freee創業者インタビュー――走り出したら「何でもやる」、それまでは「目の前のことを頑張る」普通の開発者のためのリーンスタートアップ手順書(3)(1/2 ページ)

目的は「起業」でも「会計ソフトを作ること」でもなかった。かなえたいことを最適な方法で実現させる、そのためにfreeeを立ち上げた。

» 2014年10月07日 18時00分 公開

編集部より

 @ITで展開中の特集「普通の開発者のためのリーンスタートアップ手順書」では、これからリーンスタートアップを始めたい開発者・技術者向けの記事が多数インデックスされています。詳細は記事「リーンスタートアップを実践するための参考記事116選まとめ」を参照してください。

 特集の第3回として、いま注目のスタートアップ「freee」にお話を伺いました。


 「フリーのエンジニアとして働く」「事業を立ち上げる」と決めた後に立ちはだかる壁の一つが「会計処理」だ。確定申告は必ず行わなければならないが、あくまでバックオフィスの作業だ。ここにいくら手間をかけても、本業のもうけにはならない。

 日本の企業は、中小、個人事業主が全体の86%を占めているという。その86%の経営者のバックオフィス業務を楽にできないか。そのビジョンを具現化したのが、会計処理や給与計算をクラウド上で行う「freee」だ。2012年11月にわずか3人でベータリリースしたサービスは、2014年7月に利用事業者数が10万件を超えた。リーンスタートアップの手本ともいえるようなサービスだ。

 そのfreeeの創業当初からのメンバーである、freee取締役の横路隆氏と、PRを担当する前村菜緒氏に話を伺うことができた。freeeの立ち上げを含め、freeeの思想やエンジニアとしての働き方に触れてみよう。

「バックオフィスを自動化し、本業に集中させたい」というビジョンに共鳴

freee Lead Engineer, Co-Founder 横路隆氏

 横路氏は、freeeの立ち上げメンバーの一人だ。社長の佐々木大輔氏と共にマンションの一室でアイデアを出し合い、二人でコーディングを行ったプロダクト、それがクラウド会計ソフト「freee」だ。

 佐々木氏はもともとグーグルで中小企業向けサービスに携わっており、さらに前職では財務責任者として従事していた。横路氏も両親が自営業を営んでおり、会計処理を手伝っていた。両者共に、「これらの業務を自動化すべきだ」というビジョンを明確に持っていた。「実家の経験から、中小企業が困っていることを知っていた。ならば、他にも困っている人が多いはず」。横路氏はそう考えた。

 「『freee』のイメージは、最初からありました。会計ソフトを作りたいのではなく、“日本の86%を占める個人事業主、中小企業法人を面倒から解放したい”というビジョンを共有していたことが大きかった」と横路氏は振り返る。社長もプログラミングに挑戦し、二人でコードを書いてベータリリースにこぎ着ける。これが、「freee」というサービスが生まれたきっかけだ。

大企業にできること、スタートアップにできること

 横路氏はもともと、ソニーに勤めていた。入社して2年、2012年5月に佐々木氏と出会い、連休中に「freee」のプロトタイプを作成する。それをきっかけにfreeeを立ち上げた。「(大企業を辞めるという)葛藤はなかった。親には後から報告した(笑)」(横路氏)。

 そもそも会計処理という分野は、決められたルーチンワークを“自動化”するという、最もIT化に適した業務だ。「でも、進化していない」と横路氏は指摘する。そこに一石を投じることはエンジニアとして必然だったのかもしれない。「エンジニアは、1回やったことは繰り返したくないですから」(横路氏)。

 では、その“一石”を大企業の中からではなく、自らの手で投げた理由はどこにあったのだろうか。横路氏は「大企業は仕組みで動いている。国も同じようにルールで運営されており、何をするにも時間がかかる。一方Webは、世界を変えるインパクトを出すまでの時間が短い」と述べる。それが、自ら起業する意味だった。「ソニーにも新しいものを出す文化はある。でも、構造が自分たちがやりたいことに合っていないと考えた」(横路氏)。

 起業に向き不向きはあるのだろうか。横路氏は「僕は経験がないうちに起業に参加できた。あまり経験や考え方が凝り固まらないうちに、こういう経験をした方がいいと思う。役職や働き方のスタイルが固まったり、家庭を持ったりするとどうしても始めづらい。そこまでに起業の経験があるといいのでは」と振り返る。

 「自分の環境やモチベーションを自分でコントロールできる人は、起業に向いていると思う。会社が守ってくれている環境では成長しにくい。一つ上の目標を持つ、というコントロールが自分でできれば成長できる。それができれば、若いうちはスキルがなくたっていいんです」(横路氏)。

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