アマゾンウェブサービスジャパンが2016年6月初めに開催したAWS Summit Tokyo 2016では、スクウェア・エニックス、日本電産、ソニーなどの企業が基調講演に登場。自社のビジネス基盤として、AWSが不可欠な役割を果たすようになってきていることを説明した。
アマゾンウェブサービスジャパンが2016年6月1〜3日に開催したAWS Summit Tokyo 2016では、スクウェア・エニックス、日本電産、ソニーなどの企業が基調講演に登場。各社の立場から、ビジネスのための基盤として、Amazon Web Services(AWS)が重要な役割を果たすようになってきていることを説明した。
スクウェア・エニックスは、iPhone/Android/Windows向けの「FINAL FANTASY 零式ONLINE」で、AWSをプラットフォームに採用し、世界的な配信を進めていくと、AWS Summit Tokyo 2016で明らかにした。2016年6月中に、まず中国でオープンベータテストを開始。その後日本、北米、欧州で展開していくという。
「わくわくしないものは作らない」ことがチームのモットーだという、スクウェア・エニックス Business Division 2 プロデューサーの本橋大佐氏は、AWSを採用した理由について、「世界的なシェア」「サーバだけでなく多岐にわたる機能を備えていること」「最先端の技術が要求される世界で、問題解決に貢献する機能をわくわくするスピードで提供してくれる」点を挙げた。
選択肢は他にもあったが、上記の点から「迷うことなく」AWSを選んだという。
それでも、世界的な展開と非常に大規模なスケーリングが求められる消費者向けサービスなら、AWSのようなサービスを使うのは自然にも感じられる。
一方で、一般企業でも「顧客が喜びそうなアイディアを、どれだけ速いスピードで実現できるかが重要になってきている」と、アマゾンウェブサービスジャパン代表取締役社長の長崎忠雄氏は基調講演で話した。
企業が既存業務を成長させ、新事業を開発し、あるいは社内の業務を改善するために、時には試行錯誤でさまざまなIT施策を推進せざるを得なくなってきている。同社のサービスがそのための基盤として、ますます多くの国内企業に使われるようになってきているとアピールした。
従来型のITでは、ちょっとしたことをやるにも、必要なソフトウェアとハードウェアの調達とシステムの構築に時間とコストが掛かり、このために厳格な予算申請稟議のプロセスを経なければならず、結局実行できなくなることが多い、と長崎氏は説明した。情報システム部門の対応も、後回しになるなど時間がかかることが多い。また、いったん構築したシステムを、後から拡張あるいは変更することも困難で、例えばビッグデータ解析などのプロジェクトがやりにくい。
だが、Amazon Web Services(AWS)なら、「ITをさまざまな制約から解放し、企業が本来焦点を当てるべき成長や顧客満足度に力を注ぐことができる」とする。
インフラをプログラム可能にしているため、キッティングやサイジングの作業がほぼ不要。さらにAPIを通じて、インフラに限らず欲しいサービスが手に入れられる。さまざまなレイヤのサービスが多数提供されていて、セキュリティやコンプライアンスの対策も容易にできる。
「(特にビッグデータ分析では)分析結果がビジネスになるかどうか分からないケースが多いが、AWSでは安く、早く、安全にシステムを構築でき、いつでも拡張・縮小ができる。これがビッグデータにマッチしている」
ビッグデータ分析およびIoT(Internet of Things)については、「一連のプロセス全体を支えるサービスがAWS上にそろっていて、即座にスタートできる」と長崎氏はいう。
回転寿司のあきんどスシローが、すし皿にICチップを付けてそのデータを分析することにより、廃棄率を大幅に下げた例、ベルシステムがコールセンターのコールログ分析で、従来型の仕組みでは構築に3カ月、コストが5000万円掛かっていたのに対し、AWSでは1週間、15万円で同じことを実現できた例などがあるとしている。
モーター製造メーカーである日本電産の常務執行役員CIO、佐藤年成氏は、データを活用した業務改善を、AWSの活用で迅速・低コストに実施した例について説明した。
同社では、モーターのアルミ外枠の鋳造機で、鋳造条件を勘と経験で設定していたが、製造不良が出ていた。これを、サーモグラフィ分析のデータに基づく条件設定に変えるため、分析の仕組みを、Raspberry Pi、SORACOM、東芝Flash Airなどの「はやりもの」(佐藤氏)とAWSの組み合わせで開発した。その結果、アルミ外枠の外観不備を20%から3%に減らすことができたという。
