OpenStackが今求められる理由とは何か? エンジニアにとってなぜ重要なのか?OpenStack超入門(1)(2/3 ページ)

» 2014年10月15日 11時00分 公開
[内野宏信@IT]

OpenStackの最大の特性とは何か? サーバー仮想化と何が違うのか?

編集部 では「差別化に役立つ新しいビジネスを、スピーディに立ち上げる」上で、OpenStackが持つ最大の特性とは何でしょうか?

中井氏 一つは、OpenStackがマルチテナント型のセルフサービスを軸とするクラウド環境を実現することです。複数の管理ツールを使って複数のステップを踏む作業も、APIを使ってツール同士を連携させることで、全て自動化することができます。例えばサーバー仮想化環境のように、管理者側がリクエストを受けて仮想サーバーを構築するのではなく、サーバーの利用者側が、あらかじめ管理者側が用意しておいたスペックのサーバーをサービスポータル画面上で選んで、ボタン一つで自動的に配備される環境を整えられます。また、APIを標準で公開しているので、連携させるツールをかなり自由に選べる点や、近年増えているOpenStack対応のパブリッククラウドと容易に連携できる点も特徴です。

編集部 必要なリソースが必要なときに自動的に配備される、まさしくプライベークラウド環境を、APIを使って柔軟に築けるわけですね。

中井氏 もちろん「差別化に役立つ新しいビジネスを、スピーディに立ち上げる」ためには、サーバー仮想化だけでいいという考え方もあります。しかし、「いかに撤退するか、変化に対応するか」を想定している点にOpenStackの特徴があるといえます。例えば、OpenStackによるプライベートクラウド環境なら、「あるサービスを立ち上げて、一定期間で撤収する」といったことがやりやすい。あるいは、OpenStack対応のパブリッククラウドを使ってサービスを立ち上げた後、市場の反応を見て、成功したら自社のプライベートクラウドに移行し、規模を拡大して運用する、といった展開もできます。つまりクラウドロックインを回避しながら、ビジネスの状況に応じたサービス・システム展開がやりやすくなるわけです。

中島氏 そうしたパブリッククラウドとプライベートクラウド間のアプリケーションポータビリティの高さに加えて、「こういうサービスを作りたいが、今のパブリッククラウドでは要件を満たせない」といったときも、OpenStackはオープンソースであるため自分で機能追加できる点も大きなメリットです。コミュニティから情報を得たり、必要な機能をリクエストしたりすることもできます。

ALT 「APIを公開していること、オープンソースソフトウェアであることは、ビジネス、テクノロジの両面で大きな意義と可能性がある」と語り合う両氏

編集部 つまり従来のように既存資産にとらわれず、ビジネスの状況変化に動的に対応できるわけですね。

中島氏 そうですね。従来の仮想化とOpenStackの違いは、時間感覚の違いとも思っています。今までの仮想化の意義は、「物理環境にあったものを集約して効率化し、コスト削減しよう」ということが大前提でした。その点、移行元の物理環境は「ある程度の長い期間、変わらずに動き続けること」を前提としたシステムであり、仮想環境に移行してもそうした前提は同じだったわけです。一方、OpenStackは「システムは変化し続けること」「状況に応じて素早くインフラを変化させていくこと」を前提としています。

 中長期的な見通しが立てにくい中で、着実にビジネスを展開・発展させていくことを考えれば、今あるサーバー仮想化の延長では不十分であり、必然的に必要となってくるのがこうしたOpenStackの特性だと思います。

OpenStack導入・活用にはフルスタックエンジニアが必要?

