OCR(光学文字認識)機能を実装するには?[ユニバーサルWindowsアプリ開発]WinRT/Metro TIPS

「Microsoft OCR Library for Windows Runtime」を使って、ユニバーサルアプリにOCR機能を実装する方法を解説する。

» 2014年10月09日 16時22分 公開
[山本康彦BluewaterSoft/Microsoft MVP for Windows Platform Development]
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連載目次

 アプリの中でOCR(光学文字認識)機能を使いたいと思ったことはないだろうか? 例えば、名刺を読み取って電話番号やメールアドレスなどをデータベースに登録したい、あるいは、商品コードを読み取って検索したいといったような場合だ。そのようなことが、マイクロソフトから提供された「Microsoft OCR Library for Windows Runtime」のOcrEngineで可能になった。

 本稿では、OcrEngineを利用する実装方法を解説する。なお、本稿のサンプルは「Windows Store app samples:MetroTips #91」からダウンロードできる。

事前準備

 ユニバーサルプロジェクトを使ってユニバーサルWindowsアプリを開発するには、以下の開発環境が必要である。本稿では、無償のVisual Studio Express 2013 for Windowsを使っている。

  • SLAT対応のPC*1
  • 2014年4月のアップデート*2適用済みの64bit版Windows 8.1 Pro版以上*3
  • Visual Studio 2013 Update 2(またはそれ以降)*4を適用済みのVisual Studio 2013(以降、VS 2013)*5

*1 SLAT対応ハードウェアは、Windows Phone 8.1エミュレーターの実行に必要だ。ただし未対応でも、ソースコードのビルドと実機でのデバッグは可能だ。SLAT対応のチェック方法はMSDNブログの「Windows Phone SDK 8.0 ダウンロードポイント と Second Level Address Translation (SLAT) 対応PCかどうかを判定する方法」を参照。なお、SLAT対応ハードウェアであっても、VM上ではエミュレーターが動作しないことがあるのでご注意願いたい。

*2 事前には「Windows 8.1 Update 1」と呼ばれていたアップデート。スタート画面の右上に検索ボタンが(環境によっては電源ボタンも)表示されるようになるので、適用済みかどうかは簡単に見分けられる。ちなみに公式呼称は「the Windows RT 8.1, Windows 8.1, and Windows Server 2012 R2 update that is dated April, 2014」というようである。

*3 Windows Phone 8.1エミュレーターを使用しないのであれば、32bit版のWindows 8.1でもよい。

*4 マイクロソフトのダウンロードページから誰でも入手できる(このURLはUpdate 3のもの)。

*5 本稿に掲載したコードを試すだけなら、無償のExpressエディションで構わない。Visual Studio Express 2013 with Update 3 for Windows(製品版)はマイクロソフトのページから無償で入手できる。Expressエディションはターゲットプラットフォームごとに製品が分かれていて紛らわしいが、Windowsストアアプリの開発には「for Windows」を使う(「for Windows Desktop」はデスクトップで動作するアプリ用)。


用語

 本稿では、紛らわしくない限り次の略称を用いる。

  • Windows:Windows 8.1とWindows RT 8.1(2014年4月のアップデートを適用済みのもの)
  • Phone:Windows Phone 8.1

サンプルコードについて

 Visual Studio 2013 Update 2(およびUpdate 3)では、残念なことにVB用のユニバーサルプロジェクトのテンプレートは含まれていない*6。そのため、本稿で紹介するコードはC#のユニバーサルプロジェクトだけとさせていただく*7

*6 VB用のユニバーサルプロジェクトは、来年にリリースされるといわれているVisual Studio「14」からの提供となるようだ。「Visual Studio UserVoice」(英語)のリクエストに対する、6月18日付けの「Visual Studio team (Product Team, Microsoft)」からの回答による。

*7 Visual Studio 2013 Update 2(またはUpdate 3)のVBでユニバーサルWindowsアプリを作る場合のお勧めは、「The Visual Basic Team」のブログ記事(英語)によれば、PCLを使う方法だ。しかし、本稿で利用するOcrEngineは、PCLからは利用できないようである(PCLは「Any CPU」としてビルドできないと意味が無いが、現在のOcrEngineはCPU依存のライブラリである)。


OcrEngineをプロジェクトに導入するには?

