編集部 ではDevOpsの実践に向けて、皆さんはそれぞれどのような手段とサポートを用意しているのでしょうか。ポイントを教えていただきたいのですが。
藤井氏 日本ヒューレット・パッカードとしては、DevOpsという言葉が出てくる前から、開発や運用の効率化ツールを提供してきました。すでに市場の中にノウハウも蓄積されてきているので、DevOpsの実現でも「全てをまかなう新しい専用ツール」を提供することよりも、それらの既存ツールをうまく組み合わせるというアプローチを採ります。特に、品質に敏感な日本市場では、「短いサイクルの中でいかに品質を担保するか」という点を重視していきます。
さまざまなITサービスが浸透している今、その品質に対するユーザーの評価は以前よりかなり厳しくなっています。DevOpsは短期でリリースすることになるため、品質が悪ければそのスピードで会社の信頼やブランドを低下させることになります。品質に対するより一層の配慮が必要です。
これを実践してもらうために、DevOpsの成熟度モデルを基に、次に何をすべきかを明確に整理した上で、手段としてツールを提案していますね。先の話のように取り組みのハードルを下げたり、経営層への提案、説明をサポートしたりもしています。
参考リンク:HP DevOps(Hewlett Packard Enterprise)
川瀬氏 日本IBMとしては、「DevOps」というキーワードで提案するときは「Dev」と「Ops」それぞれの狭い領域ではなく、きちんと「LOB(Line of Business)から開発、運用につないで、最終的に市場の顧客満足度を獲得する、ビジネスにきちんと貢献できる」といった、ビジネス視点でのライフサイクルを基にDevOpsを回していく形を提案しています。
従って、まずは顧客企業と「何を実現するか」をお話しして、「その顧客にとってのDevOps」を定義します。ツールありきでDevOpsの話をしても、予算取りをしやすいなどのメリットもあるものの、「ビジネスの課題解決」という目標達成につなげていくのが難しいところがあるためです。
そこで、まず提案するのはアセスメントワークショップで、顧客企業のビジネス目的と、そのために取り組んでいることを弊社の「DevOps成熟度モデル」に照らし合わせて、目的に向けて何をすればよいのか、一緒に整理して最終目標に向けたロードマップを作っていく。ツールだけを一気に提供するのではなく、一緒に考えて、短期、中期、長期のロードマップを作り、そのために必要なツールを手段として提案することが弊社のポイントです。また、DevOpsのサイクル全体をカバーできる製品ラインアップの広さもIBMの特徴ですね。
参考リンク:IT サービス・デリバリーの加速が、ビジネス成功のカギ(日本IBM)
渡辺氏 CA technologiesとしては、DevOpsで重要なポイントはやはり「10 deploys/day」であり、実現のキモは「リリース自動化」にあると考えています。これを柱にして、「ボタンを押せば、開発から本番まで自動的にデプロイできるようにしましょう」と提案しています。DevOpsのポイントとして「構成管理ツールとの連携」などもありますが、最大のポイントはここだと考えます。
ただし、最も大切なのは顧客企業の「目的」なので、「DevOps」だったり「継続的デリバリー」だったりと、顧客企業の状況に応じて提案する際に使う言葉は変えています。まずは「開発環境の自動デプロイ」を考え、「そのステップ以降のデプロイをどうするか」を考える。「今、一番時間がかかっている部分を自動化しませんか」という提案が最も分かりやすいと思います。その上で構成管理ツールや、運用管理ツールとの連携を提案する。あるいは「サービス仮想化を使って、テスト工程をどう前倒しするか」などを提案していく。
「自動化なんて怖くてできない」という人もいますが、ミスを完全になくすことができない点で、本当は人手の方が怖いはずです。また、ユーザー企業が「怖い」というのは、「ツールを入れること」自体よりも、「それで承認プロセスを回せるのか」という点にありますが、自動化を取り入れても、人による承認プロセスを一連のフローに組み込むことは当然できます。
参考リンク:DevOpsとは(CA technologies)
編集部 ビジネス目的を達成する上で、DevOpsで要求されるスピードをどう担保するか。そのためには人手ではスピードでも確実性でも、限界があるというわけですね。
長沢氏 アトラシアンの場合、会社のスタンスとして営業活動をしておらず、クチコミで製品・サービスを浸透させていく形を取っています。ですので、必然的にDevOpsを提案することも、自社製品の提案をすることもありません。私はエバンジェリストなので相談を受ければ訪問して話をしたり、講演を行ったりしています。そこではまず「事実」を伝えます。先の話のように「定義がない」ことや「目的」「必要な要素」などを解説し、「現場で判断してください」と伝えます。
