―― OpenStack導入組織が、クラウドサービスでなく、自社でインフラを構築する理由は何ですか? いま話に出たデータの量ですか?
ブライス パリで開催したOpenStack Summitでは、7つの組織が基調講演に登場しました。そのうち3社が、自社のOpenStackとクラウドサービスを併用しています。こうした企業がクラウドサービスと自社インフラのそれぞれを使う理由を聞くと、興味深い答えが返ってきます。
この判断に影響を与える要素の1つが、データです。膨大なデータを処理する必要がある場合、データの近くで処理するのが有利です。データはクラウド上に存在する場合もありますが、金融機関などでは、データを自社で保有することが求められます。
ハイブリッドクラウドのユースケースで、私たちがよく聞く面白い事実は、やるべきことがはっきりしているなら、自社でインフラを運用したほうが、長い目で見ればパブリッククラウドよりもコスト効率が高いということにあります。ただし、社内のインフラだと、あまり迅速な拡張ができません。そこで、パブリッククラウドで補っています。
この2つが、OpenStackを社内で導入しながらも、パブリッククラウドを利用する場合の典型的なシナリオです。
もちろん、OpenStackはプライベートクラウドとパブリッククラウドの双方の基盤として機能しています。何百もの組織がOpenStackを自ら導入しており、パブリッククラウドは数十の都市で提供されています。OpenStackの技術としての強みの1つは、このことにあります。
―― まだOpenStackを検討するのは時期尚早だと思っている組織に対して、どんなメッセージがありますか?
ブライス OpenStackのエコシステムは非常に強力です。このエコシステムが、あらゆる組織のニーズに応えるソリューションを提供しています。ターンキーで使えるものもあれば、特定のユースケースに向けてカスタマイズできるものもあります。コンサルティングを行う会社もありますし、時間単位で利用できるパブリッククラウドもあります。
過去約1年半にOpenStackの世界で起こった大きな変化は、エコシステムの成長です。コミュニティが作り上げたものを、一般企業も含めた組織のさまざまなニーズに合わせた形で提供できるようになりました。
例えば、Wells Fargoは大規模な金融機関で、テクノロジーの運用に際して厳格な規定を持っています。このため、同社は複数のOpenStack関連ベンダーの協力で、自社ニーズに合った環境を構築し、既存のストレージ機器やネットワークと接続できるようにし、自社のセキュリティ規定への準拠を図りました。
OpenStack Summitで講演したWells Fargoの担当者は、同社にとってのOpenStackの価値について、次のように話しています。
「OpenStackは『線』のようなものだ。当社のあらゆる事業部門が、データセンターのITリソースにアクセスできる環境を提供してくれる。一方で、コスト、パフォーマンス、セキュリティに関する法令順守を確保していく必要がある。OpenStackは、このような企業としてのニーズに応えるためのカギとなる。その一方で、ビジネスの観点からは、迅速な展開を実現し、さらに節約することができる」。
―― OpenStackを利用するには、ITインフラについての考え方を変えることが必要だと主張する人々がいます。すなわち、「ペット飼育か農場運営か」の議論です。どう思いますか?
ブライス 2つのことが言えます。
まず、幅広い製品やサービスがOpenStackをサポートしていることです。ほとんどのエンタープライズIT製品が活用できます。ネットアップやEMCなどのストレージ製品を使って、ペット飼育のようなことが可能です。
ただし、それよりも大きなテーマがあります。様々な分野の企業が、市場環境の激変を目の当たりにしています。従来と同じことを、永遠に続けているわけにはいかなくなってきたのです。多くの企業が、Facebook、Zynga、Netflixをはじめとするテクノロジーに長けた企業と、直接・間接に競合するようになってきています。一般企業も、長い目で見ると、このような素早く立ち回り、次々に新機能を提供するような企業と戦っていかなければなりません。このため、彼らと同様な技術を使っていく必要があります。逆にこうした技術を使わないと、顧客ニーズへの迅速な対応や世界市場での事業展開が難しくなってくると思います。
―― 2015年秋にはOpenStack Summitを東京で開催すると発表しましたね、アジアではすでに香港で開催しているわけですが、東京で実施する意義とは何ですか?
ブライス 私たちはOpenStack Summitを6カ月ごとに開催しています。2013年秋の香港でのサミットは、米国以外で開催した初めてのケースでした。その後、米国外ではフランスのパリで開催し、次は2015年5月にカナダのバンクーバーで実施します。その次が2015年10月の東京になります。
私たちが東京を選択した理由は、ここに強力なOpenStackコミュニティがあるからです。そして、過去数年にわたり、何千人もの来場者を集めるイベントを開催してきています。OpenStackに対する大きな関心があることは明らかです。また、OpenStackのエコシステムに、大小の日本企業が積極的に参加しています。力強いコミュニティと、大きなサポートが存在していることを実感します。
ここには、イベントの成功を助けてくれるコミュニティメンバーがいます。加えて、日本の組織が今後利用すべき技術を考える際に、他の企業がどのようにOpenStackを使っているかを知り、またOpenStackコミュニティにどう関われるのかが分かるようなイベントが実施できると考えました。
セル コミュニティの観点からすれば、OpenStack Summitを開催する場所の選定は非常に重要です。よく、米国でメインイベントを実施し、他の国ではサテライト的なイベントを行うケースがあります。しかし、OpenStack Summitは、私たちのメインイベントです。東京に決めたことは、私たちにとって、とても大切な決断だったのです。
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