それでは、新興Eコマースサイトがどのような努力を続けているか、Webサービス上から見えるコンテンツに含まれるURLからひも解いていきましょう。
この解析ではESTY、zulily、FABという3社のEコマースサイトを分析し、最も多く含まれるURL成分を抽出してドメイン別に上位からまとめ、「コンテンツがどこから提供されているか」を調べました。結論からいえば、3社とも、多くのコンテンツをCDN(Content Delivery Network:コンテンツ配信ネットワーク)から配信しており、Eコマースの認証や決済などのプロセスとは明確に分離していることが分かりました(図6)。
弊社でも、顧客向けのEコマースサイトのコンテンツはCDNを通じて提供しています。CDNの採用は、Eコマースにおける常とう手段の1つといってもよいでしょう。
しかし、今回調査した3社はそれぞれ異なったCDNを形成しており、その特徴はとても興味深いものでした。
ETSYは、複数のCDN事業者を通じてEコマースサイトのコンテンツ提供を行っており、システムの冗長化やコストの観点からよく考えられているシステム構成であることが伺えます。
zulilyはさらに進んで、自社で世界各国のシステム設備を契約し、独自のCDNを形成していることが伺えます。かなり野心的な試みであり、これを設計運用するシステムエンジニアのスキルの高さも脳裏に浮かびます。
FABは一転、1社のクラウド(Amazon Web Service)を使っており、三社三様の異なる取り組みが浮き上がってきました。
いずれにしても、突発的に大量アクセスが起こり得る環境の新興Eコマースサイトでは、クラウドやCDNの活用が必然的に求められていると感じられます。
しかし一口にCDNを活用するといっても、その構成を理解するのは一筋縄ではいきません。
下記はETSYのWebサイトのDNSリクエストを解析した結果です(図7)。ご覧のように1つのWebサイトを複数のCDN事業者に分割してドメイン管理を行っており、各事業者のコンテンツ配信サーバは、さらにそこから細分化されていることが見てとれます。
世界各国から大量のアクセスが集中するEコマースサイトでは、CDNを活用した物量による「力技」でトップページを保護しており、自社設備で全てを賄っている中小規模のEコマースサイトとは明らかに違うシステム構成を採っているのです。
突発的な大量アクセスが起こる可能性のあるEコマースサイトを運用する場合、Webサービス上で、最悪の事態を想定したキャパシティプランニングとバックアッププランを持っておくことが重要なのです。
次に、国内Eコマースサイト1社当たりの売上/流通総額の推計とIT設備投資の相関関係について見ていきましょう(図8)。
日本国内におけるEコマースサイトは、製造業/製造小売業による直販ECサイトと、小売業によるECサイトの2つに分類できます。商品を購入するユーザーにとっては違いはありませんが、売上/流通総額とIT設備投資の「体力」に違いがあるのです。
Eコマースサイトを自社設備で設計/構築/運用する場合、必然的に売上に応じたコスト構造を採ることになります。
ある程度大きな商品流通が行えているEコマースサイトであれば、IT設備や人材への投資も比較的柔軟に行えますが、中小規模の流通総額の企業や、本業とは異なる分野で投資を抑え気味の企業では、前述の突発的な大量アクセスに耐えられるだけのEコマースサイトを持つのは厳しい状況が見てとれます。
弊社調べではありますが、中小規模の製造業・製造小売業が持つ直販系ECサイトの多くが自社IT設備によって運用されており、システムという観点で見ると、新興Eコマース事業者や大手Eコマース事業者と大きな乖離(かいり)が起きていると感じています。Eコマース市場全体から見ても、機会損失の観点から、少々もったいない状況であると感じます。
Eコマースサイトに限らず、最近の新興Webサービス事業者では、IT設備の有効活用と最適化という観点からクラウドの特性をしっかりと理解し、上手にシステム設計と構築/運用に生かそうという流れが最近生まれてきました。
下記は米RACKSPACEが提唱するハイブリッドクラウドの利用例です。基本的性能のIT設備はしっかりと確保しつつ、ユーザー動向によって左右されるワークロードはパブリッククラウドを活用して最適化する構成が北米では一般的になりつつあります(図9)。
筆者は、全てのEコマースサイトがCDNやクラウド環境によって最適化する必要性があるとは感じていません。しかしEコマース市場全体を考えた場合、「必要な時、必要なだけ、必要なものが手に入る環境」をユーザーへ適切に提供することは、各事業者がしっかりと取り組むべき大切な課題であると感じています。
さて、次回もEコマースを取り巻くさまざまな環境変化や、それを支えるビジネスモデル・最新技術動向について見ていきます。ご期待ください。
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