新型うつは、本当に病なのか?―― 若手のメンタル不調、特に新型うつと呼ばれる症状が近年増加傾向にある。本連載では、新型うつの特徴や予防法、そして身近な人が症状を見せたときの対応法などを、メンタルヘルス研修の草分け的な存在であり、職場復帰支援などの現場で同症状と向き合ってきた見波利幸氏に解説いただく。
近年、企業内のメンタルヘルス不調者は増加の一途をたどり、中でも若年層の不調者が以前よりも急増している印象があります。事実、筆者がカウンセリングや職場復帰支援をしている企業では、完全に逆転現象が起きています。逆転現象というのは、不調者の年齢的な割合の変化です。
その企業では数年前まで、メンタルヘルス不調者の主な年齢層は30歳代、40歳代が中心で、およそ7割程度を占めていました。残りの1割が50歳代、2割が20歳代という割合でした。しかし3〜4年ほど前から20歳代の不調者が急増し、今は20歳代だけで5割、30歳代前半までで7割を占めるなど、若年層の逆転現象が起こっています。この事象は他の多くの企業でも起こっているらしく、同じような現象を聞くことが多くなりました。
しかし、この若年層の不調者は、今までの不調者と比べるとそこまで病態が深刻ではないように見えることがあります。中には退社後に飲みに行ったり、週末には遊びに行ったりする人もおり、そんな姿を見て、「ただのわがままではないのか」「病気ではないのではないか」というように周囲が感じるケースも少なくありません。いわゆる「新型うつ」や「現代型うつ」などと呼ばれている病態です。この病態の多くは、本人だけの問題ではなく、職場全体に支障を及ぼします。
詳しい病態の理解やアプローチに関しては、拙著『新型うつな人々』(日本経済新聞出版社刊)、『わが子を新型うつにしないために』(ビジネス社刊)を参考にしてください。ここでは連載を通して、主に不調になりやすい20〜30歳代の皆さんに、自分や周囲が不調になったときにでき得るアプローチを中心にお伝えしていきます。
筆者は、研修や講演、カウンセリングや相談対応、職場復帰支援などを通して、人事や産業保健スタッフ、および管理監督者からさまざまな声を頂く機会が多いのですが、若年層の不調者に対しては、次のような声を多く聞きます。
このような言動から、周囲に「ただ怠けているだけだ」「本人の問題だ」と片付けられてしまうこともあります。その一方、残された職場では、仕事が滞ってしまったり、人間関係で支障が生じて周囲が困惑し、悲鳴を上げている例が実は多いのです。
それでは、具体的に職場で何が困るのか、何が問題となるのかを詳しく見ていきましょう。
新型うつに見られる病態には、「抗うつ薬が効きにくい」という特徴があります。言い換えれば、「医学的なアプローチが限定的である」ということです。従来型のうつと比べて、薬では治りにくく、回復傾向が見えにくい、長期にわたりやすいという問題があります。具体的によくあるケースを紹介します。
休職してしばらく経ちある程度症状がなくなると、復帰日を決めることになります。例えば「2週間後に時短出社からスタートしましょう」というように。しかし、その日が近づくとまた症状が悪化し、復帰日を伸ばしたいと連絡してくる。それでは「1カ月後にしましょう」と決めると、その期間は症状が徐々に良くなりますが、復帰日が近づくとまた症状が悪化し、また復帰日を伸ばすということを繰り返すケースです。
いったん復帰するものの、数カ月や数週間で症状が再燃・悪化し、再休職となる。それを何度も繰り返しているケースもあります。この場合、再休職に至る期間でも、週に1日程度休んでいることも少なくありません。
このように、復帰日をだらだらと延ばしたり、復帰してもいつまた再休職してしまうか分からなかったり、頻繁に休んでしまったりといった勤務状況では、シフトに組み込めない、重要な仕事をアサインできない、任せられないという事態が起こり、実質的には戦力外になってしまうことが多いのです。
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