SAPもクラウドプラットフォーム展開を本格化。日本国内でのデータセンター開設はいつになる? イベント「SAP Tech JAM」で、動向をウオッチした。
2015年5月21日、SAPジャパンはイベント「SAP Tech JAM」を開催しました。実は日本においてSAPの技術を中心にエンジニア向けにイベントを開催するのは初めてです。
基調講演に登壇したのは、独SAPの欧州、中東、アフリカおよび東ヨーロッパを統括するCTO(最高技術責任者)であるRolf Schumann氏。同氏が強調していたのは「『SAP HANA』は(もはや)データベースではなくプラットフォームである」ということ。当初SAP HANAそのものは、大量データの高速処理とリアルタイム分析を実現するインメモリデータベースとして登場しました。しかし、現在では単なるデータベースではなく、SAP ERPをはじめとする多様なビジネスアプリケーションを高速に実行するための“プラットフォーム”として進化しており、SAPのビジネスアプリケーション群もSAP HANAへの搭載を前提に最適化が進んでいます。
続くセッションではSAPジャパンの門谷国彦氏が次世代開発プラットフォーム「SAP HANA Cloud Platform」(以下SAP HCP)をより詳しく解説しました。こちらのサービスはグローバルでは昨夏ごろ開始しており、日本では今年から本格的な展開が始まったところです。
ここで、まずSAPが提供するサービスの全体像を見てみましょう(図1)。
ERPなどをマネージドクラウドで提供する「HANA Enterprise Cloud」(画面左)があり、買収した会計アプリケーション「Concur」や人事アプリケーション「SuccessFuctors」などのSaaS(Software as a Service、画面右)がある中で、アプリケーションサービスやデータベースサービスを提供するPaaS(Platfrom as a Service)としてSAP HCP(画面中央)があります。
SAP HCPはSAP HANAの技術を中核としてクラウド上でアプリケーションを開発、拡張、実行するためのプラットフォームです。あくまでも「プラットフォーム」(基盤)ですから、データベースだけではなくてアプリケーションの開発から運用までを想定してサービスが提供されています。門谷氏は「SAP HCPはクラウドネイティブのアプリケーションを開発するためのプラットフォームとしてご利用いただけます」と話していました。
またSAP HCPはSAPの技術だけではなく、PaaS部分には「Cloud Foundry」やHTML5、アプリケーションコンテナーの「Docker」、IaaS部分には「OpenStack」といったオープンスタンダードを積極的に採用しているところも特徴です。そのメリットとして門谷氏は「アーキテクチャの陳腐化が避けられます」と説明していました。
SAP HCPを構成するサービスは大きく分けて三つあります。(1)インフラサービス、(2)データベースサービス、(3)アプリケーションサービスです。
(1)インフラサービスはSAP HANAを稼働させるためのインフラ部分に当たります。(2)データベースサービスはSAP HANAが持つ機能をサービスとして提供するものです。これには単なるデータベーストランザクションだけではなく分析、ストリーミング、予測、地理空間、テキストマイニングなど、データに関する処理が含まれています。(3)アプリケーションサービスはアプリケーションを開発するためのスタックやツールが各種盛り込まれています。例えばモバイルアプリを作るための部品、画面表示のための部品などです。
それぞれのサービスをより細かく見ると図2のようになります。
図2の黄色の部分が2015年に拡張を予定しているものです。例えばIoT(Internet of Things:モノのインターネット)分野では、先日米国で開催された年次イベント「SAPPHERE NOW」で発表された「SAP HANA Cloud Platform for the Internet of Things(IoT)」が該当します。
門谷氏は「SAPらしいところはインテグレーションのためのサービスもあることです」と話します。というのも、SAP HCPではオンプレミスとクラウドとを連携するためのコネクター(=システムインテグレーションのための道具)すらも「サービス」として提供されているからです。
また門谷氏は「SAP HCPは毎年どんどん成長しています。今はサービスとして提供されていなくても、半年後には追加されているかもしれません」とも。利用するならば、成長の早さを見込んでおいた方がよいとのことです。
気になるのは実際のサービスレベルでしょうか。SAP HCPのサポートは「24/7」(1週間の内7日24時間営業、つまり「年中無休」)、プラットフォームの稼働率は99.9%、運用は「ISO/IEC 27001:2013」に適合したプロセスで行われているとのことです。
利用を検討する側からすれば、SAP HCPを提供するデータセンターの所在地も気になりますよね。SAPのデータセンターは既に日本に存在していますが、SAP HCPのためのデータセンターはまだ日本にはなく、現在「準備中」とのことです。
現時点でSAP HCPのデータセンターがあるのは米国、ドイツ、オーストラリアです。ユーザーはこの中からアプリケーションの実行とデータの保存に使用するデータセンターを選択します。近いうちに日本も選べるようになりそうです。
最後に、門谷氏はイベント来場者にSAP HCPのトライアルへの参加を呼びかけていました。「SAP HCPの日本データセンターが開設される日を早めるには、日本の皆さんがどれだけSAP HCPのトライアルにログインするかで決まります」。
SAPでは、どの国からログインしているか、その動向を見て需要動向を判断しているそうです。
参考資料は「SAPのHelp Portal(リンク)」の「Cloud」メニュー、またはYouTubeで「HANA Academy」や「HANA Cloud Platform」で検索すれば動画チュートリアルにアクセスできます。
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