地震や台風などの自然災害だけでなく、さまざまな業務リスクをカバーする事業継続計画(BCP)/災害復旧(DR)対策。クラウドでこれを実現するのが「Microsoft Azure Site Recovery(ASR)」だ。ASRではシステム全体を丸ごとクラウドへ複製するため、“クラウドへの入り口”としても活用できる。
「クラウドファースト、モバイルファースト」を掲げるマイクロソフトは、仮想化テクノロジ「Hyper-V」を含むWindowsテクノロジをベースとして、オンプレミスとクラウドの両方でIT基盤を展開。そのメリットは、オンプレミスで稼働する業務システムをクラウドに移行したり、逆に戻したりすることが容易になることだ。今後の企業IT基盤の主流になるであろう「ハイブリッドクラウド」(オンプレミスとパブリッククラウドのシームレスな活用など)においても、高い相互運用性が大きな優位性となってくる。
テクノロジ面での優位性を生かし、マイクロソフトは日本国内でもクラウドサービス「Microsoft Azure」(以下、Azure)を企業の基幹系システムを支えるIT基盤として積極的に推進していく方向へと向かっている。
2014年2月には、東日本と西日本の2拠点(リージョン)にAzureのデータセンターを開設。海外データセンターの利用では避けられない応答速度(レイテンシ)の遅さを解消するとともに、国内にシステムやデータを置いておきたい、大規模災害発生時の事業継続力を確保したいといったニーズを持つ企業ユーザーの声に応えた。
2015年1月には、Azureとの閉域網(専用線)接続サービス「Microsoft Azure ExpressRoute」の提供も開始。企業のデータセンターやサーバールームとAzureデータセンターを専用線でつなぐことで、高速でセキュアな接続を実現した。さらに、「Microsoft Office 365」と「Microsoft Dynamics CRM Online」に関しても、国内データセンターからのサービスを開始している。
「クラウド市場の成長に伴い、Azureは日本でのサービス開始以来、前年度比3桁成長を続けています」と、日本マイクロソフトの廣野淳平氏(サーバープラットフォームビジネス本部 シニアプロダクトマネージャー)はクラウドビジネスの状況を説明する。
さらに、「新たにシステムを開発するにあたっては、約70%の企業がクラウドを前提に考えているという調査データもあります」と語る。
クラウドに対する積極的な投資と並行して、マイクロソフトはAzureの位置付けも企業や社会の求めに応じてダイナミックに変更してきた。サービス開始当初こそマイクロソフト/Windowsのテクノロジが中心だったが、現在はLinuxやJava、PHPなどのオープンソースソフトウエアやOracle Database、Apache Hadoopなど、幅広いテクノロジ/サービスを提供。あらゆるビジネスニーズに応えられる総合的なクラウドへと進化させるべく、データベース、バックアップ用ストレージ、機械学習(Machine Learning)、メディア配信、モバイル配信、Desktop as a Service(DaaS)などの多様なサービスを次々と追加している。
そうした、今の企業に必要なサービスの一つである事業継続計画(BCP)/災害復旧(DR)対策を、そのままクラウドへの移行に結び付けられるソリューションとして「Microsoft Azure Site Recovery(ASR)」の提供を開始している(画面1)。
ASRは、オンプレミスの仮想マシン全体(OS、ミドルウエア、アプリケーション、データ)のレプリカ(複製)を、Azure上に作成してバックアップを実現するソリューションだ。
企業ユーザーがASRを利用する大きなメリットの一つが、BCP/DR対策を低コストかつ短期間で実現できることにある。これまで必須だったMicrosoft System Center Virtual Machine Manager(VMM)も不要になったことで、導入の敷居はさらに低くなった。仮想マシン1台当たりの料金も月額5508円からとリーズナブルなことから、これまで対策したくてもできなかったという中堅中小規模の企業も十分検討できる状況になったといえる。
ASRでAzure上に複製された仮想マシンは、BCP/DR対策用の予備システムとしてだけではなく、“普段使い”のメインシステムとしても活用できる。
ASRで実現できるBCP/DRの形態は、「Site to Site」(予備データセンターへのVHDの転送をAzureから管理)と、「Site to Azure」(Azureを予備データセンターとして使用)の2種類。必要な投資が少なく、クラウドを活用できるSite to Azureを中心に利用が広がっていると見られる。
クラウドは仮想マシンに割り当てるリソースをいつでも自由に変更することが可能だ。一時的にリソースの割り当てを増やせば、業務繁忙時などのピークカットに使えるし、その逆に十分に増強したクラウド側の仮想マシンをメインシステムとして、古くなったオンプレミス側を予備システムにするといった柔軟な運用も可能になる。
「業務システム単位でBCP/DR対策とクラウド移行を済ませておけば、今後の企業コンピューティングの主流になるであろうハイブリッドクラウドにも柔軟に対応できるようになります。オンプレミスと進化し続けるクラウドの“いいとこ取り”を容易にできるようになります」(廣野氏)
しかし、メインとなる業務システムをAzure上で運用するには、「取りあえず動けさえすれば十分」という状態のシステムに、単純にCPUやメモリなどのリソースを増強するだけでは足りない場合も多い。
「実際、現状のAzureではハードディスク容量、使えるドライブ文字やネットワークインターフェースカード(NIC)の種類など、いくつかの制限事項があることも確かです」と、廣野氏は説明する。そうした条件下において、クラウドならではのメリットを享受して業務システムを構築するには、クラウドに強いシステムインテグレーター(SIer)の力を借りるのがよいと勧める。
日本マイクロソフトはAzureでの“システム構築の勘所”を伝授するトレーニングを、パートナーであるSIerやITベンダーに実施している。廣野氏によると「“全国区”のSIerについてはトレーニングがほぼ完了し、現在は各地の地場SIerへの拡大を急ピッチで進めているところです」とのことだ。システムの移行や構築業務の委託先を選ぶ際は、Azureのトレーニングを受講済みかどうかも参考になるだろう。
“Azure(クラウド)への入り口”として期待がかかるASRに、マイクロソフトではこれからも機能拡張を続けていく。
2015年の目玉となるのは、異種環境への対応だ(図1)。2015年内にリリース予定の機能追加では、物理サーバー(Hyper-VなしのWindows ServerやLinux)とVMware ESX仮想マシン上で動作しているシステムもサポートされる。オンプレミスがHyper-Vベースであることを前提とする現状のASRに比べて、BCP/DR対策とクラウド移行の幅が大きく広がることになる。
また、現在Windows Server 2012 R2のみに対応しているHyper-V版ASRのホストOSに関しても、Windows Server 2012やWindows Server 2008 R2をサポートできるように開発が進められている。古いバージョンで動いている業務システムも、ASRならではの低コストのBCP/DR対策の恩恵を受けられるようになり、Azureへの直接移行も可能になる。
「Azureはワールドワイドで展開し、最新のテクノロジと最高のパフォーマンスが得られるパブリッククラウドです。お客さまのハイブリッドクラウドでAzureをフル活用していただくには、既存のIT環境にあるデータとアプリケーションをクラウド側にどうやって移していくかが鍵になります」と、廣野氏。今後、ASRはBCP/DR対策だけでなく、既存IT環境とAzureを結び付ける「太い橋」としての役割も担っていくことになりそうだ。
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