こうした環境の中で、サーバーワークスはどう事業を拡大させようとしているのか。戦略の柱は、ユーザーやパートナーとのノウハウを共有し、マーケットそのものを成長させていくことだ。
「AWSは向こう5年で5〜10倍に成長するでしょう。単純にマーケットの成長だけでも弊社は成長することができると思います。しかしそれに加えて、セルフサービスに取り組みたいという企業に向けて、Cloud AutomatorなどSaaSの利用者を増やすことや、パートナー向けにAWS環境構築の自動化ツールをSaaS化して提供するといったことに取り組みます。AWSをより有効に使うことでユーザーの裾野を広げ、蓄積したノウハウをSaaSとして提供することでさらに裾野を拡大していこうとしています」
実際、Cloud Automatorは、SIerやパートナー企業が利用することが多かったが、セルフサービスを望むユーザー企業の間に徐々に浸透し始めているという。クラウドを使い慣れた企業ほど、「ノウハウが詰まったツールがあるなら、まずはそれを使いたい」と考える。自社であらためて開発するよりも効果を高めることをよく理解しているからだ。つまりサーバーワークスが蓄積したノウハウをSaaSとして提供することは、市場の成長に直接的に貢献することができるというわけだ。
会社の規模拡大に合わせて、社員を増やすことも大きなミッションだという。サーバーワークスでは「クラウドで、世界を、もっと、はたらきやすく」というビジョンを掲げ、ユーザーがクラウドで働きやすくなったことをゴールに掲げるとともに、社員が働きやすくなる環境を整えることにも力を入れている。
「技術を磨くために客先に常駐させないというスタイルを採用しています。みんなで、かんかんがくがくやった方が技術を磨けます。そうして得た技術やノウハウが社員にとっての財産になり、サーバーワークスで働いていることがブランドになるようにしていきたい。会社を辞めてもそのブランドを基にポジティブなつながりを広げることができます」
今後求められめるエンジニア像を一言で表したのが「T字型」人材だ。これまでのような、特定の知識を深く知る人材が縦方向に伸びた「I字型」の人材だとするなら、これからは、特定の深い知識だけでなく、広く薄く知識を持っている「T字型」が望ましいと考える。
「いろいろな知識に対してインデックスを持っておき、必要なときにすぐにそろえられるようにするのです。例えば、90%のニーズは既存のクラウドサービスを組み合わせることで実現できます。そこで『この機能ならあのクラウドサービスを使えば実現できる』とすぐに判断できるようにする一方で、残り10%は深掘りした知識・スキルで実現することで、自分たちの強みにしていくのです」
実際、サーバーワークスでは、このT字型人材を育成するための工夫やトレーニングとして、社内で30以上のクラウドサービスを使い倒している。また、毎週金曜日には、さまざまなクラウドサービスを紹介する社内勉強会を開いている。もし、I字型のスキルセットしかなければ、顧客のニーズに適切に応えられず、顧客に余計な費用を出させることにつながる。エンジニア自身もスキルを磨く機会がないため、成長が限られることになる。
こうしたT字型のインデックスは、エンジニアだけではなく、企業のCIO(Chief Information Officer)などにも求められてくるものだろう。「どんなクラウドサービスを使えば、何が実現できるか」を知っていれば、意思決定の質が格段に向上する。当然、コストを抑えることにもつながってくる。
「今後は世の中の流動性が高まって、まったく違うところから競争相手が立ち現われてくることになります。経営者に情報が集まるわけではなくなり、最先端の情報は末端の社員が知っているという事態も起こるはずです。そういった情報をいち早く組織のパワーに変えていくためには、会社と個人の信頼関係が今まで以上に大事になってきます。われわれはテクノロジーの世界に生きているので、テクノロジーをうまく使って社員との関係性を作り、社員自身は自分の価値を上げることで会社との関係性を築きます。それが、お客さまに良いサービスを提供することや、社員が会社やお客さまと長期にわたる信頼関係を作ることにつながります。それが結果として、マーケットで生き残っていくことにつながっていく。そう信じて取り組んでいます」
クラウドの浸透などを背景に、「SIビジネスが崩壊する」と言われて久しい。だが顕在化しない“崩壊”に、かえって有効な手立てを打てず不安だけを募らせているSIerも少なくないようだ。そこで本特集ではSIビジネスの地殻変動を直視し、有効なアクションに変えたSIerにインタビュー。SI本来の在り方と行く末を占う。
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