ビッグデータ基盤実現に向かうSoftware Defined StorageコントローラEMC、ViPR 2.0を発表

米EMCは5月5日(米国時間)、SDS(Software Defined Storage)コントローラ「EMC ViPR」の新バージョン「EMC ViPR 2.0」を2014年第2四半期中に提供開始すると発表した。複数拠点にまたがるデータ保護/利用機能などが注目される。

» 2014年05月09日 09時00分 公開
[三木 泉,@IT]

 米EMCは、5月5日(米国時間)よりラスベガスで開催したEMC Worldで、同社が「SDS(Software Defined Storage)コントローラ」と表現するEMC ViPR(「ヴァイパー」)の新バージョン「EMC ViPR 2.0」を2014年第2四半期中に提供開始すると発表した。

 ViPRの具体的な機能は下記の通りだが、最も注目の新機能は、複数データセンターにまたがるデータの分散配置/統合利用が可能になること。例えばグローバル企業が、各地域で生成されるビッグデータを統合管理し、戦略的に活用できる可能性が生まれる。EMCのグループ企業であるPivotalは、ビッグデータを活用した新しいアプリケーションを推進しているが、ViPRの新機能はこれを支える基盤になれる可能性がある。

SDSコントローラとしてのViPRの機能

 ViPRは物理的なストレージ装置から独立した存在であるコントローラによって、ストレージを抽象化/サービス化するソフトウェア。2013年に最初のバージョンが提供開始されたときから、主に次のような機能を提供している。

  • 複数のストレージ装置から、仮想ストレージプールを構成できる(ブロックストレージ同士を束ねる、あるいはファイルストレージ同士を束ねることが可能。ブロックストレージについては、仮想ストレージブール作成の作業のなかで、ファイバチャネルスイッチの設定変更もできる)。
  • 作成したストレージプールに基づき、ストレージサービスのカタログを作成できる。エンドユーザーはセルフサービスポータルから任意のストレージサービスを選択して利用できる。
  • 管理者は、仮想ストレージプール、物理ストレージ装置の利用状況監視を行える。別製品との連携で課金管理も可能。
  • アプリケーション/ユーザーが、ファイルストレージプールをオブジェクトストレージ/HDFSとして利用できる。

 以上の4つの機能のうち、特にオブジェクト/HDFSアクセス機能は面白い。同一のデータに対し、「ファイルとして」「オブジェクトとして」の双方のアクセスができる。このため、オブジェクトとして取り込んだ動画データを、ファイルとして編集し、これをオブジェクトとしてWebサービスで提供するという一連のプロセスを、データの移動なしに実現できるからだ。また、オブジェクトアクセスとHDFSアクセスについても、同一のデータをどちらのAPIでも操作できる。

 この機能の基本的なメリットとして、既存のファイルストレージ装置を、オブジェクトストレージのような「より新しい」用途に転用できるということがある。ViPRは、オブジェクトをAmazon S3、OpenStack Swift、EMC Atmosの3種のAPI経由で提供できる。

ストレージをコントロールプレーンとデータプレーンに分離し、ハードウェアの抽象化、統合運用、機能の共通適用を進めていくというのがViPRの基本的なコンセプト

最も注目されるのは複数拠点を使ったデータ保護機能

 ViPR 2.0で特に注目される新機能は「geo dispersion」。複数拠点を使ったデータ保護/活用のための仕組みだ。ある拠点全体がダウンした場合にも、他の拠点のデータを使って運用を継続し、復旧できる。アクティブ/アクティブの運用が可能。同機能にはWAN転送量を抑え、ストレージの利用効率を向上する独自の技術を使っているという。また、複数拠点にわたって単一のネームスペースを提供。どこからでもアクセスができるようにしている。この機能の対象となるのはオブジェクト/HDFSデータ。

 ViPR 2.0では、他に下記のような機能が加わった。

  • ストレージ装置のサポートの拡大

 ViPRは、これまでネットアップのFASシリーズとEMCのVNX、VMAX、Isilonを対象としてきたが、新たに「Hitachi HUS VM」「Hitachi VSP」「VBLOCK」「ScaleIO」が加わった。また、OpenStackのCinder API経由で、IBM、HP、デルなど多数のストレージ製品をサポートするという。

対象ストレージの幅が拡大した
  • 「ブロックアクセスのデータサービス」

 プレスリリースには、「上記のオブジェクト/HDFSアクセス機能に加えて、新たにブロックアクセスのデータサービス機能を提供する」と読める表現がある。だが、ViPRにはもともとブロックストレージ装置を束ねて仮想的なブロックストレージプールをつくる機能を持っている。今回新しいのは、ScaleIOによるブロックストレージの作成や利用管理をViPRから行えるようになったということのようだ。

 ScaleIOは複数の汎用コンピュータの内蔵するHDDやSSDを束ね、スケールアウト型のブロックストレージがつくれるソフトウェア。ただし、ScaleIOはiSCSIやファイバチャネルでなく、独自のアクセスプロトコルを使っている。このため、ScaleIOで作成したブロックストレージをネットワーク経由でアプリケーションから使うためには、アプリケーションの動作するコンピュータに、ScaleIO独自のドライバをインストールする必要がある。

 ViPR 2.0では、ストレージとして使う汎用コンピュータの初期設定や、アプリケーションサーバへのドライバの導入などの作業を、ViPRから実行できるようになったということのようだ。

[2014/05/11 補足]ViPR発表当初から、その基本機能としてのファイル/ブロックの仮想ストレージプールは、データプレーンに介在しない方式をとっている。このため、同社が「データサービス」と呼んでいる複製や遠隔データ分散(今回発表の「geo dispersion」も含む)といった機能をこれらに適用できない。EMCがViPR 2.0で「ブロックに対応」といっているのは、ブロックストレージ(機種にかかわらず)に対してデータサービスを提供できるようになるということとも解釈できる。ただし、ViPR 2.0ではScaleIOで束ねたコンピュータ内蔵記憶媒体による仮想ブロックストレージに対してデータサービス機能をまだ適用できない。従って、正しい表現は「ブロックストレージにViPRのデータサービス機能を適用するための素地が整った」ということになるはずだ。

  • 「コモディティハードウェアへの対応」

 プレスリリースには、「汎用プラットフォーム」「汎用ドライブ」へのサポートが追加されたと書かれている。こちらも、ScaleIOを使えば、汎用コンピュータを使ってストレージが構築できるということを意味しているようだ。EMCは、この機能でサポートする最初のハードウェアとして、HP SL4540を挙げている。同製品は多数のHDDを収容可能なサーバだ。これにOSとScaleIOを導入してストレージを構成することを意味していると考えられる。

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