戦略転換で「現実のSDN」を開拓するBig Switch Networks2014年12月に日本オフィス設立

SDNベンダーの米Big Switch Networksは、2014年12月に日本法人を設立、日本市場の本格的な開拓を始めた。同社は、初期のSDNブームで脚光を浴びたが、現在の事業戦略は当時とはかなり異なっている。CEOのダグラス・マレー氏に聞いた。

» 2015年02月16日 12時48分 公開
[三木 泉,@IT]

 「私が(CEOとして)入社したころは、既存スイッチベンダーとは同盟関係にあった。今は、こうしたベンダーとは競合関係にあり、VMware NSXとは補完し合える関係だ」と、米Big Switch Networks CEOのダグラス・マレー(Doug Murray)氏は表現する。

 Big Switchは当初、OpenFlowコントローラを提供する企業だった。OpenFlow対応スイッチを対象として、このプロトコルを活用し、柔軟なトラフィックフローステアリングを実現することをアピールしていた。だが、2013年3月には「Switch Light」というスイッチ用OSを発表、これによってベアメタルスイッチ(「ホワイトボックススイッチ」とも呼ばれる)を利用する選択肢を提供し始めた。

 マレー氏が同社のCEOになったのは2013年11月。つまりSwitch Light発表のかなり後だが、同氏はこれを活用して、自社の市場に対するメッセージを大きく変えた。つまり、「OpenFlowという水平分業の世界の構成要素の一つとしてOpenFlowコントローラを提供する」のではなく、「通信事業者やクラウドサービス事業者、大企業のデータセンターにおけるネットワークの(Big Switchが考える)理想形を、エンド・ツー・エンドで提供する」ということだ。

 「誰もが、グーグルやフェイスブックのようなハイパースケール・データセンターのネットワークをつくりたいと言う。だが、グーグルにはBig Switchの社員数と同じくらいの数のネットワークエンジニアがいる。金融機関や通信事業者は、そこまでのリソースを確保できない」

 そこで、ハイパースケール・データセンターのネットワーク設計のメリットを、技術リソースが少ない組織でも安心して享受できるようにするため、必要なものをまとめて提供することが、Big Switchの現在注力している付加価値なのだという。

 具体的には、Big Switchが2014年7月に発表した「Big Cloud Fabric」という製品を採用することで、ハイパースケール・データセンターに見られるようなリーフ/スパイン構成のネットワーク設計を導入できる。ケーブリングさえ適切に行えば、ベアメタルスイッチへのスイッチOSの導入からスイッチの初期設定までを、ノータッチで実行できる。あとはGUI、コマンドライン、REST APIを通じて、レイヤ2/レイヤ3構成、マルチテナント対応などのためのネットワーク設定を論理的に行える。

 このネットワークは、拡張が容易なだけでなく、いずれかのスイッチに障害が発生しても、ネットワークが落ちることはなく、障害の発生したスイッチを入れ替えればいい。スイッチOSのアップデートやアップグレードも、ネットワーク運用を止めることなく実施できるという。

 「16ラックをフルに構成した、4万のエンド端末を接続するネットワークを、10分以内にダウンタイムなしでアップグレードできる」(マレー氏)

Big Cloud Fabricは、拡張性、効率性、自動化といった特徴を持つハイパースケール・データセンターのネットワークを、技術リソースが少ない企業でも活用できるというのがポイント。2015年1月末に発表したバージョン2.5では、仮想スイッチへの対応を通じて仮想化環境のサポートを強化、VMware vSphereとは運用における統合度を高めた

 Big Switchは、以前と同じように、スイッチとコントローラのやり取りでOpenFlowを使っている。だが、Big Cloud Fabricという製品は、スイッチ上で同社のOSを動かし、このスイッチOSが同社のコントローラとやり取りすることを前提としている。同社がハードウェア互換性という点では各種のOpenFlow対応スイッチに対応しながらも、Big Cloud Fabricで積極的にサポートするスイッチとして、デルのOpen Networking Switchシリーズと、Acctonの子会社であるEdgeCoreのスイッチのみを挙げている理由の1つはここにある。

 では、Big Switchがスイッチ側のOSをコントロールできるようになった今、OpenFlowという標準に固執する意味は少なくなっているのではないか、ベンダー拡張をどんどん加えていってもかまわないのではないか、とマレー氏に聞いてみた。同氏の答えは次のとおり。

 「OpenFlowを今後も推進していく。われわれがやっていることは全て、オープンな標準に基づいているということが、顧客に評価されているからだ。だから、Open Compute Project、Open Networking Foundation、OpenStackへの貢献を続けている。われわれの活動の柔軟性を確保するために、OpenFlowは重要な意味を持つ」

 Big Switchの製品は、OpenFlow 1.3に基づきながらも、ベンダー拡張を付加している。「これはユーザーにとっては、(プロトコルの詳細を)気にすることなく、われわれが標準に基づいて提供する機能を有効に活用できるようにすることが目的だ」という。

まずは大規模な企業、事業者のデータセンターに注力

 Big Switchは以前、八方美人的なところがあったと認めるマレー氏は、現在のところ顧客や用途を絞って、Big Cloud Fabricを提供している。まだ歴史の浅い小規模な企業として、ターゲットを明確にする必要があると話す。

 現在、同社が主な顧客ターゲットとしているのは、通信事業者、クラウドサービス事業者、そしてFortune 2000にリストされるような大規模企業。一般企業については、社内データセンターに限定している。「キャンパスネットワーク(社内LAN)に関する話があっても、今のところは断わるようにしている」(マレー氏)。

 しかも基幹業務を支えるネットワークの入れ替えではなく、仮想デスクトップ(VDI)、ビッグデータ、OpenStackによるプライベートクラウドといった新たなITニーズでの導入を推進しているという。「コアは既存ルータのままで構わない。VDIなど新しいニーズが見えているところで使ってほしい」という。

 データセンター以外の用途や、より小規模な企業への訴求は、次の段階として考えたいとしている。

米Big Switch Networks CEOのダグラス・マレー氏(中央)、ワールドワイドセールス担当倍スプレジデントのショーン・ペイジ氏(左)、日本カントリーマネージャーの柳宇徹氏(右)

 Big Switchは米国以外で初めてオフィスを設置する国として、日本を選んだ。同社における見込み案件の約30%を日本が占めることもあるが、「通信事業者や企業における、品質テストに関する活動が、他の国に比べて優れている。日本におけるベストプラクティスを持ち帰って、自社のQA活動に生かし、製品をより良いものにしようとしている。私は、ネットワーク製品に限らず、ITインフラ製品で日本における成功を収めれば、他の国でも高い確率で成功できると、強く信じている」とマレー氏は語った。

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