実質的な開発期間は1週間。検証を含めても2週間でできたと佐藤氏は話している。しかも、コストは「数千円しか掛かっていない」。
この例にとどまらず、佐藤氏は全社的にデータを活用した業務改善や業務改革を進めている。「現場にデータがあるにもかかわらず使っていないことが多い。まずきちんとデータを取ってくることが出発点」という。
現場からは、何らかの課題が発生すると、「とにかく早く原因を見つけてほしい」といった声が上がる。だが、分析作業は基本的に試行錯誤の作業。「最初から結果が分かっているのならやる必要はない」(佐藤氏)。ハードウェアやソフトウェアの調達を考えていたら、試行錯誤で安く早く実行できない。そのため、必然的にクラウドを使うようになったという。
日本電産では、ITを全てクラウド基盤に移行済みで、これに基づきビジネスデータ間の連携を図り、「リアルタイムIT」「リアルタイムビジネス」を目指した活動を推進しているという。
ビデオレンタルで知られるゲオホールディングスは現在、レンタルとゲームの販売、リユース品販売の2つを事業の柱にしている。リユース事業は急成長しているが。レンタルは縮小傾向にある。そこで同社は、「事業ポートフォリオ転換」「ゲオの集客力を活用した新規事業」「収益性確保「オム二チャネルリテーリング事業多角化による成長機会創出」などを事業テーマに掲げている。
「これら全てにITが関わる。そのため、システム部門としても変革が迫られている。システム部門が会社のトップラインを押し上げていく必要がある」と末延寛和氏(ゲオホールディングス業務システム部ゼネラルマネージャー)は説明した。
そこで、2015年9月に基幹データベースをOracle ExadataからAWS上のOracleに移行した他、2016年4月には会員データベースをAWSに移行。これを活用して、データに基づくさまざまなIT施策を進めている。
例えば、各ビデオレンタル商品に対する需要は、これまで売上実績データから、経験と勘だけで予測していた。今後はきめ細かなデータを活用して顧客単位で予測し、これに基づいて商品ごとのニーズを積算し、「経験と勘」を加えて予測するといった手法を採用していくという。
ゲオでは、他にも映像配信サービス、ハウスカード、セルフレジ、Web店舗併売、Web買い取りなど、ITが欠かせない仕掛けを多数推進している。
ソニーの執行役員コーポレートエグゼクティブ CIOである堺文亮氏は、全社IT部門と各カンパニーや事業部のITとの関係を、「遠心力と求心力」という言葉を使って説明した。
「全社IT部門としては、どこでも均質なサービスが使えることを目指し、個別化よりも標準化を重視してきた」と話す。新しい技術よりも安定・成熟した技術を選択し、データセンター統合や、アプリケーション基盤の標準化を推進してきた。
だが、ここにきて、「新しい技術へのチャレンジという点で、やや遅れをとってきたのではないかと思っている」という。
どの分野でもビジネスの変化が激しくなり、本社中心で対応しようとしても後れがちになる。事業を担当する部署に権限を持たせ、遠心力を働かせないと差別化が難しくなってくる。
「こうしたときに、AWSのようなプラットフォームは役に立つと考えていて、ソニー社内ではこのサービスを活用している部署が多数ある」(堺氏)
ただ、全社IT部門として、遠心力をどんどん加速することで、ばらばらになるのでは問題だという。では、「遠心力の部分はAWS、求心力の部分は従来型のIT技術」というふうに、分けて考えるべきか、一緒に考えるべきか。議論を重ねてきたという。
結論は、「一つの考え方でできないか」ということだったと堺氏は説明する。そこで、2016年4月、AWSのシンガポール・リージョンで会計システムをカットオーバーしたことを皮切りに、求心力と遠心力をどちらもサポートできるようなIT部門になるべく取り組みを進めていると話す。
「全社IT部門は、新しいものにはチャレンジしないが、要求されたものについては確実にやっていかなければならない。そのために多くのものを仕組んでいる。『対応する力』については、負けないと考えている。ところがビジネスはもっと早く変化している。それを受けて、私たちがシステムを作っていくのでは遅い。これからは、ビジネスをよく理解して先を読み、IT部門が仕掛けていく必要がある。AWSを使うということは、利用技術の変革というだけではなく、IT部門のスタッフの振る舞い、文化を変えることだと考えている」
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