フラッシュ、「ソフトウェア化」……。EMCの「再定義」は進んでいるか「謎の企業」、DSSDを買収

5月5日よりラスベガスで開催されているEMC World 2014のテーマは「Redefine(再定義)」。米EMCは具体的な製品や技術に関する説明を通じ、自社の事業の再定義を進めていることを強調した。その軸となっているのは、フラッシュへの取り組み、および同社製品のさまざまな形での「ソフトウェア化」だ。

» 2014年05月07日 09時00分 公開
[三木 泉@IT]

 米EMCは、5月5日より開催中のEMC World 2014で、IDCのいう「第3のプラットフォーム」という言葉に象徴されるIT変革の次の段階に向け、自社事業の「再定義」をどう進めているかを説明した。同社は、2012年のEMC Worldの時点ですでに、自ら変身していくと宣言していた。その後投入した新世代の製品では成果が見えてきていると同社は説明、さらに将来に向けた取り組みについて明らかにした。

巨大なサーバメモリが持てたら、何ができるのか

 最も象徴的なのが5月5日に発表されたDSSDという企業の買収。サン・マイクロシステムズの共同創業者で、その後数々のスタートアップ企業を成功に導いたアンディ・ベクトルシャイム(Andy Bechtolsheim)氏が、サンで活躍した技術者を支援して、約4年前に設立した企業だという(DSSDは現時点でもステルスモードで、自社の技術や製品について一般に対しまったく説明していない)。

右端がアンディ・ベクトルシャイム氏。その左がプレジデント&CEOのビル・ムーア(Bill Moore)氏。サンではチーフ・ストレージ・エンジニアを務めた

 DSSDが開発しているのは、サーバメモリの延長として使えるほどの低遅延アクセスを特徴とするフラッシュ製品だという。しかもこれを、PCIeフラッシュではなくネットワーク接続された外部フラッシュ装置として提供する。対象とする用途は、「第3のプラットフォーム」の時代のアプリケーションのうち、インメモリデータベース、NoSQL/NewSQLデータベース、Hadoopなどを使いながら、高いレベルでのリアルタイム性/低遅延を要求するものだという。

 EMCはDSSDが開発中の技術について、公式にはこれ以上の説明を避けている。だが、同社のグローバルシステムズエンジニアリング担当シニアバイスプレジデントであるチャッド・サカッチ(Chad Sakac)氏は個人ブログで、ある程度の技術的な説明を加えている。それによると、DSSDではNVM Expressを使っているという。実はEMCは、約2年前に「Project Thunder」という同様な製品の製品開発プロジェクトを発表、その後中止した。サカッチ氏によると、同プロジェクトで採用したRDMAでは、十分な性能を得られなかったという。

 DSSDは将来のアプリケーションに向けた動きだが、一方でオールフラッシュストレージはすでにストレージの急成長分野として確立されつつある。EMCは2013年11月に「XtremIO」の製品発表を行ったが、その次の四半期でシェア第1位を獲得したという。データ重複排除などのデータサービスを実行しながら、データ転送量にかかわらずIOPSおよび低遅延性を安定的に維持できる点が評価されているという。

汎用ハードウェアへの対応が広がる

 米EMCは、同社のストレージに関し、ストレージの付加価値を、ハードウェア込みのボックスから、ソフトウェアへ移行することにつながる複数の取り組みも進めてきた。

 EMCは4月30日、VNXe/VNXの仮想アプライアンス版を、将来正式に提供すると発表した。今回のEMC World 2014ではさらに、「EMC Isilon」のOSであるOneFSを、将来はソフトウェアとしても提供するつもりであることを明らかにした。「EMC VPLEX」もソフトウェアのみで提供する。

 一方でEMCは、ソフトウェアとして導入できるストレージ製品の選択肢を増やしてきた。同社は以前より、オブジェクトストレージ「EMC Atmos」をソフトウェアとして提供してきたが、2013年11月には米ScaleIOを買収。そのソフトウェアは、各サーバの内蔵フラッシュおよびハードディスク(HDD)を活用し、これらを統合して、数千ノード規模の超大規模ストレージインフラを構築できる。

 EMC World 2014では、このScaleIOを汎用サーバ/ディスクシェルフと組み合わせ、さらにソフトウェアディファインドストレージ(SDS)のコントローラであるViPRを搭載したハードウェア込みのアプライアンス製品「EMC Elastic Cloud Storage Appliance(ECS Appliance)」を発表した。クラウドサービス事業者、企業の双方に向けた製品で、ScaleIOのメリットそのままに、汎用ハードウェアを用い、1ラックでは2.9PB、全体としてはエクサバイトのレベルまで拡張可能な、大規模ストレージインフラがコスト効率よく構築できる。ノードの追加は半自動的に、ダウンタイムなしに行えるため、スモールスタートしてニーズに応じて拡張していくことも可能だという。

 ECS ApplianceはAmazon Web ServicesやGoogleのオブジェクトストレージサービスに比べ、TCOが9〜28%低いとEMCは主張する。AWSやGoogleに対抗できるストレージサービスを迅速に構築したいクラウドサービス事業者、コストの観点からAWSやGoogleのサービスを検討あるいは利用している企業に使ってもらいたいという。

一般企業はクラウドサービスを使うよりも安く、社内でストレージを運用できるとEMCは強調する

 また、ViPRでは新バージョン、ViPR 2.0を第2四半期中に提供開始すると、EMCは発表した。新バージョンで初めて汎用ハードウェアに対応した(ViPR 2.0のその他の特徴については、別記事でお伝えします)。

 こうした、複数の意味での「ソフトウェア化」を通じ、EMCは、いよいよ顧客がニーズに応じて、汎用ハードウェア(あるいはIaaS)を利用できる選択肢を豊富に提供し始めようとている。

 ここで当然のように出てくる古くて新しい質問は、「『ソフトウェア化』はEMCのストレージ事業にどういうインパクトを与えるのか」というものだ。

 EMCプレジデントのデイヴィッド・ゴールデン(David Golden)氏は、記者の質問に対し、「EMCは既存のストレージ製品でも、ソフトウェアで付加価値を提供してきた。今後もソフトウェアでマージンを確保していく」と答えた。一方で既存のITが即座に消え去るわけではないと話した。第3のプラットフォーム市場は急成長しているが、IT投資の大部分は第2のプラットフォームに費やされている。「市場は(現時点では)第2のプラットフォームにあり、成長は第3のプラットフォームにある」としている。

 ゴールデン氏は2014年第1四半期の決算を例に、これを説明した。競合他社のストレージ関連事業は軒並みマイナス成長している中、EMCは成長した。これを可能にしたのは、EMCが「emerging storage products」に分類しているXtremIO、Isilon、Atmos、VPLEXなどの売り上げが、昨年同期比で81%伸びたことだという。

 EMCの会長兼CEOであるジョー・トゥッチ(Joe Tucci)氏は基調講演で、同社が年間売上の12%を研究開発に費やし、さらに10%を技術買収に費やしていると説明している。

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