マイクロソフトが提案するデジタルトランスフォーメーションで大事な4つのことと、その実践事例「アポロ計画」でAzureをアピール

日本マイクロソフトは2016年12月1〜2日にMicrosoft Azure提案プロジェクト「アポロ計画(APOLLO PROJECT)」を開催。本稿では、その取り組みの中から、講演「マイクロソフトの経営企画室が語るデジタルトランスフォーメーション戦略とその進め方」の模様をお届けする。

» 2016年12月06日 13時30分 公開
[丸山隆平@IT]

 日本マイクロソフトは2016年12月1〜2日、「アポロ計画(APOLLO PROJECT)」と称する、マイクロソフト全社員(人事・法務など管理部門も含む)がMicrosoft Azure(以下、Azure)を積極的に提案するイベントを東京・品川の同社オフィスで開催した。

「アポロ計画(APOLLO PROJECT)」は、マイクロソフトの全社員がMicrosoft Azureを積極的に提案する2日間の社内プロジェクト。このプロジェクトはワールドワイドで展開され、マイクロソフトの“クラウドファースト”を社内外に強力にアピールする

 同イベントでは、CFO(最高財務責任者)/財務マネジャー向け、IT部門向け、人事部門向けにセミナーを開催したり、「Microsoft Azure相談窓口」を設けたりするなど、さまざまな取り組みが行われた。

日本マイクロソフト本社1階ロビーのオープンスペースには「Microsoft Azure相談窓口」も開設されていた。企業のIT担当者のAzure活用に関する相談を親身に聞いているのは、マイクロソフトのパートナー企業で、Azureソリューションを数多く手掛けているインテリジェンス ビジネスソリューションズの岩崎喜寿氏(写真右)

 それらの取り組みの中から、本稿では日本マイクロソフト コーポレート戦略統括本部 シニアビジネスディベロップメント マネージャー 坂谷淳宏氏による講演「マイクロソフトの経営企画室が語るデジタルトランスフォーメーション戦略とその進め方」の模様をお届けする。

デジタルトランスフォーメーションを推進する効果

日本マイクロソフト コーポレート戦略統括本部 シニアビジネスディベロップメント マネージャー 坂谷淳宏氏

 まず坂谷氏は、デジタルトランスフォーメーションについてIDCの定義に従い、「企業が第3のプラットフォーム技術を利用して新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通じて価値を創出し、最終的には競争上の優位性を確立すること」だとした。ここで言う「第3のプラットフォーム」とは「従来のクライアント/サーバモデルを中心とした第2世代のプラットフォームに対比して用いる概念であり、クラウド、ビッグデータ、モビリティ、ソーシャルの4市場で構成される」(坂谷氏)という。

 また、デジタルトランスフォーメーションのキーワードとしてコネクテッドデバイス、ビッグデータ、AI、IoTの4つを上げ、これらの新しい技術をどう取り込んでいくかが、デジタルトランスフォーメーションの成否を決めるとした。

 次に坂谷氏は、米国におけるデジタルトランスフォーメーションに伴ういくつかの象徴的な数字について解説した。

  • 41%:デジタルトランスフォーメーションによりもたらされる収益の割合――これは2019年には現在の2倍へと増加すると予想される
  • 63%:テクノロジー関連の投資の引き上げを考慮するCEOの割合
  • 47%:5年以内に他社のデジタル化により奪われるのではないかと脅威に感じている事業の割合(この事例として坂谷氏はUberを挙げた)
  • 40〜60%:IT部門以外で使われるIT関連予算の割合
  • 51%:経営会議でデジタルトランスフォーメーションによる脅威や機会について議論される時間の割合

 さらに坂谷氏は、米国企業の例を引いて「より早くデジタル化を成熟させた企業が好業績を上げている」と述べ、縦軸に事業全体におけるデジタル化の比率、横軸に革新的マネジメントがどれだけ創出されているかの比率をとったグラフを示し、企業を「ビギナー「保守的に追随」「最先端に追随」「デジタルエリート」の4タイプに分類。各グループについて収益率、利益率、市場価値の数字を具体的に示した。

