従来型の企業は、デジタルネイティブ企業の考え方に抵抗感を抱きがちだ。だが、そうした姿勢は通用しなくなりつつある。
ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。
50年前の経営科学では、大量生産や自動車産業の研究が主流だった。現在では、経営科学の中心的テーマは、IT企業やデジタルネイティブ企業だ。
「デジタルネイティブ企業は、1995年以降に設立された企業で、コアコンピテンシーとしてインターネット時代のITやデジタル技術を利用することにより、事業モデルおよび能力を築いている。実際、優れた先読み思考や、思考パターン、コンピテンシーは、彼らの差別化を支える要因になり始めている」
Gartnerバイスプレジデント兼Gartnerフェローのマーク・ラスキーノ氏は、2016年11月上旬にスペインのバルセロナで開催されたGartner Symposium/ITxpoでこう語った。とはいえ、従来型の企業は、こうしたデジタルネイティブ企業の考え方を、自社でも生かせる可能性があるということに抵抗感を抱きがちだ。
だが、こうした姿勢は通用しなくなりつつある。企業のデジタル化が進んでいるからだ。従来型の企業はこれまで、こんなふうに考えていたかもしれない。「彼らは新興企業なので、われわれとは違うやり方で業務を行える」「彼らは小規模企業だ。あんなやり方は規模が小さくないとできない」「彼らは米国企業ばかりだ」
だが、ラスキーノ氏はこう指摘した。「Amazonは創業20年だ。Googleの従業員は6万人いる。Tesla Motorsは車を作っている。中国のAlibaba Groupのように、米国以外にもデジタルネイティブ企業はある」
「こうした企業が現代の経営科学や戦略的な成功に関する先行例を生み出している。彼らのやり方を模倣する必要がある。彼らが活用しているテクニックは非常に強力だからだ。彼らは、とてつもなく高度な論理を駆使しているわけではない。肝心なのは、他社とは違う道を進み、他社とは違う考え方をすることだ」(ラスキーノ氏)
従来の企業は、特にビジネスフォーカス、リスク管理、人材調達という3つの重要分野で、デジタルネイティブ企業の特定の側面をコピーできるという。
デジタルネイティブ企業は、「ミッションステートメント(自社の使命を明文化したもの)」を、「われわれは企業としてこれこれのことを行う」といった具体的な宣言文として明確に表現する。このミッションステートメントが、彼らの道しるべになる。例えば、Uberのミッションステートメントは、「乗り物を水道水のように、どこでも、誰にとっても信頼できるものにする」というものだ。さらにUberは、「21世紀にはタクシーを捕まえやすくしなければならない」というアイデアに可能性を見いだした。それが同社の根本的な組織原理となっている。Uberの社員は全員、自分たちがどういう未来に向かっているかを知っていると、ラスキーノ氏は説明した。
ビジネスモデルに関して、デジタルネイティブ企業はアイデアを探求し、テストする。幾つかのモデルを試し、最終的にそれらを組み合わせるかもしれない。例えば、LinkedInには3つのモデルがある。人材ソリューション、プレミアムソリューション、マーケティングソリューションだ。同社はビジネスモデルを流動的に扱い、随時分析を行ってモデルを発見したり、洗練させたりする。実験が失敗したら、別のことを試す。
デジタルネイティブ企業はユーザーを中心に据え、ユーザーにとっての体験を完璧なものにすることに力を注ぐ。その哲学は、「ユーザーにとって完璧な製品を作れば、収益は後からついてくる」というものだ。徹底したユーザー本位は、勝者が総取りするデジタルの世界で成功しているようだ。
従来の企業は、いまだに勘に基づいて意思決定を行うが、デジタルネイティブ企業は、あらゆるツールやデータを意思決定に役立てる。また、行動するリスクを、行動しないリスク(自社が行動しない一方、他社が同一のアイデアを試した場合のリスク)と比較する。
従来の企業では、ほとんどのプロジェクトは成功させなければならず、IT部門にはその考え方が染みついている。だが、デジタルネイティブ企業は異なる手法でポートフォリオを管理する。例えば、成功するプロジェクトは全体の2割で、8割は失敗すると想定している場合もある。
デジタルネイティブ企業はデータに基づいて意思決定を行う。できるだけ網羅的にA/Bテストを実施し、指標について判断した上でシステム構築を行う。これらの企業では、データがモノを言う。
デジタルネイティブ企業は事業を拡大するに当たって、人員を増やさないように努める。人員増は組織の官僚化につながるからだ。彼らは、従来の企業であれば担当者を雇うような場合に、その仕事を処理できるソフトウェアを購入または開発しようとする。組織の拡大による業務スピードの低下を避けるためだ。人間嫌いというわけではなく、スピードとアジリティを維持することが狙いだ。社員数はもはや企業の成功の指標ではない。例えば、SnapChatの社員数は330人、Pinterestは600人にすぎない。
デジタルネイティブ企業は、IT担当者および技術担当者を尊重し、敬意を払う。技術チームは経営幹部の会議に参加しており、ブロックチェーンのような新興技術に関するアイデアをCEOに持ち掛けることもできる。
デジタルネイティブ企業は、優秀な人材であれば、少ない採用者数で満足する。彼らは、「少数精鋭のチームはパフォーマンスが高く、発想が異なる人が集まると、高い創造性を発揮する」ということを理解している。そしてほどほどの金額を多くの人に投資するのではなく、多額の資金を少数の人に投資しようとする。
デジタルネイティブ企業は、ごく小規模な企業と組むことを好む。自社を差別化するためにユニークな製品やサービスを見つけようとしているからだ。最終顧客にとってデジタルが重要なら、他にない特別なものを見つけて提供することが大きな意味を持つ。他にない特別なものは、小さな企業が手掛けていることが多く、こうした企業は小規模な買収で傘下に収めることもできる。こうしたアプローチの下では、イノベーションを提供しない企業と大規模な合併を行わずに済む。
出典:10 Management Techniques from Born-Digital Companies(Smarter with Gartner)
Brand Content Manager at Gartner
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