編集部 日本でアジャイルがなかなか浸透しない1つの理由も、そうした対話に基づく協働体制が不足していることにあるのでしょうか。
平鍋氏 そうですね。例えばIPA(情報処理推進機構)の調査「グローバル化を支えるIT人材確保・育成施策に関する調査 概要報告書」(2011年3月)によると、「IT技術者の所属先」が日本はユーザー企業が25%にとどまるのに対し、米国は72%です。これは米国に比べて、「ビジネスを考える人」と「システムを作る人」「システムを提供する人」が対話しやすい環境が圧倒的に少ないことを物語っています。
編集部 対話の場を作るためにはどうすればよいとお考えですか?
平鍋氏 やはり1つはエンジニアを積極的に雇用することです。日本企業もエンジニアを雇用していた時代がありましたが、1980年代後半辺りから、情報システム部門をシステム子会社という形で本体から切り離す動きが進んでしまった経緯があります。市場環境と自社のビジネスを見据えて、情報システム部門の在り方をあらためて見直す必要はあると思います。
また今後は、情報システム部門の役割が変わっていくと思います。情シスの人は「ビジネスを考える人」ですから、「作る人」と「提供する人」を、さらには「使う人」まで含めて「対話の場を作ること」が重要なミッションになってくると思います。
というのも、情シスの人は自社のビジネスをよく知っているはずなんです。自社はサービスとしてどのような価値を提供し、顧客は何を求め、何を喜ぶのか。あるいは、自社のユーザー部門はどこで一番苦労をしているのか。また、そうしたビジネスを支えてきたITシステムは、どのようなニーズに基づき、どのように発展してきたのか、自社ビジネスにおけるITの意義を知り抜いているはずです。ここを語って皆で共有し、システム開発と運用の在り方を変えていく必要があるのです。
この点で、たとえ委託開発によって「作る人」と「提供する人」が組織的に分断されていたとしても、それを対話の場で話すことによって、仕様書を読むだけでは伝わらないことを共有できる。システム開発・運用に当たるモチベーションも大きく変わってくるはずです。
従って、まずは対話の場を作り、「なぜ」このシステムが必要なのか、「なぜ」この運用管理体制が必要なのかといったように、「なぜ」の部分を共有することから始めると効果的かと思います。アジャイルを核に持つDevOpsにしても、「なぜDevOpsを実践する必要があるのか」「なぜ、このシステムはこのように開発・運用する必要があるのか」「なぜこうしたシステムを作ると顧客はもっと喜ぶのか」といったように考えて意見を交わす。運用視点から見た意見を求める。
エンドユーザー視点で要件をまとめる、アジャイル開発における「ユーザーストーリー」「ストーリーマップ」作り、そして最近出てきたユーザーよりも広い登場人物を視野に入れた「インパクトマップ」という計画地図作りなども、この「なぜ」の部分と開発・運用の一体感を作る良い方法だと思います。
参考リンク:Impact Mapping(アイティメディア オルタナティブ・ブログ)
ビジネスの先が読みにくい今、「プロセスのスピードアップ」という意味での、自動化ツールやプロセスに焦点を当てたDevOpsも確かに有効でしょう。しかし情報システム部門が「対話に基づく協働体制」を醸成しリードできれば、プロセスの効率化がビジネスの効率向上に直結する“真のDevOps”にもつながりやすいのではないでしょうか。
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