年収1500万のエンジニアと800万円もかなわぬエンジニア。技術レベルが等しい2人の差はどこにあったのか―― ヘッドハンター歴20年のトップハンターが指南する、ヘッドハンティングされる人材とは?
最近、ITエンジニアのキャリアを考える上で実に興味深い転職事例がありました。Webエンジニアのキャリアが長い、2人のエンジニアのお話です。
Aさんは36歳。年収800万円以上を希望して転職活動をしていたのですが、なかなか転職先が決まりません。対して、同じく36歳のBさんは年収1500万円で将来の役員候補という破格のオファーがあり、すぐに転職が決まりました。
AさんとBさんは、いったい何が違ったのでしょうか。
Aさんは大手SIer(システムインテグレータ)のWeb関連部門プロマネ、Bさんは大手インターネット関連子会社の事業責任者です。エンジニアとしての技術レベルでは、両者にそれほど大きな差はありませんでした。違ったのは事業をつくった経験の有無です。Bさんは新規事業の立ち上げをリードし、成功に導いていました。売上高5億円で規模としては大きな事業ではありませんが、その経験が高く評価されたのです。
少し前にソーシャルゲームの会社がエンジニアを破格の年俸で採用するというニュースが騒がれましたが、例外的な事例に留まっています。実際、エンジニアに対して出されるオファーはスーパーエンジニアと呼ばれるような卓越した能力の持ち主でもない限り、月並みな水準に落ち着きます。しかし、そこに事業開発という経験と能力が加わった途端、一気に年収が跳ね上がるのです。
働くことの目的は給与を上げるだけではありませんが、給与の高さはそれだけ世の中に必要とされているという1つのバロメーターでもあります。高い給与で雇われ続けることは、エンジニアとしてのバリューが維持できていることの証明と言えます。そう考えると、AさんとBさんの両極端な事例はエンジニアとしてのバリューをいかにして維持し、高めていくかを考える上での良いヒントになるでしょう。
ITエンジニアは、人事や経理、営業といった職種に比べると非常に新しい職業です。とくにWebエンジニアの興りは、私の記憶では90年代後半からで、当時は「Webエンジニアが欲しい」とオーダーされても採用するのにとても苦労しました。そもそも、経験者がほとんどいなかったのですから当然です。
技術や環境が変化するスピードが速いのもこの分野の特徴で、他の職種から見るとびっくりするほどです。もし人事や営業の人が1年間休んで復帰しても、普通に仕事できると思います。しかし、ITエンジニアは無理です。いま一番人気のあるスマホ系のエンジニアリングも、1年後には古い技術になっているかもしれません。
従って、ITエンジニアは新しい技術をどんどん吸収し、変化に対応していける力が重要です。言い方を変えると、変化と戦い続ける力が大事なのです。求人企業の経営者と話をしても、「過去の栄光にすがるエンジニアが最も危ない」という意見は共通します。新しく出てくる技術に好奇心をもってアンテナを張り、目利きしながら「これは!」と思った世界に飛び込んで、その技術を吸収していけるかどうか。
そのときに必要となるのが「過去の栄光のリセット力」です。これだと思う技術が出たら、それまでに身に付けた技術は脇に置いてリセットし、なるべく早くキャッチアップする。それを繰り返せるかどうか。このサイクルを回していける人が、旬であり続けるエンジニアなのだと思います。
しかし35歳を過ぎた辺りから、リセットとキャッチアップの繰り返しがシンドくなってくるでしょう。40歳に近くなると「若い奴らにはかなわない」と感じる人も多くなると思います。でも、それはITエンジニアという職業の宿命であり、避けることはできません。そこでリセットとキャッチアップの繰り返しが厳しくなってきた人は、35歳以降のキャリアを現実的に考えなければなりません。
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