格安SIMカードでは、表「主要な格安SIMカードサービス」のようにさまざまなサービスや料金プランがある上、携帯電話会社のサービスとは異なる部分もある。そこで、格安SIMカードを購入・利用の際に注意すべきことをまとめてみた。
通信キャリアの新しいLTE契約では、フルスピードによるデータ通信容量をいくつかのプランから選択するようになっている。例えば、NTTドコモの場合、データSパック(2GB)、データMパック(5GB)、データLパック(8GB)の3種類から選択できる(家族で10GBから30GBの容量をシェアするプランもある)。格安SIMカードでは、表「主要な格安SIMカードサービス」のように500MB〜無制限といったデータ通信容量が限定されたサービスプランから自分の用途に合ったものを選択することになる(150kbps〜200kbps程度の低速のみのサービスプランもある)。この上限を超えると、データ転送速度が150kbpsや200kbpsといった低速に制限される。高速で通信できるデータ容量が少ないサービスプランでは、その分、月額利用料が安く設定されている。
筆者の場合、メールやFacebookのチェックやPodcastのダウンロードなどにスマホを利用しているが、自宅と会社ではWi-Fiを使うことから、LTEの利用は1日当たり30MBから50MBで済んでいる。1カ月なら1.5GB程度である。YouTubeなどをLTEで視聴したり、Wi-Fiを使わず常にLTEで利用したりするのでない限り、3GB程度のプランでも十分足りるだろう。
通信キャリアとは通常2年契約が前提となっており(いわゆる「2年縛り」)、2年契約の割引プランを購入して、途中でやめた場合には解約金が必要になる。一方、格安SIMカードの場合、データ通信専用プランならば年間契約などの縛りがないものがほとんどで、1カ月程度で解約することも可能だ。これならば、使い物にならないのであれば、利用をやめても初期費用+1カ月分の利用料で済ませることができる。なお音声通話プランは1年契約が一般的となっているので、契約条件などを事前によく確認しておこう。
NTTドコモではspモードメール、auではCメールと呼ばれているSMS(ショートメッセージサービス)は、多くの場合オプションとなっている。
最近では、LINEなどのオンラインサービスのアカウントを作成する際に、なりすましを防止する目的でSMSを利用した認証(SMS認証)を求められるようになっている。そのため、SMSが利用できないと、こうしたサービスが利用できず、困ることがある。SMS用の電話番号を作成して、SMS認証をパスする一種のメールサービスもあるが、なりすましを防ぐため、オンラインサービス側でこうしたサービスへの対策も行われているようだ。
必要であればこうしたSMSのオプション付き格安SIMカードを選択するとよい。SMS非対応からSMS対応に変更するには、SIMカードの有償交換が必要になるので、購入時にSMSの必要性を考慮した方がよい。なお、SMSの送信には1通3円ほどの料金が掛かる(受信は無料)。
またSMSが利用できると、アンテナピクト(電波の受信状態を示すアイコン)が正しく表示されないといった不具合が解消されたり、「セルスタンバイ問題」と呼ばれるスマホのバッテリ消費が激しくなる症状が改善したりすることもある。セルスタンバイ問題とは、スマホが音声通話とデータ通信の2種類の別々の電波を利用していることから発生するものだ。データ通信専用のSIMカードの場合、音声通話の電波が認識されないため、音声通話の電波を探す処理を繰り返し行ってしまい、バッテリ消費が激しくなってしまうという。SMSサービス付きのSIMカードでは、SMSが音声通話の電波を利用するため、この問題が解消され、バッテリ消費が抑えられるというわけだ。
現在、格安SIMカードが提供しているSIMサイズは、標準SIM(mini-SIM)、micro-SIM、nano-SIMの3種類ある(一部のサービスプランでは、nano-SIMが提供されていない場合もある)。これらのSIMカードは、サイズのみが異なり、機能は同じである。基本的に利用したい端末が採用するSIMサイズを選択すればよい。
ただ、2015年のスマホでは、nano-SIMを採用する機種が増えてきており、今後端末を買い替えた際には、その端末がnano-SIMを採用している可能性が高くなる。micro-SIMを購入してしまった場合、端末の買い替えに際して、SIMカードのサイズを変更してもらわなければ、新端末に装着できない。
そこで端末を買い替えた際にSIMサイズを変更しなくても済むように、たとえmicro-SIMを採用する端末を利用する場合であってもnano-SIMを選択しておくとよい。前述の通り、micro-SIMとnano-SIMの機能は同じなので、アダプターを使うことでnano-SIMであっても、micro-SIMの端末に入れて使うことができる(詳細は「Tech TIPS:格安SIMのSIMサイズにnano-SIMを選んでおく理由」参照のこと)。ただ、海外などでSIMカードを交換することが多いような人は、端末とSIMカードサイズが異なると抜き・差しが面倒になるので、端末に合わせてSIMカードのサイズを選んだ方がよいだろう。
