AWSは、「エンタープライズ」とどうつき合っていくのかアダム・セリプスキー氏に聞いた

Amazon Web Services(AWS)は、サービスのカスタマイズを行うことはない。だが一方で、エンタープライズ顧客に対しては、サービスの評価や使い方に関する支援を大幅に強化してきた。同社のエンタープライズ戦略の現在を聞いた。

» 2014年02月03日 17時41分 公開
[三木 泉,@IT]

 Amazon Web Services(AWS)のビジネスの前提は、個人、新興企業、歴史ある企業、公共機関を問わず、共通のコンピューティングニーズがあり、このニーズに対して標準化されたサービスを提供するということだ。一方で、一般企業や公共機関といった、いわゆる「エンタープライズ」に対して、さまざまな取り組みを進めている。こうした取り組みに関する、アマゾン Amazon Web Services担当副社長のアダム・セリプスキー(Adam Selipsky)氏へのインタビューの一部をお届けする。このインタビューは12月12日、同社が中国リージョンの開設を発表する約1週間前に行った。

――エドワード・スノーデン氏が暴露した米国家安全保障局(NSA)の情報収集活動の件で、クラウドサービスのビジネスに悪影響を受けていないのか。

 正直にいって、顧客からそうした質問が出ることはあるが、当社のビジネスは影響を受けていない。

 企業は、さまざまな要素を必要としている。何にもまして高いセキュリティと信頼性を求める。だが、その一方でデータセンターのハードウェア、ソフトウェアに関し、高いマージンをとってきた既存のITベンダに対する支払いを減らしたいと考える。また、スピードや俊敏性を手に入れ、スタートアップ企業と同様にイノベーションを起こしたいと思っている。

 分散システムにおけるエンジニアリングノウハウ、そして顧客への集中、恒常的なイノベーションおよびコストダウンといった企業文化など、アマゾンが持っている機能が、企業に上記のすべてをもたらす。企業はこうしたメリットを理解し、クラウドコンピューティングを採用してくれている。

――AWSは現在、エンタープライズに対してどのような取り組みを進めているのか。

 エンタープライズ向け戦略としてはいくつかある。1つは既存サービスで新機能を提供すること。例えば最近発表したものでいえば、C3などのEC2インスタンスの追加だ。

Amazon Web Services担当副社長のアダム・セリプスキー氏

 もう1つは完全に新しいサービスの提供だ。その一部は(インフラよりも)高いレイヤに属する。例えば過去2、3年で、企業からのリクエストが最も多かったのは、仮想デスクトップだった。新たなモバイル機器が普及する中でのデスクトップの管理は、企業の情報システム部門にとって、非常に複雑でコストが掛かるからだ。そこで2013年11月に、Amazon Workspacesを発表した。

 また、企業顧客はすべて、今後長期間にわたり、ハイブリッド環境を運用していくだろうと認識している。これを複数のインフラではなく、単一のインフラであるかのように扱えなければならない。このため、ワークロードの移行を容易にしていく。これについては、すでに多くの機能を提供してきたが、少なくとも今後2、3年はさらに強化していくつもりだ。また、ハイブリッド環境でのワークロード管理を容易にしていく。「あるアプリケーションが社内で、別のアプリケーションがクラウド」というケースに加え、「単一のアプリケーションがクラウドと社内にまたがる」というケースにも対応していく。

 一方、世界中で、新リージョンを継続的に増やしていく。多くの企業顧客から、複数リージョンを使いたいという要望を頻繁に受けている。日本の顧客からも、東京だけでなく、オーストラリア、シンガポール、米国、欧州などを使いたいといわれている。

 また、世界中でフィールドチームの拡大を続けていく。アカウントマネージャ、ソリューションアーキテクト、パートナーアライアンスマネージャ、サポートチームなどを増やす。大規模顧客が求める、当社との深い個別的な関係を築けるようにしている。

――企業における新しいアプリケーションの構築ニーズにはどう応えていくのか。

 既存アプリケーションの移行と、クラウド上にネイティブに構築される、新しいアプリケーションの両方が重要だと考えている。顧客は素晴らしいイノベーションを生み出している。それは当社が予測したり、事前に知識を得たりできるものではない。そこで当社は、柔軟性の提供に徹することをモットーにしてきた。重要なのは選択肢を増やすことであり、これを減らすことではない。かなり初期の時点で、AWSでは「ペアレンタルコントロール」(この文脈では過保護な機能)を組み込まないように決めた。顧客ができること、できないことについて、選択肢を狭めることはできない。そこで意図的に、柔軟な、水平的な、中立的なクラウドインフラをつくった。その結果として、さまざまな顧客があらゆるユースケースを生み出してくれている。

 すなわち、エンタープライズ戦略という観点でいえば、究極の柔軟性をもたらすプリミティブを提供する一方、インフラの細かい部分に関わりたくない顧客のためにさらに高いレベルの抽象度を提供することを目指している。顧客がそれぞれ、どちらかを選べるようにしている。このことで、われわれは顧客がAWS上でどんなアプリケーションをつくりたいかを予測しないで済む。

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