ビジネスの「統計命題化」だけがビッグデータの意味ではない。ビッグデータで何を分析すればいいのかと悩んでしまう場合は、ビジネスあるいはビジネスプロセスの一部の「IT命題化」という、より広い概念で考えたい。
ビッグデータに関する理解は進みつつあるものの、「何を統計分析すればいいのか分からない」といったとまどいの声も聞こえてくる。実際には、ビッグデータというテーマにおいて統計分析は非常に重要ではあるものの、高度な統計分析だけがすべてではない。
ビッグデータが大きな話題になり始めたころ広く読まれ、多くの人々が引用していたのが「Big data: The next frontier for innovation, competition, and productivity」(McKinsey Global Institute, June 2011)というマッキンゼーの論文だ。革新的なデータの活用が、小売業やネットサービス産業だけでなく、あらゆる産業における、生産性の飛躍的な向上と新たな付加価値の創出につながろうとしているという観点で書かれており、いま読んでも興味深い。
この論文は冒頭に近い部分で、「われわれは、ビッグデータの活用について、広く適用可能な5つの方法を見出した。これらは価値を創造し、今後の組織の設計、構成、管理に関する示唆を与える進化に向けたポテンシャルを示している」と述べ、以下の5つを指摘している(各項目については筆者が要約した)。
この5つには、見逃されがちなポイントが隠されている。最初と最後の項目は、統計分析といえるほどのことをやらないとしても、「ビッグデータ」の恩恵を受けられる可能性があることを示している。また、2番目の項目では、過去のデータに関する統計分析をするだけでなく、仮説に基づいて何らかのアクションを行い、その効果を検証するというサイクルを回していくことが重要だということを示唆している。
それでも「うちの産業には、ビッグデータなんか関係ない」という読者には、ビッグデータの代わりに、「事業自体、あるいは事業にかかわるプロセスの一部のIT命題化」というテーマを、頭の体操として考えることをお勧めしたい。
例えば、長年事業にたずさわってきたベテランであっても、その人の勘がすべて正しいのか、あるいはそうした人の勘にどこまで頼れるのか。あるいは逆に、若手社員のフレッシュな提案が、どれくらいビジネスに貢献するのか。新たな製品やサービスや、その推進にかかわる個々の活動は、何が成功につながり、何が失敗につながったのか。1つ1つの活動を検証し、成功要因を別の取り組みに生かす一方で、同じ過ちを繰り返さないようにできれば、事業リスクの低減につながる。
儲けに直結することがビッグデータだと思い込んでいる人は、「それはビッグデータではない」と言うかもしれない。だが、「事業プロセスの一部で、できればメリットがあるが、人がやりにくいものについてはITにやらせればいい」、つまりビジネスの一部のIT命題化という観点でとらえれば、自社のビジネスに役立つことが発想できるのではないか。
他にも、これまでのオフィスオートメーションを超えたITのビジネスへの生かし方は考えられる。「ビジネス、あるいはビジネスプロセスのどの部分をITで拡張、あるいは改善するか」は、ビッグデータほどインパクトはなくとも、ほとんどの産業にとって実質的な意味を持つテーマとなっていくはずだ。
「ビジネスのIT命題化」をはじめとする、ITにおける最新トレンドについて、「三木式 企業ITの傾向と対策 2014年版 前編」にまとめています。ぜひお読みください。
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