通信回線はNTTドコモやauであっても、これら携帯電話会社のメール(キャリアメール:NTTドコモのiモードメール、spモードメール、ドコモメール、auのEZwebメール)は当然ながら利用できない。現在利用しているメールアドレスを移行することもできないので、格安SIMカードではGmailやYahoo!メールなどを利用することになる。キャリアメールしか使えなかったり、何らかの理由でキャリアメールが必須だったりする場合は、格安SIMカードは使えないことになるので注意してほしい。
格安SIMカードの場合、テザリングが利用できないことがある。格安SIMカードを利用してタブレットなどをスマホのテザリングで接続したいと考えているような場合は、テザリングが可能かどうか事前に確認した方がよい。
NTTドコモが販売しているスマホの多くは、テザリングを有効にするとAPN(後述)が強制的に「dcmtrg.ne.jp」に切り替わってしまう。そのため格安SIMカードの場合、テザリングが行えないので注意が必要だ(機種によっては、「adb shell」コマンドを使ってテザリングを有効にすることも可能だが、失敗すると接続できなくなる可能性もあるので、詳しい人以外にはおすすめしない)。なおiPhoneの場合は、NTTドコモ版でもテザリングが可能である。
携帯電話会社では、インターネットサービスとセットで割引があったり、家族割や家族間の通話が無料になったり、学割があったりとさまざまな割引サービスがある。格安SIMカードにはこうした割引サービスがないため、格安SIMカードを使うことで、逆に家族全体の通信料金が増えてしまう場合もある。携帯電話会社の割引サービスを考慮して、さらに複数年での通信料金を比較してから格安SIMカードの導入を決めた方がよい。
音声通話をサポートした格安SIMカードでは、MNP(番号ポータビリティ)によって同じ電話番号が利用できる。通話料は30秒20円と、NTTドコモの割引のない通話料と同じになっている。そのため、通話(送話)が多い人は、カケホーダイのある携帯電話会社のプランの方が結果的に安くなることもある。
なお格安SIMカードを使っていて通話の多い人は、楽天コミュニケーションズの「楽天でんわ」を始め、ビッグローブの「BIGLOBEでんわ」、U-NEXTの「U-CALL」、IIJの「みおふぉんダイアル」、フリーテルの「通話料いきなり半額」、G-Callなどの通話料を割り引くサービスを利用するとよい。いずれもスマホアプリを使って電話を掛けることで、通話料が30秒10円になるサービスだ(発信先の電話番号の前に特定の番号を付けて電話することで通話料が割引となるサービスで、事前にサービス利用の登録が必要)。これらのサービスでは、発信者の電話番号が変わらないので、通常のスマホから音声通話と同様に使うことが可能だ。
送話の際の電話番号が変更になってもいいのであれば、「050 plus」や「SMARTalk」などのIP電話(050で始まる電話番号)を利用すれば、より通話料を下げることが可能だ。なおIP電話ならば、音声通話をサポートしていないデータ通信専用の格安SIMカードでも通話が可能となる。
特にau系のMVNOを選択した場合、3G通話でCDMA2000方式を採用していることから、利用できるSIMフリー端末が限られる(多くのSIMフリー端末は、3G通話にW-CDMAを採用しているため)。基本的にau向けの端末に限られ、NTTドコモ、ソフトバンクなどの端末は原則利用できない。多くのSIMフリースマホもNTTドコモの通信回線に対応したものが多く、au系のMVNOでは利用できないので注意が必要だ。
また、iPhoneも「iOS 8以降では利用できない」とされているので、注意が必要だ(「iPhoneは格安SIMカードで利用できるの? できないの? 」参照のこと)。すでにauのスマホを利用しており、これを格安SIMカードに置き換えたいというような場合や、auのみが提供しているスマホをどうしても使いたいといった場合には、auのMVNOを選択するとよい。
格安SIMカード利用するには、基本的に端末を自分で用意する必要がある。だが最近ではISPや量販店などがスマホをセットにしたプランも用意しており、こうしたプランを選択すれば、手間が掛からない上に端末を分割払いで購入できる。ただ選択できる端末の種類はそれほど多くないので、使いたい端末がない場合はやはり別途自分で用意する必要がある。
このところグーグルのNexus 5X/6P、アップルのiPhone 6s/6s Plus、ASUSのZenFone 2 Laserなど、「SIMロックフリー(SIMフリー)」と呼ばれるさまざまな携帯電話会社のSIMカードが利用できる端末が増えている。こうした端末を利用するのも一つの手である。ただ注意が必要なのは、安価なSIMフリー端末の多くは性能が低く(LTEに非対応など)、十分に活用できない可能性もあることだ(コラム「買ってはいけないLCCスマホ」参照)。
