データセンター事業者やクラウド事業者の対応はどうでしょうか。これらの事業者は、インターネット上のサービスやコンテンツ提供に必要なサーバを抱えています。これらのサーバに対しては、クライントからIPv4とIPv6の両方での接続要求が行われるため、IPv4とIPv6のデュアルスタックで構成することが求められます。これらの事業者においては、デュアルスタックでの対応後、徐々にIPv6に移行していき、最終的にIPv4をなくしていくことになるでしょう。
現状では、まだIPv6に全面的に対応しているデータセンターは多くありません。また、クラウド事業者では対応自体があまり進んでいないようです。今後対応を進めていくに当たり、まずはオプションとしてIPv6接続が提供されるといった形がとられるかもしれません。この移行期におけるIPv6対応のための技術としては、ロードバランサーが持つ「64SLB」があります(図6)。
ロードバランサーには、サーバ負荷分散と同時にIPv6からIPv4への変換を同時に行う機能を持った製品があります。ロードバランサーまでの設備をデュアルスタック化すれば、あとはこのロードラバランサーがその先のサーバまでの通信をIPv4に変換します。これにより、負荷分散を行うサービス単位でIPv6対応を進めつつ、データセンター、クラウド設備内のデュアルスタック化を徐々に進めていくことができます(図7)。
FTTHで回線サービスを提供するISPに関しては、例えばNTT東日本、NTT西日本の「フレッツ光ネクスト」やKDDIの「au光」で、既にIPv6接続が利用可能になっています(フレッツ光ネクストでIPv6を利用するには、別途専用アダプターの設置やオプション契約などを行う必要があります)。
このFTTH回線を使いISPがIPv6インターネット接続サービスを提供するためには、ISP網内からインターネットまでをIPv6対応する必要がありますが、ISP網内のネットワーク設備のデュアルスタック化は既に着手している事業者も多く、今後さらに進んでいくでしょう。
一方、ISP側ではIPv6対応しないという選択肢も存在します。VNE(Virtual Network Enabler)事業者のサービスを利用する方法です(図8)。これはISPが、IPv6対応による新規投資やデュアルスタックによる運用コスト増を抑えたい場合に利用される可能性があります。
VNE事業者は、フレッツ光ネクストの「IPv6 IPoE(ネイティブ方式)」によるIPv6インターネット接続サービスをローミング提供しており、既に複数社がサービスの提供を開始しています。VNE事業者を利用したユーザーは宅内のネットワークからインターネットへ接続する際、ISP網ではなく、VNE事業者のネットワークを経由します。ISP事業者はユーザーとの契約窓口となりますが、設備そのものはVNE事業者のものを利用するため、ISP事業者側でIPv6に対応する必要はありません。
このVNE事業者では、「464変換技術」と呼ばれるものが利用されています。現在、この464変換技術には「DS-Lite」「MAP-E」などいくつかの実装方法があります。モバイルの説明で出てきた「464XLAT」もその1つです。
採用する方式は各VNE事業者で異なっており、それぞれ一長一短があります。これにはVNE事業者のネットワーク形態なども関係しており、どれが良いと一概に言うことは難しいのですが、いずれの方式も、ユーザーに意識させずにIPv4とIPv6接続を共存させることを実現しています。
既にスマートフォンだけでなくさまざまなインターネット接続デバイスにおいて、ハードウェア、ソフトウェア両面でIPv6対応環境が整いつつあります。海外の巨大Web事業者やCDN事業者だけでなく、今後は国内のコンテンツ、サービス事業者もIPv6への対応を進めていくでしょう。そして、その間をつなぐネットワークでもIPv6への対応が進んでいくと考えられます。
今後、IoTが普及していく中でインターネットのIPv6化がさらに進んでいきます。インターネットには膨大なIoTデバイスがIPv6でつながるようになり、気が付けばデバイスにIPv6アドレスだけが割り振られているということも増えていくでしょう。IPv6インターネットとIoTの時代はもうすぐそこまで来ています。
真野 桐郎(まの きりろう)
A10ネットワークス株式会社 シニアシステムエンジニア
商社、SIer、ISPのシステムエンジニアを経て、
2009年、A10ネットワークス株式会社設立時に入社。
システムエンジニアとして、キャリア、エンタープライズ、
パートナーセールスの技術サポートを担当。
IPv6移行技術が専門分野。
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