 「Microsoft OCR Library for Windows Runtime」は、ユニバーサルWindowsアプリのSDKにはまだ含まれておらず、NuGetから別途導入する*8

 VS 2013のソリューションエクスプローラーから、以下の画像のような手順でOcrEngineをプロジェクトに導入する。また、OcrEngineはCPUに依存するライブラリであるため、ソリューション構成を[x86]に変更しておく(リリース時は、対象とするCPUごとのバイナリを含んだパッケージバンドルにする*9)。

*8 「Building Apps for Windows」ブログの記事「Microsoft OCR Library for Windows Runtime」(英語)によれば、商利用にもライセンス料は不要とのことである。

*9 ストアにアップロードするパッケージを作る際に、[パッケージの選択と構成]ダイアログの[作成するパッケージとソリューション構成マッピングを選択する]欄で、[Neutral](=Any CPU)のチェックは外し、それ以外の対象とするCPUにチェックを入れる。


OcrEngineをプロジェクトに導入する(その1) OcrEngineをプロジェクトに導入する(その1)
VS 2013のソリューションエクスプローラーで、ソリューションを右クリックし、そのメニューから[ソリューションの NuGet パッケージの管理](赤丸内)を選ぶ。

 すると、[NuGet パッケージの管理]ダイアログが表示されるので、ここでインストールを行う。

OcrEngineをプロジェクトに導入する(その2) OcrEngineをプロジェクトに導入する(その2)
[NuGet パッケージの管理]ダイアログが出てくるので、左側で[オンライン]を選び((1))、右上の検索ボックスに「Microsoft OCR」と入力して検索する((2))。中央部分に検索結果が出てくるので、その中から[Microsoft OCR Library for Windows Runtime]を選び((3))、[インストール]ボタンをクリックする((4))。

 その後、[プロジェクトの選択]ダイアログが表示されたら、インストール対象のプロジェクトを指定する。

OcrEngineをプロジェクトに導入する(その3) OcrEngineをプロジェクトに導入する(その3)
[プロジェクトの選択]ダイアログが出てくるので、導入したいプロジェクトにチェックを入れて、[OK]ボタンをクリックする。これでインストールが実行される。
C#のユニバーサルプロジェクトの共有プロジェクトでOcrEngineを利用する場合は、Windows用とPhone用の2つのプロジェクトを選択する。
なお、後から導入プロジェクトを変更するには、ソリューションの右クリックから開いた[NuGet パッケージの管理]ダイアログ(=前の画像)の左側で[インストール済みのパッケージ]を選んで行う。

 OcrEngineのインストールが終わったら、ソリューション構成を調整する。

OcrEngineをプロジェクトに導入する(その4)
OcrEngineをプロジェクトに導入する(その4)
OcrEngineをプロジェクトに導入する(その4) OcrEngineをプロジェクトに導入する(その4)
OcrEngineはCPU依存のライブラリであるため、ソリューション構成を適切に変更する。
上:デバッグなどでPhoneのテストをエミュレーターで行うなら、ドロップダウンで[x86]を選べばよい(赤丸内)。
中:リリース前のテストなどでPhoneの実機を使って実行するときは、ドロップダウンで[構成マネージャー]を選び(上の図の赤枠内)、出てきた[構成マネージャー]ダイアログの[アクティブ ソリューション プラットフォーム]で[<新規作成...>]を選ぶ(画像はこの時点のもの)。すると[新しいソリューション プラットフォーム]ダイアログが出てくるので、新しいプラットフォームの名前として例えば「Mixed」と入力し、設定のコピー元として[x86]を選び、[OK]ボタンをクリックして[構成マネージャー]に戻る(続く)。
下:(続き)[構成マネージャー]の[アクティブ ソリューション プラットフォーム]で、今しがた作成した[Mixed]を選び、Phone用プロジェクトの[プラットフォーム]を[ARM]に変更する(赤枠内)。これで、Windows用のプロジェクトはx86用にビルドされ、Phone用のプロジェクトはARM用にビルドされるようになる。次からはドロップダウンで[Mixed]を選ぶだけでよい。なお、このときは、画像の左に見えるように、XAMLのデザインビューが働かなくなる。

OcrEngineが認識できる言語を設定するには?

 以上のようにしてOcrEngineを導入した場合、認識できる言語は英語だけである。他の言語も認識させたい場合は、以下の手順で設定ファイルを再生成する。

 まず、ソリューションのあるフォルダーをエクスプローラーで開き、そこから次に示すフォルダーを開く。

  • {ソリューションのあるフォルダー}\packages\Microsoft.Windows.Ocr.1.0.0\OcrResourcesGenerator

 この「OcrResourcesGenerator」フォルダーに「OcrResourcesGenerator.exe」ファイルがあるので、それを実行する。出てきたダイアログで、認識させたい言語を右のリストに移し、[Generate Resources]ボタンをクリックする(次の画像)。保存先を尋ねられるので、OcrEngineを導入したプロジェクトのフォルダーの下にある[OcrResources]フォルダーを選び、「MsOcrRes.orp」ファイルを上書きする(複数のプロジェクトで使う場合は、ここで上書きしたファイルを他のプロジェクトにコピーすればよい)。

