運用管理担当者を悩ませる「混在環境、6つの傾向」と対策特集:クラウド/OSS時代の「業務を止めない」運用ノウハウ(2)(1/2 ページ)

運用現場におけるさまざまな製品、物理/仮想環境、クラウドサービスなどの混在は、運用管理担当者にとって大きな重荷となっている。では、混在環境の何が問題なのか?――混在環境の「傾向と対策」を整理し“重荷”の真因をあらためてはっきりさせておこう。

» 2016年03月24日 05時00分 公開
[高橋和也,TIS]

運用現場で進む多様な環境の混在

 近年、ビジネス環境の変化は大幅に加速している。それに伴い企業の屋台骨となる各種システムを支えるIT部門にも、従来要求されてきた「システムの安定稼働」に加え、「変化に追従するスピード」も求められるようになりつつある。もはやシステム運用は「導入当初の運用設計書と手順書に従って管理していればよいもの」ではなくなり、「頻繁なアプリケーションの更新」や「負荷に合わせた柔軟なシステム構成の変更」「大災害時の遠隔地での復旧」などの要請に対応できるよう、運用設計そのものを改善し続けていく必要がある。

 一方で、IT部門に掛かる運用負荷は増加し続けている。IT部門が管理するシステムや機器の数が増加の一途をたどっている上、システムに用いられる技術の複雑化がさらに対応を難しくしているためだ。

 例えば、ChefやAnsibleなど、ここ数年だけでもシステム運用を大きく変え得る技術が多数登場している。それらをうまく使いこなし、力にできた企業は成長を続けているが、多くの企業では「既存のシステムは既存の方式で」管理しつつ、「新しいシステムに新しい技術を部分的に取り入れて」いった結果、運用現場において多種多様な技術・製品が混在することになり、頭を悩ませているケースが少なくない。その結果、現在の運用を維持することに手一杯となり、さらなる改善に着手できないといった壁に行き当たっているケースも多い。

 もはやビジネススピードの向上は、一部の先進的な企業だけではなく、どのような企業にも求められるようになってきている。これに対応するためには、まず“現状維持で手一杯”な状況から抜け出し、改善のサイクルを回せる状態になる必要がある。

 そこで本稿では2回にわたって、「管理対象の混在によって生じる運用上の課題にどう取り組むべきか」を解説する。前編となる今回は、まず「混在環境がどのような課題を引き起こすのか」を明らかにしたい。

変革の余力を奪う運用環境の混在

 具体的な定義をせずに「混在環境」という言葉を使ったが、運用現場が悩まされている混在環境とは、具体的にどのようなものがあるだろうか。IT部門が立ち向かうべき運用環境の混在を大きく分けると、以下の4パターンがあると考えられる。

1.OS、ミドルウェア、各種製品の混在

2.オンプレミス環境内での物理、仮想、プライベートクラウドの混在

3.オンプレミスとパブリッククラウド(IaaS)の混在

4.従来型システムとクラウドサービス(SaaS)の混在

 1つ目は、OS、ミドルウェア、その他各種製品の混在である。これは今に始まったことではなく、昔から運用現場が悩まされてきた問題でもある。種類だけではなく、各製品のバージョン違いなども含めると、運用現場で扱っている製品はハードウェアからソフトウェアまで非常に多岐にわたる。

 さらに「動いているシステムには脆弱(ぜいじゃく)性でもない限り手を加えない」という慣習があるため、「複数のシステムで少しずつ違うバージョンが動いている」という事態が常態化しやすい。こうした状況は管理負荷を増大させ、各製品に脆弱性などの問題が見つかった場合の迅速な対応も難しくなる。

 2つ目は、データセンター内における物理機器と仮想環境の混在である。こちらも新しい問題とはいえないが、今でも悩みの種の1つである。仮想環境といえども、その基盤となるのは物理的な機器であるため、物理と仮想の両面からの管理が必要となる。仮想化技術の導入によりシステムリソースの稼働効率は大幅に高めることができたが、その分、障害切り分けの難易度なども高まっている。

 さらに近年では、単純なサーバやネットワークなどの仮想化にとどまらず、各種リソースを統合的に管理し、開発者などユーザー向けのセルフサービスポータルやオートスケーリングのような高度なサービスまで提供する「プライベートクラウド」という形態での利用も広がりつつある。ユーザーに直接、環境を開放することができればIT部門がボトルネックとならない点で、迅速なリソース提供が可能になるが、その分、利用状況を注視していないとIT部門が予期していなかった問題も起こりやすくなる。

 3つ目は、オンプレミスとパブリッククラウド(IaaS)の混在である。近年ではパブリッククラウドの利用に対する抵抗感はかなり薄れ、多くの企業で利用が進んでいる。一方で、これまでのシステムを全てクラウド上に移すことは容易ではないため、多くの場合、運用現場ではオンプレミス上のシステムとクラウド上のシステムの両方を管理することになる。それぞれの環境上のシステムが独立して動作している場合は、まだそれほど大きな違いは生まれにくいが、オンプレミスとクラウド間でのシステム連携などが必要になると、複雑さは一層増してしまう。

 そして4つ目は、従来型システムとクラウドサービス(SaaS)の混在である。従来はシステムを自社で所有して利用する形が一般的であったが、今ではクラウドサービスの普及により、システムを所有せずにサービスとして利用することは珍しくなくなった。SaaS型のサービスを利用すれば、システム運用や脆弱性対応などはサービス提供事業者側が行うため、システム運用自体の負荷は下がる。また、常にサービスが改善され続けていくことが期待できるため、ユーザーの満足度も高まりやすい。

 これを受けて、“企業固有の要件が必要ない汎用的な業務領域”において採用が進んでいるが、利用するサービスの数が増えていくと、「それらのサービスと既存システムをどのように連携すべきか」が課題となる。ID管理に関しても、企業内の既存のActiveDirectoryなどと連携できるサービスも増えてきているが、権限管理の設定などセキュリティ/ガバナンス面での開発思想はサービスごとに異なるため、設定面の管理負荷は従来よりも高まる可能性もある。

 これだけの混在に直面しても、今までは何とかシステムの安定稼働を維持し続けてきた。しかし、安定稼働だけではなく迅速な変化への対応も求められつつある現在、もう人の努力だけでは限界を迎えつつあるのが現実だ。

 今後、日々変わり続けるビジネス要求に運用側が対応していくためには、まず“日々の運用で手一杯”な状態を抜け出し、改善の余力を生み出す必要がある。そのためには、混在する環境に引きずられてしまわないよう、うまく付き合っていく術が必要だ。

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