クリック・テクノロジーズは、2015年2月にセルフサービスBIツールの新製品、「Qlik Sense」を提供開始した。では、同社がこれまで提供してきたQlikViewとの違いは何なのか。これを分かりやすく説明する。
セルフサービスBIツールを語る時、忘れてはならないことに、次の2点があります。それは、「ビジネスの最前線にいる人が、ツールに関するスキルを取得することなく、データをビジネスに活用することを積極的に支援できれば、BIに新たな可能性が生まれること」、そしてもう一つは、「ツールとしての使いやすさと、分析や表現に関する高度な機能は、必ずしも両立しないこと」です。BIツールベンダーである米クリック・テクノロジーズ(以下、クリックテック)の戦略は、このことを示す、一つのいい例だと思います。
クリックテックは、自社のBIツール「QlikView」を説明するため、「セルフサービスBI」というキーワードを使ってきました。これを知っている読者は、筆者が最近書いた「『セルフサービスBI』って、いったい何?」という記事に、「何を今さら」と思われたかもしれません。
しかしクリックテックは、2014年末(日本国内では2015年2月)に「Qlik Sense」という新しいBI製品の提供を開始しました、これは、セルフサービスBIの新たなトレンドに対応するためです。クリックテックジャパンは2015年4月中旬に開催した事業戦略説明会で、2製品を共に推進していくことを、改めて宣言しました。
QlikViewとQlik Senseには、共通の機能がたくさんあります。では、なぜクリックテックは、2つのBIツールを提供するようになったのでしょうか。QlikViewとQlik Senseの違いは何なのでしょうか。
2つの製品の根本的な違いは、製品のユーザー層にあります。QlikViewが直接のユーザーとして想定しているのは、情報システム部門や、「データアナリスト」「データサイエンティスト」「ビジネスアナリスト」と呼ばれる人たちです。こういう人たちがQlikViewを使い、インタラクティブなダッシュボードを作成します。これを、よりビジネスに近いユーザーが活用して、ドリルダウンなどの操作を行い、情報を探索できます。
この製品のポイントは、一般ユーザーが自らダッシュボードを作成しないからといって、受動的に情報を「見る」だけに終わらず、多角的に分析できるようにしていることです。一方、情報の活用に、ダッシュボードを作成する人と、これを積極的に使う人という役割分担があるものですから、高度な分析機能に加え、きめ細かな設定が行えるようになっています。
これに対し、QlikSenseが想定しているのは、一般的なビジネスユーザーです。「データ分析を本業としない一般のビジネスパーソンが、パワーユーザーの支援を受けることなく、自らデータを操作・探索し、ダッシュボードを作成して自分で使い、場合によっては他のユーザーと共有する」というのが、この製品の典型的な利用形態です。このため、使いやすさは最優先課題となっており、細かな設定については「決め打ち」されている点があります。
クリックテックは、現在ではQlikViewを「Guided Analytics」と呼び、Qlik Senseを「Self-service Analytics」と表現するようになっています。
2製品間のユーザー層の違いは、使いやすさの違いにつながります。Qlik Senseは、データ分析を本業としないビジネスパーソンの利用を想定していますので、ツール自体の使い方を習得したり、複雑な手順を踏んだりすることなく、活用できることに重点が置かれています。従って、表現の自由度や機能に関してはQlikViewよりもシンプルになっています。
ユーザー層の違いは、2製品の価格体系にも反映されています。
QlikSenseは実のところ、エンドユーザーが自らの端末にインストールして使う「Qlik Sense Desktop」と、データのアクセスや制御、共有をつかさどるサーバー製品の「Qlik Sense」に分かれています。そして、Qlik Sense Desktopは、BIツールとして、機能に特段の制限が加えられていないにもかかわらず、無償で提供されています。要するに、クリックテックは、「デスクトップ製品ではユーザーを増やすことに専念し、サーバー製品でビジネスをする」ことを考えているわけです。Qlik Senseが組織で本格的に活用されるようになるにつれ、サーバー製品を導入するケースは増えていくのでしょう。しかし、各ユーザーが、フル機能のセルフサービスBIツールがどんなものなのかを体験し、「自分に活用しきれるのか」「自分の業務に役立つのか」を確認するには、便利な製品といえます。
製品価格は、セルフサービスBIの導入を検討するうえで、重要なポイントです。
「セルフサービスBIツール」と呼ばれる製品では、ソフトウエア、サービスのどちらの形態で提供されているとしても、一般のビジネスパーソンに広く利用してもらうことがテーマとなっています。従って、ライセンスあるいは利用料は、ユーザー単位であり、しかも比較的低価格なものが多いのが特徴です。とはいえ、製品によって価格には大きな違いがあります。多数の一般社員が活用できるようにしたいと考えても、製品コストがネックとなって実現できないケースもあります。
ではQlik Senseは、例えばセルフサービスBIにおける注目ベンダーの1社である、Tablau SoftwareのTableauとは、どのような違いがあるのでしょうか。クリックテックジャパンでは、優位性の一例として、同社が「連想技術」と呼ぶ、複数データの結合機能が高度であることを挙げています。例えば、2つのテーブルが読み込まれると、同じ項目名を持つ表や列が検知され、半自動的に関連付けられて1つのデータソースとして扱えるようになるのです。同社はまた、サーバー製品で、データガバナンスに関し、豊富な機能を備えていると説明しています。
クリックテックジャパンは2015年度の事業戦略発表で、上記のQlikViewとQlik Senseの双方に力を入れていくと説明しています。
Qlik Senseのような製品は、「ビジネスの現場にいる人々自身による、機動的なデータ活用を支援できる」という点で、注目されやすい存在です。しかし実際には、そうした利用形態だけになっていくのではなく、QlikViewが実現しているような、パワーユーザーによって整備されたデータ分析環境を、ビジネスの現場の人々が能動的に活用するようなBIのやり方も、さらに広がっていくだろうと、クリックテックジャパンは話しています。結局のところ、データの分析や活用における要件が厳しい場合にはQlikView、幅広いユーザーの活用が最大のテーマとなる場合には、QlikSenseというすみ分けのようです。
どちらの製品についても、重要なテーマはビジネスにおけるデータ分析の活用であり、このために、同社はエンジニアリングリソースを拡充し、コンサルティング活動を強化していくとのことです。
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