「MsOcrRes.orp」ファイルを生成するプログラム 「MsOcrRes.orp」ファイルを生成するプログラム
左のリストで認識させたい言語を選び、中央のボタンを操作して右のリストに移す。ここでは、英語と日本語を選択している。
[Generate Resources]ボタンで、新しい「MsOcrRes.orp」ファイルを生成できる。

 以下のサンプルコードでは、上の画像のようにして英語と日本語を設定した「MsOcrRes.orp」ファイルを使用している。デフォルト(=英語のみ)のままでは、日本語として認識させようとするとエラーになるので注意してほしい。

OcrEngineで画像から文字列を読み取るには?

 OcrEngineのRecognizeAsyncメソッドに画像データを渡せばよい。ただし、読み取れる画像のサイズは、最小40×40ピクセルから最大2600×2600ピクセルまでである。

 RecognizeAsyncメソッドの引数は、次のようになっている。

  • 第1引数:画像の高さ(ピクセル数)
  • 第2引数:画像の幅(ピクセル数)
  • 第3引数:画像データのbyte配列(BGRAピクセルフォーマット)

 これら3つの値を得るには、画像データをWriteableBitmapクラス(Windows.UI.Xaml.Media.Imaging名前空間)のオブジェクトとして保持しておけば簡単になる(利用法は後述のコードを参照)。例えば、画像ファイルを読み込んでWriteableBitmapオブジェクトを作るには、次のコードのようにする。

private async System.Threading.Tasks.Task<Windows.UI.Xaml.Media.Imaging.WriteableBitmap>
  LoadImageAsync(Windows.Storage.StorageFile file)
{
  // 画像ファイルからImagePropertiesを得る。画像の高さと幅が分かる
  Windows.Storage.FileProperties.ImageProperties imgProp = await file.Properties.GetImagePropertiesAsync();

  // 画像ファイルを開き、WriteableBitmapを生成して返す
  using (var imgStream = await file.OpenAsync(Windows.Storage.FileAccessMode.Read))
  {
    var bitmap = new Windows.UI.Xaml.Media.Imaging.WriteableBitmap((int)imgProp.Width, (int)imgProp.Height);
    bitmap.SetSource(imgStream);
    return bitmap;
  }
}

画像ファイルを読み込んでWriteableBitmapオブジェクトを作るメソッド(C#)

 RecognizeAsyncメソッドの返値はOcrResultクラス(WindowsPreview.Media.Ocr名前空間)のオブジェクトであり、以下のような情報が入っている。

  • Linesプロパティ:OcrLineオブジェクト(WindowsPreview.Media.Ocr名前空間)のリスト
  • TextAngleプロパティ:読み取った文字列の水平(縦書きの場合は垂直)からの回転角度

 また、OcrLineオブジェクトには、以下のような情報が入っている。

  • IsVerticalプロパティ:縦書きのときTrue(日本語など一部の言語のみで有効)
  • Wordsプロパティ:OcrWordオブジェクト(WindowsPreview.Media.Ocr名前空間)のリスト

 そして、OcrWordオブジェクトには、以下のような情報が入っている。

  • Textプロパティ:単語として認識した文字列(英語などの場合)か、個別に認識した1文字(日本語などの場合)
  • Left/Top/Width/Heightプロパティ:OcrWordオブジェクトとして認識した領域(ただし、TextAngleプロパティの分だけ回転している)*10

*10 本稿では扱わないが、これらのプロパティ(OcrResultオブジェクトのTextAngleプロパティとOcrWordオブジェクトのLeft/Top/Width/Heightプロパティ)を利用すれば、文字として認識した領域を画像の上に表示できる。


 WriteableBitmapオブジェクトを渡して文字列を認識させ、その結果をテキストボックスに表示するメソッドは、次のように書ける。

private async System.Threading.Tasks.Task 
  ExtractTextAsync(Windows.UI.Xaml.Media.Imaging.WriteableBitmap bitmap, 
                    WindowsPreview.Media.Ocr.OcrLanguage language)
{
  // OcrEngineオブジェクトを生成する
  var ocrEngine = new WindowsPreview.Media.Ocr.OcrEngine(language);

  // OcrEngineに画像を渡して、文字列を認識させる
  var ocrResult = await ocrEngine.RecognizeAsync(
                          (uint)bitmap.PixelHeight,     // 画像の高さ
                          (uint)bitmap.PixelWidth,      // 画像の幅
                          bitmap.PixelBuffer.ToArray()  // 画像のデータ(byte配列)
                        );
  if (ocrResult.Lines == null || ocrResult.Lines.Count == 0)
  {
    this.ReadText.Text = "(何も読み取れませんでした)";
    return;
  }
  // この時点で、読み取りは終わっている。以降は、読み取り結果を表示するためのコードである