 こうした各企業グループの違いはどこから生じたのか? 坂谷氏は「この数年登場してきたスマートフォン、ドローン、3Dプリンターなどの新しいテクノロジーによる製造コストの低下があり、これらを取り入れることでビジネス拡大のスピードが驚異的に短縮されている」と述べた。

 「日本で売上1000億円以上の企業は全体の約25%を占めるが、デジタルトランスフォーメーション時代においては、起業したばかりのベンチャー企業がわずか数年でその規模まで達することができる」(坂谷氏)

デジタルトランスフォーメーションで大事な4つのことと、その事例

 デジタルトランスフォーメーションを取り巻くこうした環境の中でマイクロソフトの企業ミッションは「地球上の全ての個人と全ての組織が、より多くのことを達成できるようにする」ことにあると坂谷氏は語る。その世界観はモバイルファースト、クラウドファーストであり、目指すところは「生産性とビジネスプロセスの改革およびインテリジェントクラウドプラットフォームの構築と、よりパーソナルなコンピューティングの創造にある」という。

 続いて坂谷氏は、デジタルトランスフォーメーションを進める上でマイクロソフトが対象としているのは下記の4分野で、それぞれにおいて成長を押し進めるとした。これらを「単独で進めるのでなく、相互作用として進んでいくことでデジタルトランスフォーメーションが推進される」という。

  1. お客さまとつながる
  2. 社員にパワーを
  3. 業務を最適化
  4. 製品を変革

 次に坂谷氏は、【1】〜【4】について事例を挙げて解説した。

【1】お客さまとつながる

 「お客さまとつながる」の例としてはヴァージンアトランティック航空がWindows 10により顧客体験を活性化した事例を取り上げた。ヴァージンアトランティック航空の課題は顧客体験の強化と新規顧客の獲得の増加であり、そのために、新たな方法で顧客にリーチすることを企画した。

 ここでヴァージンアトランティック航空が採用した戦略は、Windows 10の対話型ユニバーサルWindowsプラットフォーム(UWP)アプリ「Ida」を開発し、提供を開始したこと。その結果として、顧客には多機能なモバイルデバイスを通じた旅行体験を柔軟性を持って提供するとともに、商品とサービスの改善ために有力な顧客情報が獲得できたという。

【2】社員にパワーを

 「社員にパワーを」について坂谷氏は、食品メーカー、クラフト・ハインツにおけるOffice 365の活用事例を紹介した。クラフト・ハインツでは、一貫性があり、モバイルとの親和性が高いコミュニケーションとコラボレーションの機能を提供するものとして、Office 365 ProPlusの導入を決定。10週間以内という導入期間で約4000名のユーザーが新ツールを活用し、どこからでも、どのデバイスからでも一貫した作業環境とファイルアクセスを提供することを目指した。その結果として、メールコストを約23%、会議コストを約38%削減したという。

 「デジタルトランスフォーメーションの時代ではAIや機械化により、時間単位で測る“労働”が減少し、より付加価値の高い“仕事”が求められる。こうした環境の下では、在宅勤務など働き方を改善する必要性が高まる。

 人材への投資も不可欠だ。特に、顧客に接する最前線にいるのは従業員。従業員が満足した働き方ができれば、顧客に最善のサービスを提供できる。そのためには、従業員にビジネスデータを与え、顧客の行動を把握したり、ラインの状況を見て次に何をすべきかを考えたりするべきで、それが効率化の向上につながる。これからのデジタルトランスフォーメーション時代には良い人材をどれだけ集め、引き付けられるか、それが企業の差別化につながる」(坂谷氏)

【3】業務を最適化

 坂谷氏はさらに「業務を最適化」に関して、デジタルトランスフォーメーションと企業文化との関係にも言及。「働き方に関わるシステムを導入するだけではなく、それがどのように利用されているかまでを把握していくことが重要」とした。