通信キャリアが提供するスマホは高機能なものが多く、ワンセグ(フルセグ対応のスマホもある)やFelica/NFC(おサイフケータイ機能)、高性能なカメラなどが搭載されているが、SIMフリー端末ではこうした機能がないものがほとんどである。しかし前述の通り格安SIMカードは、実際にはNTTドコモやauの通信回線を使うため、格安SIMカードが利用する携帯電話会社のスマホならばほぼ利用可能だ。
auのMVNOであるmineo/UQ mobileでは、原稿執筆時点においてiOS 8以降のiPhone 5c/5sでは利用できないとしている(ケイ・オプティコムのお知らせ「iOS 9.1での動作確認結果のお知らせ」)。このように端末との組み合わせによっては、不具合が生じることがあるので、事前に各MVNOのホームページで動作確認済み端末一覧(互換性リスト)などを確認しておくとよい。
なお携帯電話会社のショップでは、通信回線込みの端末しか購入できない。格安SIMカードを利用するには、一般に「白ロム」と呼ばれている端末か、SIMフリーの端末を購入する必要がある。白ロムの端末は、白ロムを販売している販売店やオークションサイトなどで購入できる。購入したい機種が決まっている場合は、検索サイトで「白ロム <機種名>」と検索すれば、購入できる販売店を見つけられるだろう。
白ロムの端末を購入する場合に気を付けたいのが、割賦残債(ローン)が残っているものを購入しないようにすることだ。携帯電話会社の「端末実質0円」といった割引サービスは、端末を分割で購入し、その支払い分を月額利用料から割り引くものだ。そのため実際にはローンで購入していることになり、途中解約するとローンが残った状態になる。このローン残高を支払わない状態で売却された端末を使っていると、通信制限がかかって、通信できなくなってしまう場合がある。白ロム端末の販売店で、「割賦残債あり(ネットワーク利用制限サイト△)」などと表記されているのは、そうした端末なので安くても購入は避けた方がよい。また、オークションサイトなどではこうした端末が販売されているケースもあるようなので、よく確認すること。なお利用制限が行われているかどうかは、以下の携帯電話会社のWebページで端末の製造番号などを入力することで確認できる。
格安SIMカードが一般的になったためか、量販店などで2万円程度の安価なSIMフリースマホが販売されるようになってきた。手軽に購入可能で、場合によっては同時に購入した格安SIMカードを入れてすぐに使えるようにしてくれるサービスもあるなど、格安SIMカード導入のハードルが下がってきている。ちなみに、安価なSIMフリースマホと格安SIMカードの組み合わせは、航空会社のローコストキャリア(LCC)にちなんで「LCCスマホ」などと呼ばれている。
しかし、このLCCスマホだが、実は気を付けるべきことがある。それは組み合わされるSIMフリースマホの多くが、性能面において制約があるということだ。それを理解した上で購入するのであれば問題ないが、知らずに購入して結局、使い物にならないのではむしろ高い買い物になってしまう。例えば、ある量販店が販売している比較的上位機種のLCCスマホの仕様を見てみよう。
LCCスマホ | Xperia Z5 Compact | |
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OS | Android 5.1 | Android 5.1 |
プロセッサー | クアッドコア 1.0GHz | Qualcomm MSM8994オクタコア 2GHz(クアッドコア) + 1.5GHz(クアッドコア) |
メモリ | RAM:1GB/ROM:8GB | RAM:2GB/ROM:32GB |
バッテリ | 2100mAh | 2700mAh |
ディスプレー | 4.5インチ(854×480ピクセル) | 約 4.6インチ(1280×720ピクセル) |
LCCスマホと2015-2016年冬春モデルとの仕様比較 |
全ての項目において、2015-2016年冬春モデルのXperia Z5 Compactよりも見劣りしていることが分かる。特にRAMとROMの部分は、格安スマホのほとんどが容量をケチっている。そのため、アプリによってはメモリが足りずに起動できなかったり、作業の途中でメモリ不足などで異常終了してしまったりする。ROM(パソコンのハードディスクに相当するストレージ)は、microSIMを差して増やすことも可能だが、内蔵ROMにしかインストールできないアプリも多く存在し、使いたいアプリがROMの容量不足でインストールできなかったり、アップデートができなくなったり、といったことに悩まされることになる。経験的に、RAMは2GB以上、ROMは16GB以上ほしいところだ。
ただ、メールやWebブラウザー程度しか使わないといったように、限定されたアプリのみの利用を考えているのであれば、格安スマホでも十分に機能するだろう。
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