「新型うつ」と「従来型うつ」の違い「もしかして?」と思ったら〜 新型うつとの付き合い方(2)(2/2 ページ)

» 2014年04月10日 18時00分 公開
[エディフィストラーニング 見波利幸,@IT]
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新型うつの病態とは

 それでは、新型うつはどのような病態と理解すればよいのでしょうか。筆者は、うつ状態という疾病だけの問題ではなく、「職場適応上の問題」と「本人のパーソナリティの問題」を有している、3つの複合的な病態であると捉えています。

 新型うつの特徴に「抗うつ薬が効きにくい」というものがあります。これは、新型うつが疾病だけの問題ではないことを意味しているでしょう。疾病だけの問題であれば、薬物療法などの医学的なアプローチが治療の主流となります。いわゆる従来型の対応です。しかし、新型うつの場合は、職場適応の問題とパーソナリティの問題にもアプローチしなければ、効果は限定的になってしまいます。

疾病×環境×パーソナリティ 新型うつの原因となる3つの要素

 それでは、この3つの問題とはどのようなものなのか、詳しく見てみましょう。

1 疾病の問題

 「仕事中はうつ状態が認められるが、仕事を離れると好きなことができる」などの特徴は、うつ病の診断基準を満たさない、少し軽い状態が多いという印象があります。

 「DSM−IV−TR(精神疾患の診断・統計マニュアル)」では、うつ病は「下記の9つの症状のうち5つにあてはまり、それが2週間継続している状態」かつ、「1か2のうち、少なくともどちらかが2週間以上続いていること」を診断基準としています。

1 ほとんど1日中、ほとんど毎日の抗うつ気分

2 ほとんど1日中、ほとんど毎日、興味・喜びの著しい減退

3 著しい体重の増減

4 ほとんど毎日の不眠、または睡眠過多

5 ほとんど毎日の精神運動性の焦燥または制止

6 ほとんど毎日の疲労感、または気力の減退

7 ほとんど毎日の無価値観、または不適切な罪責感

8 思考力や集中力の減退、または決断困難

9 死についての反復思考、自殺念慮、自殺企画


 退社してから好きなことができたり、土日には趣味で遊べたりする状態では、1にも2にも当てはまらないのではないでしょうか。うつ病より症状が少し軽い状態が2年間(小児、青年は1年間)継続している病態で、気分変調性障害という疾病もあります。むしろ、こちらの方が近いのではないかと思います。

 気を付けなくてはならないのは、ある時点で軽いうつ状態であったとしても、その後病態が悪化して、2つとも満たしてしまうこともあり得るということです。素人判断せずに専門医の判断を仰ぐことが重要であることには変わりません。

2 職場適応上の問題

 従来型うつの方は、職場に適応できていることが多いのですが、新型うつ傾向の方はこの問題を抱えていることが少なくありません。職場適応上の問題は大きく「仕事への適応」と「職場の人間関係の構築」の2つがあります。

 仕事への適応の問題とは、求められる知識、技術、スキルなどが若干足りずに「大変さ」「困難さ」を抱えていることです。「若干足りない」というのがポイントで、大きく足りない状態は、適応障害というまた違った疾病になります。

 職場の人間関係の構築の問題としては、若干社会的な未熟さが指摘されています。そのことでより良い人間関係構築に支障を来たします。社会的未熟さについては、次のパーソナリティの問題で詳しく取り上げます。

3 パーソナリティの問題

 社会的に未熟な性格傾向の例を見ていきましょう。

  • 他罰傾向:仕事がうまくいかない、または何かの問題が生じたときに、自分の責任とは思わず、上司や同僚など他者に責任転嫁してしまう
  • 逃避・回避傾向:困難なことから逃げてしまう
  • 依存傾向:「上司は親切に指導するべきだ」「困ったときにすぐに助けてくれるのが上司の役割だ」などと甘えてしまう
  • 自己中心性、他者配慮性のなさ:「体調が悪いから休んで当然だ」と考える、あるいは引き継ぎもせずに突然、長期の休職に入ってしまうなど、周囲の困惑や迷惑を顧みない

 ここでも「若干の」社会的未熟さがポイントです。大きな社会的未熟さであれば、パーソナリティ障害という、また違った疾病もあります。

 このような性格の傾向が強いほど、人間関係構築が難しくなり、社会では支障が出やすくなります。

意外に多い合併症

 新型うつは疾病という観点から見ると、「従来型うつ病より少し軽い状態」「適応障害よりも少し軽い状態」「パーソナリティ障害よりも少し軽い状態」と述べてきましたが、必ずしもどの程度軽いのかは、見立てが難しいものです。

 それ以外にも、アスペルガーなどの発達障害が疑われるケースや、不安障害も併発していることが疑われるケースも意外と多いと感じます。

 もちろん、専門家であっても、それらをしっかりと確定診断できるのか、何を併発しているのかを見極めることは難しいでしょう。しかし、その領域は、専門家に任せる他はないでしょう。

 大切なことは、本人あるいは周囲が「具体的に何が問題となっているのか」をしっかりと把握して、その「原因となっている背景要因に気付く」ことです。

 次回(5月掲載予定)は、今回解説した問題への対応法を解説します。

筆者プロフィール

見波利幸

見波利幸

エディフィストラーニング マネジメント/ビジネススキル トレーニング担当講師。

外資系コンピュータメーカーなどを経て、98年に野村総合研究所入社。メンタルヘルス研修の他、カウンセリングや職場復帰支援、カウンセラー養成の実技指導、海外でのメンタルヘルス活動など、多岐に渡る活動を行っている。

日本産業ストレス学会正会員、日本産業カウンセリング学会正会員、日本産業カウンセラー協会正会員(シニア産業カウンセラー、キャリアコンサルタント)他。


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