中井氏 ただ現実的に考えると、ある程度大規模なシステムになると、全てのシステムをOpenStack環境に移行するのではなく、バックエンドは今まで通り物理環境で残る、あるいは残すべき部分もあると思います。ビジネスの要件に応じて、本当にスケールアウトが必要なシステムと、そうでないバックエンドのシステムを組み合わせて使うわけですね。そうしたクラウドと物理のハイブリッドのようなシステムにおいても、パブリッククラウドを使う方法もありますが、管理面から見れば全部オンプレミスでそろっているシステムの方が使いやすいのではと思います。

中島氏 究極の姿は、オンプレミスの物理環境とクラウド環境、またパブリッククラウドの3レイヤーに分かれていて、ビジネス要請に応じてそれぞれを使い分けることでしょうね。

編集部 ただそうなると、OpenStackの特性を生かし切るためには、ビジネスとITを組み合わせて考えることが、より一層強く求められるようになるのではないでしょうか。環境を使い分けるためにはビジネス、システムの重要度や優先順位付けを考えなければなりません。

中井氏 そうですね。「短期的なビジネスなのか、ある程度、長期的な展開を見据えていくべきものなのか」という視点と、それに応じて、「そのためにはどのようなインフラが適切なのか」ということを組み合わせて考えられなければなりません。しかも現在は、サービスとシステムが一対一ではなく、複数のプロセス、システムの組み合わせによって一つのサービスが成り立っています。従って、どういう組み合わせでシステムを作るとそのサービス、ビジネスに最適化できるのかを判断することが求められますね。

編集部 そう考えると、現在OpenStackを活用できている企業は、ヤフー、グリーなど、やはりビジネスとITの距離がもともと近い企業が多いですね。とはいえ、ビジネスとITの連携はOpenStackの導入にかかわらず不可欠なことでもあります。その点、経営層や管理層はITに詳しくない、インフラはビジネスの知識が十分とはいえない、といった現実がある中で、どう対応していけばいいのでしょうか。

中井氏 ビジネスもITも全部分かるという、いわゆるフルスタックな人材はそうそういませんから、例えば、企業の中でもビジネスを理解している人が、インフラ部門の優秀な人材を自分の右腕にするといった形が現実的だと思います。やはり組織体制としてビジネスを分かる人と技術が分かる人が一緒になって、両面を合わせて考えていける体制やプロセス整備が重要だと思います。

編集部 それはアジャイルやDevOpsの文脈でも見直されていますよね。その点、ユーザー層は着実に増加しているので、ビジネスとITが分断されがちな大企業の事例が、今後国内でも増えてくることが期待されますね。

中島氏 そうですね。現在、ユーザー会メンバーは国内だけでも1312人、OpenStack Foundationのコミュニティ参加メンバーはグローバルで144カ国、2万人に達しようとしています(2014年9月現在)。ベンダー、SIer、ユーザー企業と、幅広い人材が参加しています。また今までユーザー企業としては、メーカー、キャリア、データセンターが中心でしたが、昨今は業務アプリケーションを提供しているベンダーの参加も増えています。つまり、OpenStackの基盤としての成功・発展が進む中で、OpenStackの特性に最適化したアプリケーションの開発も進みつつあるわけです。事例も着実に増えてくると思います。

編集部 OpenStackの特性に最適化したアプリケーションとは、具体的にはどのようなものなのでしょうか?

中井氏 例えばOpenStackを前提にして、負荷に応じて自動的に仮想マシンを増減できるよう設計されたアプリケーションですね。現在、そうしたものはベンダーのパッケージ製品にはあまりなく、ユーザー自身で開発している例が多いのですが、今後対応するベンダーが増えると予想されます。

中島氏 そう考えると、OpenStackもLinuxと同じような展開にあると思いますね。最初はWebサービス系の企業が使い、基盤としての事例が増えてくると、その上に乗せるアプリケーションをリリースするベンダーが増えていった。そうした中で、信頼性、安定性などが強く求められるなど、ユーザーとベンダー、Linuxが相互に発展していった経緯があります。ユーザー企業にとっては、当たり前のように、気付かないうちにOpenStackを使っていた、という時代が来るのも近いかもしれません。

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