本件請負契約の目的は、(中略)コストの削減や経営の合理化を目指すことにあったにもかかわらず、ベンダーは、ユーザーとの合意によって数度にわたって延期された最終の納入期限(中略)(においても、それまで使用していた既存の)システムによって実現されていたと同程度の機能を果たすために10人程度のエンジニアを無償で派遣して手作業によるサポートに当たらせていたのであり、その状態は、同年12月29日の本件解除の時点でも解消されなかったことが認められる。
その時点で,当初の納入期限である平成23年1月31日からみれば約11カ月遅延していたことも併せ考慮すると、本件解除の時点で、本件請負契約の当初目的を達成することはすでに不能となっており、従って、被告に本件請負契約上の債務不履行があったと認めるのが相当である。
裁判所は、ベンダーの債務不履行を認め、契約書で約束された費用の請求はできないとした。ここまではユーザーの主張が認められた形だ。
しかし裁判所は、分割検収であることを重く見て、以下のように続けている。
本件請負契約においては、報酬支払期限は分割検収と定められ、各工程であらかじめ定められた納品物の対価として、納品物の検収の翌月末日までに、各工程に応じた報酬を支払うものと定められていたことが認められる。そうすると、各工程の納品物(目的物)が完成し、検収を受けて引き渡されている以上は、その工程に関しては、原則として、本件解除の効力は及ばず、また、そうでなくても、解除時点ですでに完成し引き渡された部分に関しては、解除の効力は及ばないと解するのが相当である。
裁判所は第1回、第2回分の検収に基づいて支払われた「3150万円」は、返還の必要はないとし、最終検収の前払いとして支払われた「2625万円」も、出来高を勘案して「1575万円」は返還しなくてよいとした。
被告であるベンダーと直接話をしたわけではないので、実際は分からないが、この判決は、ベンダーにとってかなり満足のいくものだったのではないだろうか。
注意してほしいのは、私が参加してきた調停や裁判では、単に書面上の検収だけで判決を出すほど裁判所は形式主義ではないということだ。
本連載でも「裁判所は契約書や検収書をただ盲信することはない」ことは何度も書いてきたし、「システム開発契約は、その目的を達成してこそ対価を貰える」という判例も紹介してきた。裁判所は「実際の仕事が、どのようであったか」も見て判断しているのだ。
では本件では、裁判所はなぜ、必ずしも完成したとはいえないシステムの開発費を認めたのだろうか。筆者は、分割検収以外にも次ページの2点がベンダーに有利に働いたではないかと推測した。
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