さくらインターネットとゲヒルン、似たもの同士の創業者2人が語る会社の在り方、人の働き方セキュリティ・アディッショナルタイム(14)(2/2 ページ)

» 2016年10月17日 05時00分 公開
[高橋睦美@IT]
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理想は「攻殻機動隊の9課」? 自動化や可視化といった新たな取り組みも

 両社のチームが力を合わせることによって、新たなサービスが開発され、提供される可能性はどのくらいあるのだろうか。例えば、今流行の「機械学習」といったキーワードを軸に、新サービスが生まれる可能性はあるだろうか。

石森氏 現在、セキュリティ診断の精度はかなり人間の感覚に頼っているところがあります。例えば経験のあるセキュリティエンジニアならば、「この文字列とこの文字列が通るから、こういう攻撃をしたら早いだろう」という具合に、レスポンスを見て推測したり、判断を下したりできるんです。これに対してツールでは、全パターンを流して試していくので時間がかかります。

 今はやっている人工知能やAIはまさにそういう「レスポンスを見て推測できる」という部分をやろうとしていますよね。これによって診断のスピードが上がっていくだろうと期待し、少しずつ社内でも研究し始めています。一方でインシデントレスポンスの際に、起こったことのリスクやインパクトを推し量ることは人間にしかできないので、そういった部分にセキュリティエンジニアの力を注げるようになればと考えています。

田中氏 ホスティングサービスの販売では、チャネルがすごく重要なんです。ほとんどのお客さまが「知っている」「教えてもらった」という基準でサービスを選んでいて、機能が良いことがすぐに売りになるわけではありません。

 ゲヒルンでは、セキュリティを武器にしたホスティングサービス(GWS:Gehirn Web Services)を始めていますよね。セキュリティもコストパフォーマンスも両方高いという、とても良くできたサービスになっています。そういうものをさくらのチャネルで売っていくことで、われわれが持っていなかったタイプのサービスを埋めることができますし、ゲヒルンとしても認知が高まり、伸びていくんじゃないでしょうか。

石森氏 今社内では、「ログの可視化をやりたい」という話も盛り上がってます。もし、さくらインターネットの規模でマネージドなホスティングサービスのログを取れれば、その数はセキュリティ企業が案件ごとに収集できる規模をはるかに超えたものになるはずです。そういうログを見える化して、例えば「さくらの上期セキュリティレポート」といった形で公表すれば、顧客やネット全体の安全に寄与できるのではないかと考えています。

田中氏 ただ、ゲヒルンがさくらの開発部門になってしまう必要性はないと考えています。さくらグループの全体方針に沿いつつ、ゲヒルン自身がきちんとサービス開発体制を強化し、結果としてさくらグループの中でたくさんのお客さまに使ってもらえるものを作るのが一番いいんじゃないかと思います。

石森氏 全体の方針は共有しつつ、スタンドプレイをする……。個人的には、攻殻機動隊の九課みたいな組織をすごくイメージしています。あんなふうに動ける組織でありたいなと。

田中氏 僕も、そういう組織が社内外にいろいろあるといいなと思っています。IoT関連事業についてもそんな感じですね。ただ、いずれゲヒルンのWebサービス部門の会員が増えてきたら、フェーズはまた変わるでしょう。恐らく、維持管理がしっかりできる人が歓迎されるオペレーションフェーズになると思うんですよ。

石森氏 オペレーションフェーズになったら、自分たちの少数のメンバーではとても手が回らないところを、さくらが今まで培ってきたところに引き継げたらいいなと思っています。

田中氏 もしかするとゲヒルンのメンバーの中にも、運用の現場でセキュリティ知識を生かしたいという人がいるかもしれませんね。新しく始めたいタイプの人と、どちらかというと維持して改良していきたい人と、両方がいる。いろんな人が働ける場所があるとうれしいですよね。

経営者視点で考える「これからの働き方」

 ここで話は、経営者視点で考える企業の在り方、働き方へと移っていく。これからグローバルにサービスを展開する企業には、どのような文化と働き方が求められるのだろうか?

田中氏 うちは5年くらい前から大きく方針を変えて、マニュアルを作ってその通りに働く人だけじゃなく、「新しく作り出せる人たちをいかに増やしていくか」に価値を見いだすようにしています。石狩データセンターの建設もそうですが、求人に関しても人材紹介会社経由ではなく、良い人がいれば直接誘ってみたりして……、今では社員全体の3分の2くらいが、ここ5年くらいに入った新しい人で占められています。

 働くに当たっては、オープンさと多様性、開放性と多様性というんでしょうかね。それがすごく大事だと思います。年齢とか性別とか、海外だとLGBTとかも言われますが、いろんな価値観が認められることが大切なんじゃないかなと。

 先日読んで印象に残った『クリエイティブ・クラスの世紀』『クリエイティブ資本論』という本の中で、グローバルな企業にはテクノロジーとタレントとトレランス(寛容性)の3つが必要だということが書かれていました。「グローバル企業の先端性で競争するなら、多様性や寛容性を改善する必要がある」と書いてあります。

 さくらの場合、外の人を柔軟に受け入れていますし、雇用形態も自由。年齢も関係ありません。僕自身が18歳で起業していますし、2016年7月に新たに就任した役員の一人は25歳です。石森さんも12歳で事業を始めているわけですから、あまり年齢って関係ないですよね。性別や障害の有無、国籍なんかもそうでしょう。自由で寛容で多様というのがとても重要だと思っています。

石森氏 うちも多様性を大事にしています。年も国籍も関係ないですよね。今度は中国の人を採用する予定です。

 よく思うのは、働く人のリソースを活用するには、会社が人に合わせていく方が良いということです。「フルタイムじゃないと採用できません」では、そのリソースが生かせず、もったいないじゃないですか。「6時間でもいいので非常勤で来てください」「曜日を決めて来てください」とする方が、会社にとってもその人にとっても、社会にとっても利益になる。一定のルールじゃないと受け入れないというのは、実は不利益につながることがありますよね。

田中氏 僕が最近気にしているのは、事業が先にあるとうまくいかないということです。事例を出し始めると枚挙にいとまがないんですが、やはり先にチームがあって、そのチームがこの事業をするっていう順番で進めるべきじゃないかなと。良くできたチームであれば、もし失敗してもまた新しいことにチャレンジすればいいわけですから。人が会社に集まるのではなく、良い人が集まっているところに会社が出ていく。事業に人が集まるのではなく、人やチームに対して事業が集まるということがすごく重要だと思います。

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