Yahoo!ショッピング 平田源鐘氏に聞く「eコマース革命」を支える高速PDCAサイクルの仕組み@ITセミナー「ソフトウェア品質向上の"変" 2015 江戸」直前インタビュー

@ITは2015年2月4日にセミナー「ソフトウェア品質向上の"変" 2015 江戸 〜今、変革のとき〜」を開催する。その事例講演に登壇予定のヤフー ショッピングカンパニー プロダクション本部 本部長/テクニカルディレクター 平田源鐘氏に「eコマース革命」の内部で、何が起こっていたのかを聞いた。

» 2015年01月27日 18時00分 公開
[齋藤公二,@IT]

 2013年10月、ヤフーは「eコマース革命」と題して、Yahoo!ショッピングの出店料と売上ロイヤルティを無料化する施策を発表し、業界に衝撃を与えた。

 発表から1年余で、店舗数は2万から19万に、商品数は7000万点から1億2000万点に大幅増を果たし、「流通総額国内No.1」に向けて爆進中だ(※出店数、商品数は、2014年9月末現在)。そんな革命をシステム面から支えてきたのが、ヤフーショッピングカンパニー プロダクション本部 本部長でテクニカルディレクターを務める平田源鐘氏だ。

「eコマース革命」の内部で、何が起こっていたのか

 Yahoo!ショッピングにおける技術のトップとして、開発手法、システムアーキテクチャ、サービス品質、ユーザビリティ、迅速なリリースのための組織作りといった改革に取り組んできた。「eコマース革命」の内部で、何が起こっていたのか。

ヤフー ショッピングカンパニー プロダクション本部 本部長/テクニカルディレクター 平田源鐘氏

 「出店のハードルを下げ、出店者にとって参加しやすくすることが『eコマース革命』の大きな目的です。出店料や売上ロイヤルティをゼロにしたのは、そのため。システム面からは、出店者がストレスを感じない仕組みや、ユーザーが買い物をしやすい環境をいかに継続的に提供していくかが大きな課題になりました。ビジネスモデルの変更に合わせて、システムへの取り組み方もがらりと変える必要がありました」(平田氏)

 2013年4月からYahoo!ショッピングの技術面での指揮を取ってきた平田氏は、“革命前夜”の動きをそう振り返る。Yahoo!ショッピングは、1999年のサービス開始以来、出店料と売上ロイヤルティを基本とするビジネスモデルを展開してきた。

 以前は、どちらかといえば商品管理や決済といった出店者のビジネスを支えるBtoB向け機能の開発が中心であり、開発手法としてはウォーターフォール型を採用。品質をしっかりと作り込むスタイルで進めてきた。平田氏は「eコマース革命」に合わせて、このスタイルを大きく変えた。

 「eコマースは総合技術です。商品管理や決済機能といったバックエンドの仕組みだけではなく、店舗向けの機能や、フロントエンドのユーザビリティやユーザーエクスペリエンスなどを含めたさまざま技術の相互連携の上で成り立っています。そこで、顧客との接点になる機能開発については、高速にPDCAサイクルを回せる仕組み作りを進めました。BtoBの一部だけではなく、BtoC向け機能も含め、サービスの特性に合わせて品質を改善するスタイルを作ろうと考えたのです」(平田氏)

 フロントエンドのWebサービスやモバイル向けアプリなどを見れば分かるように、システムに求められる機能は、時々刻々と変わってくる。バックエンドとフロントエンドの開発文化の違いを越えて連携できる仕組みを作り、それを継続的に改善していく必要があった。

タスクフォースでは「課題をビジネスと共有する」点が重要

 また、ビジネスモデルが変わったことで、記事や広告を展開するためのメディアなど新しい機能の開発も求められた。そんな中で、平田氏が注目したのが、顧客との接点からサービス品質を向上させることだった。「顧客」というのは、利用料を得てきた相手ではなく、サービスに関わるユーザー全てのこと。ユーザーのニーズを汲み取り、それをサービス改善につなげていくための小さなチームを作った。

 「タスクフォースと呼ぶ小さなチームをいくつも組成して、ビジネスの課題から仮説を立て、実験を行って検証しています。チームには、営業、開発、デザイナー、サービス企画などが参加。現場レベルで、ビジネスとシステムのアイデアを出し、うまくいったら、それを横展開して大きな取り組みにしていく体制です」(平田氏)

 タスクフォースでは「課題をビジネスと共有する」点が重要だという。以前までは、エンジニアの業務として、例えば「データベースのスキーマを変える」といった具合に、“タスクだけが落ちてくる”ケースが多く、目の前の作業に追われてビジネス目標を見失いがちだった。

 だが、今はエンジニア自身が、「流通総額を上げるために、ショッピングカートのドロップ率を下げる仕掛けを作ってはどうか」といったビジネスにひも付けたアイデアを出している。また、営業担当者が出店者から聞いたシステムの課題をチームで共有したり、カスタマーケアから上がってきた要望を共有したりする。こうした、小さな改善を回す仕組みを使って、サービス全体の品質を向上させているのだ。

 「もともとエンジニアはロジカルに物事を考える人々ですから、課題に対してピントがずれることはほとんどありません。チームとして議論することで、スピードと品質を両立できるようにもなりました。また、最初は小さく作ることで、必要のない機能にコストや時間を掛け過ぎてしまったり、作ったのに使われなかったりといった事態も避けられるようになりました」(平田氏)

 タスクフォースが取り組むテーマはさまざまだ。システムアーキテクチャをどうするかといった全体に関するものから、セキュリティや可用性などの非機能要件に関するものもある。平田氏によると、Yahoo!ショッピングのシステムアーキテクチャとしては、従来は、決済やWebサービスなど、サブシステムごとに密結合していたものをAPIで疎連携できるアーキテクチャに移行させてきたという。また、セキュリティや可用性などの非機能要件については、Yahoo! JAPAN全体で共通基盤や共通ライブラリを利用するなどして効率化を図っている。

Yahoo!ショッピングの失敗と改善、それを支えた“秘密”とは

 「われわれにとって、ソフトウエアの『品質』とは、『買い物におけるストレスをゼロにすること』です。サービスを提供する相手によって、品質の意味は変わってきます。商品管理、決済、セキュリティ、Webのレンダリング速度、レスポンス、検索のしやすさ、レコメンド、それぞれに良い品質が求められます。それに応えるために、小さなチームで仮説を立て、テストして品質を改善しています。ユーザーに問うことまで含めて“テスト”である、そんな考えで取り組んでいます」(平田氏)

 Yahoo!ショッピングの「eコマース革命」を支えているのが「ユーザーファーストの品質改善とテスト」であることは間違いない。実際、この1年余りで、ここで紹介できないほど多くの失敗と改善を繰り返してきたという。

 その詳細は、2015年2月4日、平田氏が登壇する@IT編集部主催のセミナー「ソフトウェア品質向上の"変" 2015 江戸 〜今、変革のとき〜」で詳しく解説される。具体的には、Yahoo!ショッピングが取り組んできたサービス改善の事例と、それを支えた“秘密”を詳細に明かす予定だ。

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