 まだまだです! 俺自身も、まだまだいろんな人と話してみたいと思っています。ところが、そのキッカケが足りなかったりするんです。特に思うのは、ネット上で情報発信をしていない人がいて、そういう人が実はマイノリティではなく大多数だと感じています。そうした人たちとの関わりとか、ニーズを汲み取ることをやりたいです。「情報発信をしていない」という人だけではなく、「情報発信をしているけど、いくぶん目立ってないかも……」という人も含めてです。そういう人たちへのアプローチとしては、「分かりやすさ」を意識したいと思っています。なんとなく考えはありますが、ここは具体的な戦略なので、今のところはこのくらいにとどめます。

筆者 応援してくれる皆さんに、何か伝えたいことはありますか?

和田氏 そうですね。YAPCやJPA絡みで「こんなことどう?」「こんなことやりたい」「手伝いたい!」とかあれば、気軽にTwitterなりなんなりで連絡くれると嬉しいですね。採用しないかもしれないけど、たくさんの人の意見を聞きたいので。


 今回の世代交代にあたり、和田氏に向けたメッセージを牧氏と櫛井氏から一言ずつもらった。

櫛井氏からのメッセージ
櫛井氏からのメッセージ 櫛井氏からのメッセージ
牧氏からのメッセージ 牧氏からのメッセージ

 期待どおりの回答だ。

 最後に、もう1つ紹介したいメッセージがある。「YAPC::Asia 2013」運営中に、さまざまな指示が飛び交っていたとき、牧氏から他のスタッフにLINEのグループメッセージで共有された言葉だ。

 異なる指示があるときは、櫛井さんの言うことが正解です。

 牧氏と櫛井氏のYAPCとは、つまりそういうことだ。共にここまでコミュニティを築きあげたパートナーをこれ以上ないほどに信頼し、次世代を率いる者を「自分たちの後継者」などとは思っていない。

 現在、多くのコミュニティではなかなか世代交代が進まず、主要メンバーの年齢が年々上がってきている。企業や他の組織でも、同様の課題があるのではないだろうか。今回の2人のYAPC引退発表は、一見強引で一方的なもののように見えた。しかし、これらのすべては計算しつくされたものであり、彼らの築き上げたYAPCらしさだったように思う。

 世代交代の、最善の選択とは何か。賢いやり方とは、何か。

「YAPC::Asia 2013」キックオフミーティング

 「See You Next At Your YAPC!!」(牧氏)。

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yapc4yapc5yapc6 ©JPA(右下)

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