EMCはデルに買収されることで、どう変わるのだろうか。企業文化、製品戦略、クラウド戦略の3つの側面から、ユーザーおよび潜在ユーザーにとって意味のあるポイントに絞って、EMC WORLD 2016での取材に基づきDell EMCの今後を探った。
総額670億ドルというIT業界最大の買収は、このまま行けば2016年7〜10月に完了するという。
米EMCが2016年5月初めに開催したEMC WORLD 2016の基調講演で、米デルの会長兼CEO、Michael Dell(マイケル・デル)氏は、EMCおよびそのグループ企業を統合後の社名が「Dell Technologies」になることを明らかにした。EMC本体(「EMC Information Infrastructure」の略で「EMC II」とも呼ばれている)は「Dell EMC」に社名を変え、Dell Technologies傘下でエンタープライズIT事業を担当する。デルのサーバ、ストレージ、ネットワークスイッチ、ファイアウォールなどのITインフラ製品は、Dell EMCに移管される。
「EMCフェデレーション」と呼ばれ、比較的疎結合的な関係を維持してきたEMCのグループ企業/部門は、「VMware」「Pivotal」「Virtustream」「VCE」「RSA」の名を維持したまま、Dell Technologies傘下に入る。PCなどのクライアントソリューションは「Dell」ブランドで運営される。2016年4月に株式公開したばかりのSecureWorksも、その名を保つことになる。
Dell氏は、「これらの全てを、EMCのコンサルティング経験を生かしたワールドクラスのITサービスと、デルのProSupport Plusの世界的なパワーとスケールを持つサポートサービスが包み込むことになる」と話した。
では、EMCはデルに買収されることで、どう変わるのだろうか。以下では、企業文化、製品戦略、クラウド戦略の3つの側面から、あくまでもユーザーおよび潜在ユーザーにとって意味のあるポイントに絞って、EMC WORLD 2016での取材に基づきDell EMCの今後を探った。
まず、EMC IIの企業文化あるいはビジネスのやり方が変わることはないのだろうか。
Dell氏は上記の講演で、2社が補完的な関係にあることを強調した。デルは中堅・中小企業を顧客基盤とし、サプライチェーンに強い一方、EMCは多数の大企業を顧客に持ち、革新的な技術の推進に長けているという。また、2社の企業文化は共通点が多いという。この補完的な2社を非公開企業として運営することにより、長期的な視野で事業を運営していける、と同氏は話した。
とはいえ、大企業を対象に事業を推進してきたEMCと、消費者および中堅・中小企業を相手にしてきたデルとでは、ビジネスのスピード感が違うはずだ。今後、例えばEMC の既存顧客が新生Dell EMCの営業担当者を前にしたとき、これまでのEMC の営業担当者とのスピードのギャップに戸惑うようなことはないのか。
この質問を、EMCのアジア太平洋/日本地域プレジデントであるDavid Webster(デイヴィッド・ウェブスター)氏にぶつけてみた。同氏は次のように答えている。
「地域、規模、業種によって、顧客の購買行動が異なることを、私たちは理解している。例えば日本の大企業と中堅企業や消費者の求めるものは異なる。EMCは(実質的には)デルに買収されたのではない。2社が大企業、中堅企業、消費者を対象とした、新しい企業を作るということだ。販売戦略、価値の訴求の仕方、スピード感は、この3つのセグメントで異なる。大企業に対してはハイタッチ、高品質、コンサルティング的セールスを提供する。消費者向けにはハイスピードで製品中心の革新的なやり方を適用していく。私たちは市場を十把一絡げに考えていない」
また、EMCコアテクノロジー部門プレジデントのGuy Churchward(ガイ・チャーチワード)氏は、個人的な意見と前置きした上で、EMCのこれまでのやり方が買収によって変わることはあり得ないと話している。
「大企業はますます、特定のベンダーを戦略的パートナーとして選択する傾向を強めている。私は『メガモールショッピング』と呼んでいる。戦略パートナーの選択を考えるCIOは、ポータブルPCやサーバを開発している人たちと話したいだろうか、それともデータセンター全体をモダナイズできる人たちと話したいだろうか。
Michael(Dell)はメガモールショッピングの時代の到来を考え、CIOと同じテーブルについて会話することが許されている企業を探した。そして彼はこの条件に当てはまる最大の独立系企業を見つけた。それがEMCだ。
では、なぜEMCがこの許可を得ているのか。利益の多くを研究開発につぎ込み、顧客の声を聞く。完璧な製品などあり得ないが、(ニーズを満たせない場合は)顧客の課題を解決すべく多くの犠牲を払う。
こうしたビジネスモデルは、彼が『CIOと同じテーブルに今後もつきたい』というときに欠かせない。だから現在のEMC IIであるDell EMCはDavid Goulden(デイヴィッド・グールデン、現EMC II CEO)に任され、(コンシューマビジネスとは)異なる運営がなされる。彼らは、何を買おうとしているかを理解している」(Churchward氏)
デルとEMCの統合作業は、両社によって設立された統合委員会によって進められている。2社のそれぞれで買収関連の経験を持つ責任者が選出され、この2人が平等な立場で、それぞれの企業における取りまとめ役となって、統合委員会の活動を推進している。
また、EMCのフェデレーション企業の在り方は、基本的に変化がない。ヴイエムウェアについては、EMCの株式持ち分(80%)のうち50%がデルのヴイエムウェア業績連動株として市場に放出され、残りの30%をデル側が保有する形で、株式公開企業として存続する。
関連企業各社の経営陣の顔ぶれも、現時点の情報からすれば、ほぼ変化はない。EMC会長兼CEOのJoe Tucci(ジョー・トゥッチ)氏は買収プロセスが完了をもって退任する。だが、同氏はかなり前から、適切な時期に退任する意思を明らかにしていた。つまりこれは既定路線だ。
Dell EMCになれば、デルのサーバ、ストレージ、イーサネットスイッチ、セキュリティ製品などが加わるが、現在のEMCにおけるエンタープライズITインフラ製品戦略に大きな変化はない。2社の統合によって、中堅・中小企業向けのビジネスが加わる。だが、Dell EMCにおけるビジネスの主軸が、大企業の情報システム部門/CIOのニーズに応える製品・サービスにあることは、これまでと変わらない。
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