オープニングセッションの後半で、村井氏は「これまで、私がインターネットと生きてきた中での思い出を紹介したい」と話し、これまでに同氏が出会ったインターネットの「キーマン」の顔写真を紹介しながら、彼らの功績と思い出を振り返った。15分弱という短い時間の中で、村井氏が挙げた人物は、以下の通りだ。
「Vintが偉いのは、ネットを作っただけではなく、それをデプロイした後のこと、ネットが世の中でどういう意味を持つのかということを、当初から現在まで、真剣に考えているという点です。技術の発明者ではあるけれども、その技術が社会の中でどのように使われていくべきかということにまで、責任を持とうとする姿勢がすばらしいと思います」(村井氏)
「C言語というのは、char型が8bitというとんでもない言語でした(笑)。『日本語のcharは何ビットだと思ってるんだ!』と、ベル研の講演でDennisに噛みついたことがあったんだけれど、そうしたら、彼はその後1年かけて、ビットマップディスプレイにカナと漢字を表示するデモを作って、僕に見せてくれた。僕が『これは誰がやったんだ?』と聞いたら、Dennisは『自分だ』と言う。『何でこんなもの作ったんだ?』『1年前に君がした、あの講演が面白かったから。1年間これだけやっていた』
それを聞いて、あのDennisの時間を1年も奪っていたなんて、大変罪深いことをしてしまったと僕は思いました(笑)。また、そうした形で科学者に好きなことを自由にやらせるベル研の文化に大らかさを感じたのです」(村井氏)
「ネットワークのオペレーションに関わっていると、Jonのことを思い出します。インターネットアドレスやドメイン名の割り当てといった部分で、Jonは大きな役割を果たしていました。インターネットが24時間365日、休みなくきちんと動くためには、“運用”という要素が重要です。運用の技術と技術者があってこそのインターネット。それを、どれだけシンプルな技術で実現し、世界中の技術者が分担して受け持てるようにするかということについて、彼は常に気を配っていました」(村井氏)
「彼は、UNIXとインターネットがつながったときに、世界で何が起こるかということを非常によく考えていました。彼とは個人的にも大変仲が良く、ある時、彼が突然、成田空港から電話をしてきて迎えに行ったことがありました。彼は当時から、家電メーカーのようなところがインターネットにつながるデバイスを作って売り始めたときに起こる変化に大変興味を持っていたので、当時のソニーと話して、まだ開発途中だったUNIXワークステーション『NEWS』を彼に見せたのですが、とても関心を持ってくれました。
後にソニーはプレイステーション3で、ネット上のゲーム機によるグリッドコンピューティングという概念を実現することになるが、Billは、そうしたネット上の多数のデバイスが集まって、大きなパワーを生み出すということを、当時から夢として持っていたのです」(村井氏)
「この人は、SFCで教鞭を執っていたこともあります。彼は、ハイパーテキスト、今風に言うとコンテンツセントリックネットワークの概念を生み出した伝説の人ですから、HTMLに関わるのであれば、顔と名前を覚えておきましょう。彼からは、去年メールが来たのですが、その内容は『おい! Bitcoinて知ってるか?』というものでした。今でも相変わらず、ちょっと怪しい感じのおじさんです(笑)」(村井氏)
「Timとは、W3CをSFCで最初にホストすることになって以来の長い付き合いになります。最初に紹介したVintとTimには共通点があるのですが、それはやはり“インターネットが世の中に存在する意義”について、深い洞察を持っている点です。彼は現在、英国でのオープンデータに関して行政的なリーダーシップを執ることもやっています。彼とVintは、現在でも本当にインターネットの“エヴァンジェリスト”なのです」(村井氏)
ネットのキーマンたちの功績と思い出を駆け足で紹介した村井氏は、セッションの最後に、宇宙から撮影した夜の地球の写真を画面に映し出した。
「これは、宇宙飛行士の毛利衛さんがされていた話なのですが、スペースシャトルから地球を観察するとき、太陽が当たっている側の昼の地球を見ていると、大地と海から生命が誕生してきた流れに思いを馳せるのだそうです。
そして、反対側の夜の地球を見ていると、人々の暮らしている明かりが見え、日本では鉄道の路線図が光として浮かび上がって見える。それを見ると、現在の人間が暮らす環境は、自然だけではなく技術によっても生み出されているのだと強く感じられるそうです」(村井氏)
村井氏は最後に「人が暮らす環境の一部となっている、テクノロジの基盤を作っている人たちに、心からエールを贈りたい。Webの世界で力を合わせて、新しい物を作り出していこうとしている人々に敬意を表します」と述べ、セッションを締めくくった。
(後編のパネルディスカッション記事Webの過去、現在、そして未来(後編):「後世に誇れるWeb」を作るために今、私たちができることをに続く)
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