SIerが社内リーンスタートアップで得られるものとは何なのか特集:Biz.REVO〜開発現場よ、ビジネス視点を取り戻せ〜(7)(1/2 ページ)

積極的に新規サービス開発に取り組んでいるSIerに、力を注いでいる理由や、訪日タイ人旅行者向け専用ネットワークサービスや専用iPhoneアプリを開発するプロジェクトの実状、採用技術、ツール、今後の展開などを聞いた。

» 2016年02月22日 05時00分 公開
[唐沢正和ヒューマン・データ・ラボラトリ]

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市場環境変化が速い近年、ニーズの変化に迅速・柔軟に応えることが求められている。特に、ほとんどのビジネスをITが支えている今、変化に応じていかに早くシステムを業務に最適化させるかが、大きな鍵を握っている。では自社の業務プロセスに最適なシステムを迅速に作るためにはどうすれば良いのか?――ユーザー企業やSIerの肉声から、変化に応じて「ITをサービスとして提供できる」「経営に寄与する」開発スタイルを探る。



 今まで、企業におけるITシステムの重要な役割は、TOCの削減や業務効率化を図ることだった。しかし現在、そうした時代は終わりつつあり、ITシステムをいかにビジネス拡大につなげていくかという「攻めのIT活用」の必要性が問われている。

 こうした状況の中、ITシステムを提供するSIerにも、顧客となるユーザー企業と共にR&D的に新たなサービスを作り、その成果を測り、さらなるサービス開発に生かすことが求められている。つまり、リーンスタートアップの考え方だ。

 リーンスタートアップとは、最小限のコスト・工数で、最低限の機能を持った製品やサービスを試作し、モデルユーザーの反応を見て修正や改良を繰り返しながら、事業化の可能性を探っていく手法。これによって、新規事業での成功確率を大幅に高めることが可能となる。SIerが、ユーザー企業と共にこのリーンスタートアップを実践しようとした場合、やはり自らもリーンスタートアップを経験し、そのための体制を整えておくことが必要となるだろう。実際、数多くのSI案件で培ったノウハウを生かし、SIとは別の新規事業を興すSIerも増えてきている。

リーンスタートアップにおけるフィードバックループの図(記事『プログラマのためのリーン・スタートアップ入門(2):リーン・スタートアップが示す「5つの原則」』より引用)

 今回紹介するオープンストリームも、積極的に新規サービス開発に取り組んでいるSIerの一社だ。同社では、2016年2月2日、自社開発の新サービスとして、訪日タイ人旅行者向け専用ネットワークサービスおよび専用iPhoneアプリケーション「Edamame(えだまめ)- Japanese restaurants guide」(以下、Edamame)を提供開始したが、このサービスはリーンスタートアップから生まれたものだという。

 これから新規サービス開発にチャレンジしようという企業の方は、今回紹介する事例を参考にしてみてほしい。

なぜSIerが新規サービス開発に取り組んだのか

 では、なぜ今、同社は新規サービス開発に力を注いでいるのか。「Edamame」のプロジェクトリーダーを務める同社 システムインテグレーション事業部 システム開発本部 第三部 ITサービスマネジメントグループ デベロップメントスペシャリストの細田友香氏が、その理由をこう語る。

オープンストリーム システムインテグレーション事業部 システム開発本部 第三部 ITサービスマネジメントグループ デベロップメントスペシャリスト 細田友香氏

 「これまで当社では、お客さまが事業活動で使用するITシステムを、お客さまから依頼された通りに開発してきた。そのため、技術提案については高いレベルを誇る一方で、より上流のビジネス企画レベルのソリューション提案は苦手。SIerとしての将来を考えたとき、このままでは、やがて企業の成長が止まってしまうのではないかという危機感も出始めていた。そこで、お客さまの目線に立った開発ができないかと考え、社長が旗振り役となって新規サービス開発のプロジェクトが立ち上がることになる」。

 新規サービス開発によって、実際に自社でサービスを開発・提供することで、ユーザー企業が直面する課題や改良点が見えてくる。この経験を踏まえて提案していくことが、従来までの受託中心の開発から脱却するとともに、よりユーザー企業に近い距離でビジネスを支えていけるSIerになれると考えたのである。

 「また、自分たちで新規事業を立案して実施することは、開発者にとっては最良の学習となる。そして、ここから新しい事業領域が生み出すことができれば、直接自社のビジネスへの貢献にもなる。何より、日常のルーティンワークから離れて多角的に新しいアイデアを議論することは、社員への刺激になり、誰もが活発にアイデアを出し合える企業文化を醸成することにもつながるはず」(細田氏)と、新規サービス開発を行うことで、個々の開発者のさらなるレベルアップも期待できるとしている。

具体的に、どのようなことをしたのか

アイデアの創出とプロジェクトの体制

 まず社内で「アイデア創出ワークショップ」を行い、社員から新規事業のアイデアを募集し、そこから候補を絞っていき、最終的に事業化するアイデアを決定したという。

 「アイデア創出ワークショップでは、210件ものアイデアが集まった。この中から、事業化してみたいアイデアを投票してもらい、票数が多かった上位のアイデアから数件を最終候補としてピックアップ。次に、アイデアごとに数名のチームを作り、事業化に向けて内容をブラッシュアップし、経営トップ層に対してプレゼンを行った。この結果、選ばれたのが、『Edamame』のプロットとなるアイデアだった」(細田氏)。

オープンストリーム CTO 寺田英雄氏

 最終選考での審査基準について、同社CTOの寺田英雄氏は、次のように語る。

 「それぞれのアイデアは、サービスの内容や方向性が全く異なるものだったため、一定の審査基準では判断できなかった。そこで審査では、枝葉末節や数字にはこだわらず、世の中にニーズがありそうな方向感を持ったもの、将来性がありそうなものを重視。また、チームの勢い、やる気のようなものも考慮し、最終的に、今後訪日外国人市場の拡大が見込まれること、また海外ユーザー向けビジネスの経験値を増やすきっかけになると判断して、『Edamame』のアイデアを事業化することに決定した」

 こうして選ばれた「Edamame」のアイデアは、いよいよ事業化に向けて、本格的にリーンスタートアップでの開発に取り組むことになる。開発に携わったメンバーは、細田氏をリーダーに、フルタイムメンバーがCTOの寺田氏と新人社員3人、掛け持ちメンバーとして中堅社員3人、その他、Webサイト構築支援など数名の体制。注目されるのは、開発メンバーの中に新人社員を加えていることだ。

 「顧客企業向けの開発案件では、ミスが起こると重大な問題につながりかねない。しかし、社内プロジェクトであれば、新人社員に多少のミスがあっても、先輩社員がフォローすることができ、この経験が実践教育にもなる。そこで、新人社員には、いわゆる『フルスタックエンジニア』のように、アプリ側の画面からサーバとの連携モジュール、サーバ側のプログラムまで、1つの機能に必要な一連の仕組みを全て一人で開発してもらった。新人社員にとっては、システム開発全体を学べる良い機会であり、これを通じて各個人の適性をつかむこともできる」(寺田氏)と、新規サービス開発を新人社員のOJT教育の場としても活用したという。

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