ストレージI/O技術は、NVMeの普及およびNVDIMMの進化で、大きな変化を迎えつつある。これはハイパーコンバージドインフラ(HCI)およびソフトウェアストレージにどのような影響を与えようとしているのだろうか。
ストレージI/O技術は、NVMeの普及およびNVDIMMの進化で、大きな変化を迎えつつある。これはハイパーコンバージドインフラ(HCI)およびソフトウェアストレージにどのような影響を与えようとしているのだろうか。
本記事では、米ヴイエムウェアで「VMware Virtual SAN(VSAN)」のプロダクトマネジメントを担当しているRakesh Radhakrishnan(ラケシュ・ラダクリシュナン)氏が、VMworld 2016の技術セッションで話した内容を要約してお届けする。この内容は、VSANだけでなく、あらゆるソフトウェアストレージ、そしてHCIではヴイエムウェアへの対抗色を強めつつある米ニュータニックスの製品にも当てはまる。
既にコンシューマー向け製品も登場しているNVMeは、SAS、SATAといったハードディスクドライブのためのストレージI/Oコントローラ仕様に替えて、フラッシュメモリ/SSDに最適化したコントローラ仕様を定めている。キューが深くなってアクセスの並列性が高まり、ストレージI/Oのために必要とされるコマンド発行回数も減ることで、性能が高まっている。
NVMe SSDは、インテルをはじめとして複数のベンダーから登場しており、サーバハードウェアにおける対応も進んでいる。VMware vSphereではvSphere 6.0で対応、VSANでも2015年11月に最初のNVMe対応ドライブが認定され、利用できるようになった。
一方、NVDIMMはメインメモリ(DRAM)インターフェースに挿入することのできるメモリモジュールで、DRAMとフラッシュ(不揮発性メモリ)の双方を搭載することができる。ブロックストレージデバイスとしてアクセスするものと、メインメモリとしてアクセスするものの2種類に大別される。
NVDIMMは、現在のDRAMに比べ大幅な低コスト(容量単価)でありながら、特にメインメモリとしてアクセスする場合は、従来のSSDとは桁違いのパフォーマンスが得られるとして、期待されている。現在のブロックアクセスでは、少量のデータを読み書きしたい場合にも、4Kバイトといった単位で行う必要がある。これがSSDのアクセス性能を引き下げる要因となっている。メインメモリと同様に、バイト単位でアクセスできるようになれば、読み書きにおける無駄が大幅に減少し、パフォーマンスが高まる。
Radhakrishnan氏は、上記のセッションで下の図を示し、NVMeとNVDIMMが、VSANユーザーの間でどのように普及していくと考えているかを説明した。同氏は、これについて、あくまでも個人的な予測としながら、「この市場で活用している全ての主要ベンダーとの議論に基づいている」と話した。
この図の上の段はメインストリームユーザーで、下の段は先進ユーザー。キャッシュと主なデータ格納先として、それぞれがどの技術を使うようになるかを示している。
VSANは、他の複数のソフトウェアストレージ製品と同様、分散ストレージだ。サーバ機に搭載したストレージ媒体を利用して、複数のサーバにまたがる単一の論理的なストレージ空間を構成する。現在VSANでは、キャッシュのためにSSDを利用することが必須で、主な記憶媒体としてはHDDあるいはSSDが使える。
現時点で、大多数のユーザーはキャッシュ、データ格納先のいずれについても、SASあるいはSATAのインターフェース経由でSSD/HDDを利用している。
だが、2017年中には、NVMe接続のSSDがキャッシュにおいては主流になるだろうという。理由は、「価格が急速に低下し、SAS接続のSSDの値段で、同等あるいはより高いパフォーマンスを備えたNVMe SSDが買えるようになるから」という。
インテルは2017年に次世代NVMe SSDを発売するが、2018年までにはこうした製品の利用が広がるだろうという。
一方、NVDIMMについては2017年に製品の選択肢が広がり始める。VSANにおけるNVDIMMのサポートは、2018年を予定しているという。当初はブロックデバイスとしての利用をサポート。その後メインメモリとしてのアクセスに対応する。そして、2020年までには、VSANのキャッシュ層で、NVDIMMが一般的なキャッシュ媒体となるだろうという。
では、バイト単位でアクセス可能なNVDIMMを最大限に活用するために、VSANでは何をやろうとしているのか。
「まず、ファイルシステムをバイト単位でアクセスできるようにする。これ以外に、(NVDIMMのような)新しいデバイスを活用して、書き込みの無駄を減らす方法はない。また、現在では、チェックサム、重複除外、データ圧縮などが、パフォーマンスに悪影響を与えている。そこで、チェックサムや重複除外のためのテーブルをNVDIMMに移行できるようにする。これによってこれまでとは全く異なる世界が開ける」
VSANはサーバ機に搭載された記憶媒体をまとめ上げて、単一の論理的なストレージを作り上げる。つまり、ネットワーク上に大量のストレージトラフィックが流れる。そこで、NVMeやNVDIMMでストレージI/Oが高速化すると、今度はネットワークがボトルネックとなる可能性が出てくる。高速なデータセンターネットワーキングに関しては、InfiniBandや100Gbpsイーサネットといった解決策が既にあるが、高額な投資が必要だとRadhakrishnan氏は指摘する。
解決策としてRadhakrishnan氏が期待するのはRDMA over Ethernetだ。
「2017年には、RoCEv2やIWARPといったイーサネット上のRDMAプロトコルが標準化される。VMware vSphereでは2016年中にこれらをサポートする。VSANのネットワークスタックについても拡張し、RDMA対応を進める」
Radhakrishnan氏が特にRDMAに期待するメリットは、NVDIMM上のメタデータを、高速ネットワーク経由でサーバ間で迅速に更新できるようになること、データの平準化、リビルド、再同期といった作業の高速化が図れること、vMotionやクローン作成のスピードを向上できることだという。
冒頭でも触れたが、NVMeやNVDIMMの普及への対応を進めようとしているのはヴイエムウェアだけではない。米ニュータニックスも同様な取り組みを進めている。両社をはじめとするHCIベンダー、さらにはサーバ内蔵の記憶媒体を活用した分散アーキテクチャに基づく全てのソフトウェアストレージ製品にとって、サーバにおけるストレージI/O技術の進化は大きなチャンスだ。これらの製品における技術開発が進むことで、特殊なハードウェアを使うことなく、ハードウェア的に幅広い選択肢を活用して、メモリ技術の進化を直接活用できるメリットが得られるようになってくる。
同時に、高速な不揮発性メモリを活用し、RDMA over Ethernetを活用した外部共有ストレージ製品として、Dell EMCの「DSSD D5」のような例が出始めている。こうした外部ストレージ製品は、ストレージアクセスでネットワーク通信を使わざるを得ない点で、HCIなどに比べて一見不利に見える。だが上記の通り、分散ソフトウェアストレージ製品であっても、ネットワーク通信を活用しなければならないことには変わりがない。そこで、分散ストレージ製品と外部共有ストレージとの新たなレベルでの棲み分けへの模索が、今後始まることになる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.