  // Word間の区切り(日本語では無し、英語ではスペースとする)
  var separater = string.Empty;
  if (language == WindowsPreview.Media.Ocr.OcrLanguage.English)
    separater = " ";

  // 結果を表示するテキストボックスをクリアする
  this.ReadText.Text = string.Empty;

  // 行番号(0始まり)を定義
  int lineIndex = 0;

  // 認識結果を行ごとに処理する
  foreach (var line in ocrResult.Lines)
  {
    // 1行分の文字列を格納するためのバッファー
    var sb = new System.Text.StringBuilder();

    // 認識結果の行を、Wordごとに処理する
    foreach (var word in line.Words)
    {
      // 認識した文字列をバッファーに追加していく
      sb.Append(word.Text);
      sb.Append(separater);
    }

    // ここでは、読み取った1行を以下のフォーマットで表示することにした
    this.ReadText.Text += string.Format("[{0}{1}] {2}{3}"
                                        (lineIndex++).ToString(),     // 行番号(0始まり)
                                        line.IsVertical ? "V" : "H"// 縦書き/横書きの区別
                                        sb.ToString().TrimEnd(),      // 読み取った文字列
                                        Environment.NewLine           // 改行
                                        );
  }
}

OcrEngineオブジェクトを使って文字列を認識させ、その結果をテキストボックスに表示するメソッド(C#)
このメソッドの第2引数には、OcrLanguageオブジェクト(WindowsPreview.Media.Ocr名前空間)を与える。それによって、どの言語として認識するのかが決まる(認識結果が変わる)。
長いコードであるが、その大半は読み取った結果を表示するためのコードだ。

実行結果

 C#の共有プロジェクトにユーザーコントロールを置き、そこにImageコントロール(Windows.UI.Xaml.Controls名前空間)やTextBoxコントロール(Windows.UI.Xaml.Controls名前空間)などを配置した。起動したときにサンプル画像を読み込んでImageコントロールに表示する。また、ボタンをいくつか配置し、それをタップしたときに画像から文字列を認識させ、その結果をTextBoxコントロール(上記コードではこれを「this.ReadText」として参照している)に表示するようにした。詳細は、別途公開のサンプルコードをご覧いただきたい。

 まず気になるのは、日本語をどのくらい認識できるかだろう。縦書き文章の画像を読ませてみると、次の画像のようになった。なかなかの結果だといえる。

縦書きの日本語文章を認識させた例(画面の一部) 縦書きの日本語文章を認識させた例(画面の一部)
ドキュメント:「踊る人形」(青空文庫)アプリ:青空文庫リーダー・ライト認識結果の行頭に付けてある記号は、行番号(0始まり)と縦書き/横書きの区別(H:横書き、V:縦書き)である。
文字ではない図形(上端にあるロゴとボタン)も日本語として読み取ろうとしているのが分かる(先頭行)。

 英語の認識結果は次の画像のようだ。

英語の文章を認識させた例(画面の一部、上:日本語として認識)
英語の文章を認識させた例(画面の一部、下:英語として認識) 英語の文章を認識させた例(画面の一部、上:日本語として認識、下:英語として認識)
ドキュメント:「The Adventure of the Dancing Men」(Wikisource)アプリ:Internet Explorer
日本語として認識させた場合(上)は、1行全体が1つのOcrWordに入ってしまう(デバッグ実行中にブレークさせて確認した)。カンマやピリオドも正しく認識できていない。
英語として認識させた場合(下)は、単語ごとにきちんとOcrWordに入ってくる。
このように、正しい言語を指定することが大切である。

 印刷物をカメラで撮影した画像では認識精度が落ちるようだが、商品コードなどの英数字の認識は十分にできる(次の画像)。

印刷物を撮影した画像を認識させた例(Windows Phone 8.1エミュレーター) 印刷物を撮影した画像を認識させた例(Windows Phone 8.1エミュレーター)
本の裏表紙の一部をわざと斜めに撮影して、その画像を認識させてみた(筆者の著書)。
ここでは英語として認識させているため、「¥」記号と、「定価〜」で始まる行とが読み取れていない。

まとめ

 Microsoft OCR Library for Windows Runtimeを利用することで、簡単にOCR機能を実装できる。認識させる言語の指定が正しくできれば、認識精度はかなりよい。このOCR機能については、次のドキュメントも参照してほしい。

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