あるユーザー企業(靴、カバンなどの製造販売業)の基幹システム更改をITベンダーが請け負った。システム開発費用は約8500万円だったが、両者はこれを「基本設計」「詳細設計と制作」「テスト」の3段階の分割検収とし、費用の支払いも検収ごとに行うことで合意した。
開発が進み、ユーザーは「基本設計」と「詳細設計と制作」の検収を行い、その分の費用約3150万円を支払ったが、ベンダーの最終納品が遅れ、当初計画の最終納期を2カ月過ぎても完成しなかった。
このため、ユーザーは、残りの費用の半額2625万円をベンダーに支払い、残金はシステムの完成後とすることとしたが、結局システムは完成せず、最終納期を11カ月過ぎた時点で、契約解除の意思を示すとともに、既払い金の返還を求めた。しかしベンダーは、3150万円については検収が済んでおり、2625万円についても、そこまでの作業を実質的に検収したものであるとして、返還を拒んだため、訴訟となった。
システムは、契約解除の時点で未完成だったが、一部の機能はリリースされ本稼働していた。
「検収したのだから、返還など求められないだろう」と考えるのは早計である。実際、検収後に返還が認められる例もある。
この裁判の場合、8000万円規模で11カ月の遅れというのだから、ユーザーが契約を解除したくなる気持ちは分かる。ユーザーに明確な非がないのに、何ら価値を残さずプロジェクトが終了したのだから、「ベンダーが債務を履行しなかった」との主張にも理はあるといえよう。
一方ベンダーは、「検収は有効であり、返還の義務はない」との主張だ。「契約の目的の達成」か「検収」か、裁判所はどちらに重きを置いた判断を下したのだろうか。
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