EMCジャパンが2015年10月15日に東京で開催した「EMC Forum 2015」では、ビッグデータや第3のプラットフォームに関するパネルディスカッションが行われた。「ビッグデータは活用しさえすればいいわけではない」「現在の第2のプラットフォームも、大部分が未知のアプリケーションだった」といったコメントが聞かれた。
「ビッグデータを活用しさえすればいいと思っている人が多いが、これはよくある誤解だ」と、東京大学の先端科学技術研究センター特任教授である稲田修一氏は話した。データ分析と機械学習・人工知能の活用により、ビジネスや社会活動において、これまで人間が行ってきた認識や判断を自動化し、さらに未来の社会に関する予測を基に、取るべき行動を考えるところにイノベーションがあるという。
IoT(Internet of Things、モノのインターネット)によって、実世界のさまざまな事象を把握できるようになってきている。一方で、データ分析に関する各種の技術が発達し、認識・理解・判断の自動化ができるようになってきた。そこで分析と実世界のフィードバックループをつくることで、制御などを高度化、精緻化できる可能性が生まれる。
ただし、実際には、ビジネスや社会の課題解決のためにデータをどう生かせるかは、試行錯誤が必要であり、その過程が重要だと稲田氏は訴えた。収集すべきデータや適切な分析手法は、試行錯誤の先に見えてくるものであり、それこそが企業競争力や社会的な価値創出につながるという。
稲田氏は、自動車産業を例に、イノベーション創出のポイントは、未来の社会や価値観の変化について仮説を立て、取るべき対策についてデータ分析を活用していくことにあると話した。
例えば、「将来は自動運転技術の進化などにより、自家用自動車を所有するのではなく、カーシェアで使う動きが大規模化する」という仮説を立てたとする。これは、社会に必要な自動車台数の大幅な減少につながる。自動車メーカーとしては大問題だ。そこで、自動車の所有意欲を高めるための戦略を立て、実行するとともに、データ分析によってその効果を計測していく必要がある、という。
イノベーションをもたらすIT活用の好例は、すでに官公庁で見られると、稲田氏は指摘した。高度成長期につくった社会インフラの維持管理の取り組みである、国土交通省の「インフラ長寿命化計画」だ。
国土交通省では、社会インフラの将来における課題を予測し、モニタリング技術に関する現場ニーズを明確化して、これを公開した。組織としての課題を明確化し、これを周知することで、幅広い関係者の意識改革が実現。これに基づいて、実際に現場での取り組みを進め、IT企業との協業など、衆知を結集できるようになったという。
EMCの Asia Pacific and Japanプレジデント、デビット ウェブスター(David Webster)氏は、海外ではあらゆる産業で、顧客の求めるものが変わりつつあり、あるいは顧客に新しい価値を提供するために、データを活用する例が目立つようになってきていると話した。一つの例として、同氏はBMWを取り上げた。
BMWでは顧客に、拡張現実の世界で自動車を運転してもらって各種のデータを取得、これを自動車の設計プロセスにフィードバックしているという。このように、ビジネスにおけるIT活用では、「ユーザーエクスペリエンスの変革」が重要なキーワードの一つになっているという。
「第3のプラットフォーム」という言葉を生み出したのはIT調査会社のIDC。第1のプラットフォームはメインフレーム、第2のプラットフォームはクライアント/サーバー、第3のプラットフォームは、簡単にいえば組織内外のクラウドを基盤とする世界だ。
IDC Japanのリサーチバイスプレジデントである中村智明氏は、どんなアプリケーションが第3のプラットフォームで花開くのかは誰にも分からない、第2のアプリケーションへの移行期にも、85パーセントは未知のアプリケーションだったと話した。
とはいえ、儲けていく過程に直接関わる各種アプリケーションが、第3のプラットフォームを基盤とするであろうことははっきりしている。業務の裏でこれを支える管理システムも、「儲けるプロセス」への関わりを強めるに伴い、「クラウドイネーブルド(クラウドアーキテクチャへ移行する)」になってくる。
中村氏は、今後のIT支出において、第3のプラットフォームが伸びる一方、第2のプラットフォームが縮小していくという点がポイントだと話している。
野村総合研究所理事の楠真氏は、PivotalやAmazon Web Services(AWS)の話を聞くと、ソフトウエア開発手法が根本的に変わりつつあることを実感させられると話した。
AWSには「Two Pizzas Rule」という言葉がある。2枚のピザを分け合える規模のチームで、一つのサービスプロダクトを開発するという意味だ。こうした新世代の企業は、ウォーターフォール的な開発手法など全く考えていない。中期計画に従い、概要設計、詳細設計という段階を踏むような、メインフレーム時代の発想はない。マイクロサービス、継続的デリバリーの世界だ。これが新サービスの大量で機動的な展開につながっている。
野村総研の金融クラウドも、このような第3のプラットフォームに向けた同社の取り組みの表れだという。この金融クラウドは、自社のクラウドデータセンター3拠点と、AWSで構成されているが、自社データセンターは2016年度中に4拠点に増やすという。
こうした取り組みを通じ、野村総研は再販からサービスへの、ビジネスモデルの変革を進めているという。今後、ITハードウエアはサービス事業者を通じて顧客に供給される流れが本格化し、再販に依存し続けるIT企業は生き残れなくなるだろうと、楠氏は話した。
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