プライベートクラウド環境のデータ管理に必要な「3つの視点」プライベートクラウドをめぐる誤解(2)(2/2 ページ)

» 2014年03月27日 19時00分 公開
[三木泉@IT]
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(1)データアクセスパフォーマンスとコストについて、考えるべきこと

 データアクセスパフォーマンス関連では、フラッシュメモリが高速記憶媒体として急速に注目度を高め、導入も広がりつつある。企業では、「オールフラッシュストレージ」と呼ばれる、フラッシュ媒体のみを記憶媒体に用いたストレージ装置の利用が一部で進んでいる。

 オールフラッシュストレージはこれまで、データベース処理の高速化のために導入されるケースが多かった。データベースではストレージI/Oが性能に大きく影響することが知られている。そこで、性能上のボトルネックを解消するために、データベース専用にフラッシュストレージ装置、あるいはフラッシュを用いたストレージとサーバーの一体型製品を導入するケースが見られる。

 このように、オールフラッシュストレージをデータベース専用アプライアンスとして利用するのは、管理・運用面で分かりやすいというメリットがある。分かりやすさは何物にも代えがたく、今後こうした形でのオールフラッシュストレージの利用は、さらに進んでいくだろう。ただし、フラッシュ媒体はHDDに比べてまだまだコスト高だ。このためフラッシュ媒体を、単一のアプリケーションに独占させるのではなく、複数のアプリケーション間で共用することにって、コスト効率の向上を図るという選択肢がある。これは、プライベートクラウドとデータアクセスパフォーマンスの関係を象徴するトピックの1つだ。

 すなわち、共用ストレージ基盤に、フラッシュをはじめとする性能の異なる複数の記憶媒体を搭載し、あらゆるアプリケーションが利用できる「ストレージ性能資源のかたまり」(「ストレージプール」などと呼ばれる)を構成し、個々のアプリケーションのデータニーズに応じてこのストレージ性能資源を最適配分する。このことで、全体的なデータアクセスパフォーマンスを改善できる。

 データアクセスパフォーマンスの最適化に関しては、ストレージ単体で実現される機能と、ストレージとクラウド基盤との連携で実現される機能の2通りがある。

 ストレージ単体で実現される機能の例は、自動階層化だ。従来型のストレージ装置に、キャッシュあるいは記憶領域としてSSD/フラッシュモジュールを装着するケースが増えている。SSD/フラッシュ以外にも、企業向けストレージでは、SAS、ニアラインSAS、SATAといった複数タイプのHDDを搭載できる。一部のストレージ製品では、データの利用頻度などを条件として、これら複数の記憶媒体間でデータを自動的に再配置できる。記憶媒体の種類の他に、異なるRAID構成間で、自動再配置を行える製品がある。

 また、より直接的にアプリケーションの種類を認識し、これに応じてストレージリソースを配分するストレージ装置も登場してきている。

 一方、VMware vSphereの「Storage I/O Control」などのように、クラウドプラットフォームがストレージ装置と連携し、アプリケーションの重要度に応じて、ストレージのI/Oリソースを自動配分する機能も出てきている。

 繰り返しになるが、高速で高価なハードウェアを、特定のアプリケーション/データに割り当てられるのであれば、運用担当者はそのアプリケーションの性能管理に関して面倒なことを考えずに済むため楽だ。だが、コスト効率がIT運用における重要なテーマになっているのであれば、リソースを共用化し、必要に応じて最適配分を行えることが求められる。リソースを共用化する場合でも、できるだけ運用担当者が面倒なことを考えなくて済むような自動化・自律化が望ましい。

 逆に、要求性能が低いデータ、アクセス頻度が非常に低いデータに関しては、コスト効率を積極的に追求できるよう、複数のストレージ装置にまたがる自動階層化がやりやすくなることも望ましい。一部のストレージ仮想化製品は、この機能を持っているが、「Software-Defined Storage」などという表現に関連して、こうした機能の強化がさらに進む傾向にある。

(2)データセキュリティ

 セキュリティについては、データセキュリティとアプリケーションセキュリティの双方を、仮想化統合/プライベートクラウドに関連して改善できる可能性がある。基本的には、これまでのばらばらなアプリケーション/データ運用を極力集約するとともに、できるだけ統合的な対策を講じる可能性を模索する必要がある。統合的な認証/アクセス権管理もその1つだ。

 データが社内、あるいは社内と安全に接続された独立データセンターに存在しているということは、セキュリティ上有利だ。だが、それだけでは十分でなくなってきているのも現実だ。だからこそ、少なくとも重要なアプリケーション/データを把握し、その上でそれぞれに必要な対策を取る必要がある。

(3)データ/システム保全

 データ/システム保全および災害復旧も、仮想化環境/プライベートクラウドの導入・展開の重要な動機になる。アプリケーション単位でばらばらな手法や製品、保管先で運用されてきたバックアップあるいはデータ保護手法を、できるだけ統合運用に近付けていくことで、効率の向上と確実な運用を目指すことが可能だ。

 仮想化環境で従来のバックアップ手法が使えず(あるいは使いにくく)、これが運用上の課題になるといわれることがある。運用を変えなければならないのは確かに負担が大きい。だが、仮想化統合/プライベートクラウドへの移行は、これまでのバックアップ運用の課題を解決するチャンスでもある。基本的には、標準化、共通化、統合化、そして自動化を進めることで、データ/システム保全についても改善が可能だ。

 特に災害復旧に関しては、これまで業務システムごとに実施していた対策を、仮想化に基づく仕組みに集約・統合することで、コスト効率を上げながら保護対象を広げられる余地がある。

 より具体的には、バックアップ先を統合することが考えられる。バックアップと復旧の時間短縮を考えると、バックアップ媒体としてはHDDが望ましいが、バックアップストレージは、重複除外などの機能によって容量単価についてはある程度低減できるが、初期導入コストが高いという難点がある。バックアップ先の統合により、複数のアプリケーション/データによってバックアップストレージを共用することで、コスト効率を高められる。

 バックアップ先の統合を進めながらも、その1つとして、クラウドストレージサービスを適材適所で活用していくことが考えられる。クラウドへの直接バックアップを可能としたバックアップ製品が存在しており、

 また、システム(OS/アプリケーション)については、物理マシン上のものであっても、仮想マシン形式でバックアップしておくことで、復旧手順が大幅に簡素化でき、復旧に要する時間も短縮できる。

 バックアップ運用の統合も1つのテーマとなる。バックアップ製品の中には、バックアップ作業を統合的に監視・管理できる一方で、復旧などについてはアプリケーション/データ単位でそれぞれの担当者が実行できるようにしたものが登場している。このように、統合を図りながらも、各アプリケーションの担当者が自分の担当するアプリケーションについては確実にコントロールできるような仕組みを作っていくことが望ましい。

3つの視点と「運用」の効率化

 今回は、「データ管理」を軸に、3つの視点からプライベートクラウド環境における効率・使い勝手を高めるために検討すべき要素を解説した。

 最も重要なポイントは、企業の情報システム部門において、上記のデータ管理を実現するための、日常の運用作業が複雑化してはならないということにある。もともとプライベートクラウドが実現できるようになってきた背景には、ITインフラ製品個々の自動化・自律化が進み、さらにこれらをまとめ上げる技術が進化したことにある。情報システム部門はこうした技術の進化を生かし、極力、細かな運用作業よりも運用方針を徹底することに力を注ぎたい。プライベートクラウド構築で利用する製品を選択する際には、管理作業を抽象化する機能が、どのように備わっているかを確認すべきだと考える。


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