ツール導入や実践のポイントとしては、「サービスを企画してからデプロイするまで、もしくは、その後の運用も含めた全体の流れを作ってみてください。その流れを作るために必要なツール、取り組みを考えてください」と促します。アトラシアンは「JIRA」というプロジェクト管理ツールがよく知られていますが、「それだけを入れるのはやめてください。全体の流れが回るように、そこで必要となる各関係者間のコンセンサスが得られるようにしてください」「利害関係者は開発部門内の人だけではありません。他部門のステークホルダーを巻き込める仕組みを考えてください」と説明します。
あとは具体例を見せて、イメージを持ってもらうことを重視しています。もちろん、私が訪問したところでアトラシアンのツールが入るとは限りません。すでに必要なツールを持っていた場合、「それを使ってやってみました」となるケースもあります。
編集部 DevOpsの全体の流れと、それを回す仕組みができるのなら、選ぶのは他社製品やオープンソースソフトウェア(以下、OSS)でもいいというわけでしょうか。
長沢氏 そうです。試してもらい「自分たちで考えてもらう」ことを重視しています。「自分たちの場合は、どのような仕組みが必要なのか」を話し合うと課題が明らかになってきます。それはデプロイ自動化かもしれないし、もっと前の企画段階かもしれない。そうした考えを進めるためのベース作りの支援にフォーカスしています。
参考リンク:
牛尾氏 僕は米マイクロソフト所属ですので、日本の営業部門とは少し違うかもしれません。それを前提に話すと、 僕らがやっているのは、基本的に「考えてもらうこと」。さまざまなプラクティスや事例を知ってもらい、その後に「Value Stream Mapping」と呼ばれるワークショップをやって「何に魅力を感じたか」「何を課題と考えているか」を、企業の方々に考えてもらえるようにファシリテートしています。
このワークショップにプロジェクトマネジャーの方などを呼んで、DevOpsのサイクルを作るためのKPIを設定して、「その達成のためにはどうするか」を自分たちで考えてもらうと、何も言わなくても「ここを自動化できるんじゃないか」「このプロセスは無駄」「1カ月で1デプロイだったのが、これをやると1日でできるのでは」といったことを自分たちで考えていくようになるんです。こちらからはあえて何も言わない方が、参加者のモチベーションが上がりますし、わがごととして捉えます。また、そうした場では「無理」とも思わないものです。
この他、リソースに限りはあるのですが、DevOpsに本気で取り組もうとしているお客さまに、個別にDevOpsハッカソンの実施を支援する「Hackfest」というイベントを実施しています。これはお客さまの事例化を推進するためのDevOpsハッカソンを、お客さまの実際のプロジェクトを分析した上で、マイクロソフトのテクニカルエバンジェリストと一緒に実施するイベントです。
お客さま自身で取り組むため深く理解できる他、テクニカルエバンジェリストが支援しながら一緒にハッカソンをするので、相当効率よくDevOps化を進めることができます。これによって、「いま本当にDevOpsの考えを使って改善したいシステム」の課題解決を支援しています。
参考リンク:マイクロソフトスタックでのDevOpsの実現(MSDN)
編集部 選択するツールは何でも良いというスタンスですか?
牛尾氏 はい。DevOpsはツールの話ではないからです。あえて言えば「Microsoft Azure」です。「Go Azure」してくれれば何を使ってもいいというスタンスです。例えば「Visual Studio Team Services」などを使っていただければ簡単に、素早く10deploys/dayを実現できますが、OSSを好む方もいますし、何よりDevOpsの文脈で言うと、「自分たちに合ったものを自由に選びたい」という顧客ニーズに応えることが大切だと思うんです。
編集部 このように自由に選びたい企業がある一方で、選ぶ自信がない、あるいはそこに時間を掛けたくないといった企業もあるわけですよね。
藤井氏 ワンストップで製品群をパッケージすることで安心感を抱く顧客もいます。それによって負担が下がる部分も確実にあるので、弊社の場合、選択はできますが、「お客さまに負担を掛けないこと」も重視しています。
渡辺氏 先の定義の話のように、「何を選んでも自由です」と言われると、どうしていいか分からなくなる人も多いのではないでしょうか。相談して、ある程度、一緒に道筋を用意してあげるのが大切だと考えています。
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