上記のような勤務状況やパフォーマンスが得られない、いわゆる戦力外社員を抱えている職場では、周囲のメンバーがその人の分の仕事をカバーしなければならなくなります。しかし余剰人員を抱えている職場はほとんどなく、ギリギリの人員でこなしているのが実情でしょう。
そのような状況の中で、自分たちが不調者の分の仕事をカバーしなければならなくなると、割りを食った被害者的な意識も生じやすくなります。
また、その状態を放置している上司や会社にも不満が向けられます。
「なぜ、このような勤務態度の社員に対して、会社は適切に指導しないのか」
「自分たちが大変な状況になっていることを、上司は理解しているのか」
「なぜ会社は、戦力外社員の人数を考慮しないで業績管理するのか」
このように他のメンバーから、事態を放置している(ように見える)のは上司のマネジメント能力の無さと映り、上司との信頼関係が崩れることも起こり得るのです。上司も、実際に診断書が出ているからと、「厳しく指導できない」「どのように対応したら良いのか分からない」と判断を保留してしまい、状況に拍車が掛かることもあります。
不調の本人と上司との関係だけではなく、それに起因して周囲のメンバーと上司との人間関係にも支障を及ぼすという問題があるのです。
もちろん、不調者本人と上司との人間関係も大きな問題を有しています。
例えば、不調者が「仕事がうまく進まない」という状況に直面したとします。従来型のうつの特徴は、「自分に能力がないからだ」と自分を責める感情があることですが、新型うつの場合は他罰的な特徴がありますので、次のように上司を責めることがあります。
「人に聞かなければ進められない仕事を、指示する上司が悪い」
「自分のスキルに見合わない仕事を、指示する上司が悪い」
「相談したのに、真剣に聴いてくれなかった上司が悪い」
「自分が困っている時に、サポートしてくれなかった上司が悪い」
上司の一言で致命的な関係になることもあります。「こんなことも分からないの?」「自分で少し考えてよ」「少し調べてから、聞きに来てよ」などと上司に言われて、「もう二度とこの人には聞けない」「こんな人と口をききたくない」と完全に関係を断ってしまう不調者も実は多いのです。
不調者の自尊心や自己愛が強く、「自分の能力のなさ」「惨めな自分」を認めたくないと、上司への攻撃が加速することにもなります。また、体調のせいにして休めば、惨めな自分に向き合わずに済むため、慢性化、長期化しやすいといえるのではないでしょうか。
「他者配慮性のなさ」「自己中心性」「他罰的傾向」などが感じられれば、周囲にはその人の「社会性のなさ」「未熟さ」として映りますので、周囲との人間関係が破綻しやすくなり、孤立化が進みます。
本人も「仕事をやる意義、働きがいを感じない」「仕事を通して自分の成長を感じない」「帰属意識が薄れる」「会社に居る意味がなくなる」など、自己肯定感の低下を引き起こして、人生や将来に対して期待が持てなくなるため、病態の長期化、悪化につながりやすくなります。
そして、これは決して個人だけの問題ではなく、前述のように職場全体にも大きな支障を及ぼし得る問題でもあるのです。職場を管理する立場にある人は、まずはこうした問題を正しく認識することが大切です。
次回(4月上旬掲載予定)は、従来型うつとの違いや合併症など「新型うつの病態での問題性」について、次々回(5月掲載予定)は、これらの問題への対応法を解説します。
エディフィストラーニング マネジメント/ビジネススキル トレーニング担当講師。
外資系コンピュータメーカーなどを経て、98年に野村総合研究所入社。メンタルヘルス研修の他、カウンセリングや職場復帰支援、カウンセラー養成の実技指導、海外でのメンタルヘルス活動など、多岐に渡る活動を行っている。
日本産業ストレス学会正会員、日本産業カウンセリング学会正会員、日本産業カウンセラー協会正会員(シニア産業カウンセラー、キャリアコンサルタント)他。
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