 その実例として、照明器具サプライヤーであるWLSライティング・システムズの取り組みを紹介した。WLSライティング・システムズはAzureを活用した電力制御システム「netLiNK」を同社の顧客に提供。その結果、顧客の電気料金を1000万ドル強(従来比約50%)削減したという。

 坂谷氏は、この例で見られるように今後、「さまざまな産業、企業で、IoTやAI/コグニティブといった技術を適用することでデータの自動的な収集を行える。そして、収集されたデータを基に予測分析を行い、イベントドリブンからデータドリブンへ、予測分析に基づいたアクションプランが実行可能となる。その際に重要なのは、全体的なプロセス改善だ」とした。

 「既存のプロセスを一対一で改善しようとすると、個別最適になってしまうケースもある。全体としてあるべき姿のプロセスを先に描くことが重要。時には、そのプロセスをなくすという思い切った方法もある」

 また、今後のデジタルトランスフォーメーション時代を見通す際に最上位概念として考慮されるべきが、デザイン思考だ。部分でなく全体、現在でなく将来を見通す上で、「プロセスを利用する顧客や従業員をイメージしながら、最適なプロセスを模索することが必要だ。人を中心においたシステム設計を行うことで、人がやるべきことと、機械ができることなどに分類する」(坂谷氏)という。

デザイン思考

【4】製品を変革

 最後の「製品を変革」としては、ロールス・ロイスがAzure IoT Suiteを使ったソリューションを航空会社に提供した事例を紹介。航空会社の課題であった、航空機の開発効率性の改善、航空機の利用率の向上、航空会社のエンジン保有コストの削減などが実現された。この航空会社ではAzure IoT Suiteによりリモートでエンジンのデータを集約し、運用上の健全性評価と異常検知のために、Cortana Intelligence Suiteを活用。エンジンのライフサイクルを通じて資産価値を維持し、欠航を削減。年間数100万ドルの潜在的コスト削減を実現したという。

 「製品を変革」について坂谷氏は、次のように力を込める。「製品がコモディティ化すると、それ以上の最適化や大きな変化がなくなる。その結果として、ただ良い製品を作るだけでは“圧倒的に売れる”ことは少なくなる。ただし、利用方法や使い方のアイデア次第で、それまで得られなかった市場を獲得することもできる」。

 また今後、全ての製品のデジタルトランスフォーメーションが進んでいくと、「ソフトウェアによる制御やスマートフォンとの連携により、新しい利用価値を生み出せる。製品(または製品同士)がAPIでつながることにより、新しいサービス価値を生み出すことも可能になる」(坂谷氏)という。

 そこで重要なのはサービスモデルの構築だ。「製品を製造し、販売するだけではなく、そこから得られるデータを収集、分析し、その結果を顧客に返すことでサービスモデルに変換することが可能になる。顧客は良い製品を得るだけではなく、行動の変化に期待する」と坂谷氏は言う。

デジタルトランスフォーメーションに必要となる企業文化

 最後にまとめとして坂谷氏は、デジタルトランスフォーメーションに必要となる企業文化に言及。「変化を起こすためには強いリーダーシップが必要であり、変化には必ず多少の摩擦が伴う。重要なのは経験と失敗から学ぶことであり、必ず成功する方法を探すこと事態が困難である。マイクロソフト自身も変革を敢行し、多くの世界的企業と共に変革を実現している」とした。

 例えば、マイクロソフトは時系列で見ると下記のようにビジネスモデルを変化させてきている。

  1. 「プロダクト中心」として、Windows、Officeを中心としたオフィスワーカーのための製品を継続的に提供
  2. 「プロダクトからサービスへ」として、製品からOffice365、Azure、Dynamicsなどクラウドサービスを販売・サービスモデルへと変革
  3. 「さらなる変革へ」として、クラウドサービス、ハードウェア、サービスを組み合わせて、組織と個人がより多くのことができるように支援

 「マイクロソフトは第3のプラットフォームを全面的に提供し、そのコンサルティングサービスも提供する。皆さまの抱えている経営課題、目指す姿についてぜひお話をお聞かせください」(坂谷氏)

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