新型うつは単なる病気なのか――その特徴や従来型うつとの違い、原因となる3つの要素を職場復帰支援などの現場で同症状と向き合ってきた見波利幸氏が解説する。
新型うつは、正式な疾病名ではありません。昨今の若年層に見られる特徴的なうつ状態を総称している呼び名です。ですから、厳密に定義されているわけではなく、明確な診断基準もありません。
しかし、若年層の不調者の中には明らかに一定の割合でそのような病態を呈している方々が存在していることも確かです。筆者は近年、若年層の不調者とのカウンセリングや職場復帰支援を通して、「新型うつ」が疑われる割合は、確実に増加していると実感しています。筆者の若年層のクライアントのうち、従来型と思われる病態は1〜2割にも満たないのではないかという感触があります。
それでは、従来型のうつと昨今の新型うつでは、何が違うのかを見ていきましょう。まず、従来型はメランコリー親和型性格(うつ病になりやすい病前性格)であることが指摘されており、どちらかというと職場適応ができている方が多い傾向にあります。
この性格の傾向は、真面目に仕事に取り組んでおり、責任感も強く、他者に配慮することができるなどが挙げられます。また、問題が発生したときには、自分を責めてしまうという特徴があります。
具体的なイメージを持ちやすいように一例を紹介します。
システム開発をしていたAさんは、プロジェクトに真面目に取り組んでいました。しかし何らかのトラブルを抱えてしまい、連日連夜残業をしてしのぐものの、トラブルが一層深刻な状態となり、リリースに間に合わない不安に襲われ、それを自分の能力の無さと受け止めてしまいます。
過重労働による疲労の蓄積と睡眠不足、トラブルを回避できないことの自責感情、リリースに間に合わない不安や恐れなどが心理的な負荷となり、次第に不安や自責感情も高まり、不眠や食欲不振も顕著になるなど症状が悪化し、ついにはうつ病を発症してしまいました。
一方の新型うつは、およそ真逆の特徴を有しています。主な特徴は次の通りです。
1 中高年よりも20〜30代の若年層に多い
2 メランコリー親和型性格や執着性格ではない
3 「会社のせいだ」「上司が悪い」と訴えるなど、他罰的傾向が強い
4 積極的に医療機関を受診し、自ら「うつ病です」と会社に申し出る
5 休養を主張しやすい
6 他者配慮性に乏しく、周囲に対して無遠慮な言動をとることがある
7 自尊心が強く、自己愛性、自己中心性が目立つ
8 抗うつ薬が効きにくい
〜「新型うつな人々」(日本経済新聞出版社)より
先ほどのAさんのプロジェクトに、新型うつ傾向のBさんがいたとします。
Bさんは連日の残業で疲弊し、リリースに間に合わない不安・焦りも感じています。そして、その原因は「自分の能力に合わないプロジェクトにアサインする上司が悪い」と思っています。この環境にいることの不満が増大し、上司に対する怒りも高まります。不眠症状が現れ、朝時間通りに出勤できなくなり、しまいには欠勤が目立つようになります。
Bさんは自ら医療機関を受診し、次の日に上司に診断書を提出し、「明日からしばらく休みます」とだけ告げて休暇に入ります。
従来型は周りの人が心配するほどの不調状態があり、「一度、専門家に診てもらった方がいいよ」と言っても、他者配慮性から「皆に迷惑を掛けるわけにはいかない」と、極限まで耐えてしまうことがあります。
しかし、新型うつ傾向の人は、他者からはそこまでの不調には見えず、いきなり診断書を提出したりするので、「本当に病気か」「ただプロジェクトから逃げたいだけじゃないのか」などと思われやすいのです。
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