それではいよいよ、赤外線サーモグラフィを使って普段見ることができない熱とコンピューターの関係について見ていきましょう。図8は、Flir Oneを使ってノートパソコンの熱分布をチェックしたものです。普段気にすることはありませんが、こうやってみると熱分布に偏りがあることが分かります。
最近のコンピューターで熱を出す部品は、CPU、GPU、SSDのような高集積化された半導体に偏っています。この結果からも類推できるかと思いますが、キーボード上のオレンジ色で示される個所が、CPUやSSDの位置を示しています(撮影上、ディスプレーの放熱部や光が当たっている部分もオレンジ色になっている点はご了承ください)。
さらにコンピューターの熱分布を分かりやすくするために、図9のような小さなデバイスの分析結果も見てみましょう。
小さなデバイスに電源を投入すると、CPU部が高温になっていることが分かります。赤外線サーモグラフィを使った人間の目では見ることができないコンピューターの世界が垣間見えたかと思います。
このデバイスも民生品ですので、しっかりと熱対策が施されています(図10)。先ほど72℃を示していたCPU部は、ケースによりしっかりと保護されています(放熱量が変わったわけではありませんが……)。
さらに、もっと小さなデバイスについても見ていきましょう。図11は各種センサーを搭載するBluetooth Low Energyデバイスの熱分布です。このデバイスは非常に小さなチップで構成されているため、放熱部が電池(35.30℃)以外には見当たりません。このようにデバイスをひとつ見ただけでも、目的用途に合わせて放熱や消費電力の設計が大きく異なります。
最後に、今後のコンピューターと熱対策の未来を占う意味で、最新の省電力CPUで構成されたIntel NUC(ネクスト・ユニット・オブ・コンピューティング)シリーズの赤外線サーモグラフィの分析結果を見てみましょう。
最新のIntel Core i5 CPUとmSATA SSDを搭載しつつも、熱源の中心部は50℃、廃熱部も47℃と安定した熱対策がなされていました。ただし、高負荷動作時は、この限りではありません。
コンピューターの高集積化と低消費電力化の流れは、今後も加速していきます。それに伴ってコンピューターの放熱量も低くなっていくことでしょう。しかし安定してコンピューターを動作させるには、しっかりとした温度管理が施された設備が今後も不可欠です。
長年培われてきたデータセンターでのコンピューター管理ノウハウは、今後も皆さんのシステムの安定動作に寄与できるのではと、私もあらためて思うばかりです。また機会がありましたら、最新の技術動向を皆さんと共有していければと思います。
松本 直人(まつもとなおと)
さくらインターネット株式会社 さくらインターネット研究所 上級研究員
1996年より特別第二種通信事業者のエンジニアとしてインターネット網整備に従事。その後システム・コンサルタント,ビジネス・コンサルタントを経て2010年より現職。
研究テーマは、ネットワーク仮想化など3-5年先に必要とされる技術研究に取り組み、世の中に情報共有することを活動の基本としている。
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