東京高等裁判所 IT専門委員の細川義洋氏が、IT訴訟事例を例にとり、トラブルの予防策と対処法を解説する本連載。今回は「聖火台のないオリンピック競技場」を題材に、システム開発における抜け漏れのない要件定義手法を解説する。
IT訴訟事例を例にとり、トラブルの予防策と対処法を解説する本連載。前回は、正式契約なしに着手した開発の支払いをめぐる裁判を紹介した。今回は、主要な要件が欠落していたために使いものにならなかったシステムをめぐる裁判事例を解説する
2020年東京五輪・パラリンピックのメーンスタジアムとなる新国立競技場の現在の建設計画では、聖火台を競技場の上部などには設置できない可能性があることが3日、複数の関係者の話で分かった。スタンドは木材が使われる屋根で覆われる構造となっており、消防法上、問題となる懸念があるという。
「新国立上部に聖火台設置は困難か」(共同通信 2016年3月3日)
筆者は数々のIT訴訟や修羅場を見てきたので、大概のことには動じなくなってしまった。しかし冒頭のニュースには、さすがに驚いた。まさか、五輪組織委員会も文部科学省も、そしてデザイナーさえも、聖火台のことは「誰かが検討するだろう」と放っておいたとは、現実は小説よりも奇なりとしか言いようがない。
こんなときは、「なぜ見逃したんだ!」「責任者は誰だ?」などの責任論が飛び交うが、ちょっと考えればすぐに気付くような抜け漏れや勘違いを犯してしまうのは、国立競技場の設計だけではなく、どんな仕事でも十分にあり得ることだ。
ことにITの開発現場では、システムの重要な要件を決め損ねたまま開発を行い、後になってから「何だ、これは!」と怒号が飛ぶことが日常茶飯事だ。
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