NTTコミュニケーションズは2016年3月1日、同社の企業向けクラウドサービス「Enterprise Cloud」を全面刷新し、同日に提供開始したと発表した。事実上は新サービス。ユーザー組織のあらゆるニーズに対応し、他社のクラウドサービス併用も支援する、「合気道のようなサービス」だ。
NTTコミュニケーションズは2016年3月1日、同社の企業向けクラウドサービス「Enterprise Cloud」で、新バージョンを同日に提供開始したと発表した。既存サービスの名を引き継ぐが、全面的に作り変えており、国内外の他のクラウドサービスと比較してもユニークな存在になっている。
新Enterprise Cloudは、一般企業があらゆるアプリケーションやデータを任せられるサービスを目指しているという。これまでは、ユーザー組織側が個々のクラウドサービスに合わせ、そのアプリケーションを移行あるいは稼働するかを判断しなければならなかったと同社は指摘する。これを解消し、ユーザー組織が望むならば既存の社内データセンター全体を移行できるようにする一方、クラウドネイティブなアプリケーション開発・稼働環境も自社データセンターの一部であるかのように利用できることが、このサービスの最大の特徴だという。
新Enterprise Cloudのサービスプロダクトは「ホステッドプライベートクラウド」と「共有型クラウド」だ。
「ホステッドプライベートクラウド」では各ユーザー組織が自社専有の物理サーバ群を確保。この上で直接アプリケーションを動かせるのに加え、VMware vSphereあるいはHyper-Vの仮想化環境を構成して利用できる(vSphereなどのライセンスは、現状では顧客側が持ち込む)。同サービスプロダクトの課金は、特定スペックの物理サーバ1台単位で設定されている。
従来のEnterprise CloudはvSphereをベースとしたマルチテナントクラウドサービスであり、即座にvSphere環境を利用できたが、各ユーザー組織がvCenterを自由に操作するわけにはいかなかった。今回は、実質的に各ユーザー組織専用のvSphere環境およびvCenter(あるいはHyper-V環境)を構築および操作できるため、例えばSite Recovery Managerのように、災害対策(DR)のメイン側とバックアップ側双方のvCenterを操作しなければならない構成でも、修正なしに、クラウド側へ移行できるという。vSphereやHyper-V環境のデータセンター上での構築は、これまでシステムインテグレーションのプロセスが介在し、コストと時間が掛かりがちだった。今回のEnterprise Cloudでは、これをユーザー組織自らがサービスメニューで選択することで、自動的に構築されるようにしている。
一方「共有型クラウド」は、ベアメタルサーバ群を使ってNTT Comが構築したOpenStack環境の上で、仮想マシンやディスク領域などを貸し出すサービスプロダクト。料金については、特定スペックの仮想マシンおよびディスク領域を対象に、分単位で課金する(月額上限が設定されている)。これまでNTT Comは、一般向けパブリッククラウドCloudnの一部サービスの基盤として、OpenStackを使ってきた。新Enteprise CloudのOpenStack環境は、これとは全く別に構築・運用されている。なお、OpenStack、CloudStackに基づくCloudnは、Enterprise Cloudとは顧客層の異なるパブリッククラウドとして、継続提供される。
これまでの説明からもお分かりいただけるように、新Enterprise Cloudの基本的なサービス形態は、SoftLayerに近い。NTT Comクラウドサービス部ホスティングサービス部門長の栗原秀樹氏は、「ベンチマークとなるクラウドサービスに負けない価格設定をしている」と話したが、これはSoftLayerに価格で負けないという意味だ。
新Enterprise Cloudの特徴の一つに、統合運用管理ポータル「Cloud Management Platform」がある。これで、Enterprise Cloudの2つのサービスプロダクトを統合的に運用できるほか、Amazon Web Services(AWS)、Microsoft Azureの管理もできる。他社のサービスを併用している場合に、ばらばらな運用をすると負荷が増大することを防ぐのが目的という。
また、OpenStack、vSphere(vCenter)、Hyper-V、そしてEnterprise Cloud上のPaaSである「Cloud Foundry」については、各種のツールからAPI経由で直接操作することもできる。
Enterprise Cloudでは、ネットワーク関連の機能も興味深い。
第一に、ユーザー組織は、自社とEnterprise CloudをNTT Comの仮想専用線サービスである「Arcstar Universal One」で結び、セキュリティを確保したレイヤ2接続で、Enterprise Cloudが自社データセンターにあるかのように利用できる。Arcstar Universal Oneでは「Multi Cloud Connect」というサービスオプションの併用で、他にもNTT ComのCloudnやコロケーションサービス、AWS、Azureなどをつなぐことができる。
第二に、Enterprise Cloudでは複雑なネットワーク構成に対応し、既存の社内データセンターのトポロジーをそのまま再現することもできる。これと物理・仮想環境への対応によって、既存業務システムを含めたデータデンター全体の移行のハードルが下がるという。
第三は国際的な大容量バックボーンを活用して、クラウド拠点間の高速無料接続を提供することだ。同社は11カ国14拠点で同サービスを展開していくが、拠点間は10Gbpsベストエフォートで結ばれ、拠点間通信にコストは掛からない。
第四は、ネットワークセキュリティの適用だ。「WideAngle」という名称で同社が提供してきたオンプレミス、クラウド、コロケーションにまたがるセキュリティ監視サービスを、新サービスにも提供できるという。
PaaSに関しては、当初Cloud Foundryを共有型クラウド上で提供する。その後にはホステッドプライベートクラウド上で提供することを検討している。PaaSに関してもニーズに応じた利用選択肢を提供できることが重要だという。
新サービスは3月1日に日本で提供開始、今後2016年中に英国、米国、シンガポール、オーストラリア、香港でのサービスインを予定している。
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