誰がデータを所有しているのか、その現状と展望Gartner Insights Pickup(2)

われわれはデジタル社会のルールを理解しなければならない。その1つの重要な側面が“データのオーナーシップ”――誰があなたのデータ、あるいはさまざまなモノのデータを所有するのかという問題だ。

» 2016年12月26日 05時00分 公開
[Frank Buytendijk,Gartner]

ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。

 デジタル社会が到来しつつある。その中では仮想要素と物理要素の融合が新たな現実を生み出そうとしている。われわれはこのことを正しく理解しなければならない。つまり、あるデジタルビジネスが失敗したら、別のやり方があることが多いということだ。

 ただし、われわれはデジタル社会の外では生きられない。望むと望まざるとにかかわらず、われわれはその一部だ。従って、デジタル社会に適応していく方法を見いだす必要がある(こうしたデジタル社会の中でのわれわれの在り方を、私は“デジタル現存在(Digital Dasein)”と呼んでいる。これは哲学者のハイデッガーの用語を借りたものだ)。

 そのためには、デジタル社会のルールを理解しなければならない。詳しくは、「Introducing Digital Connectivism: A New Philosophy for the Digital Society」(デジタルなつながり:デジタル社会の新しい哲学)をご覧いただきたい(※)。

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 1つの重要な側面として、アナリストの間で最近議論になった“データのオーナーシップ(※)”が挙げられる。誰があなたのデータ、あるいはさまざまなモノのデータを所有するのかという問題だ。

※オーナーシップ(ownership)は、「所有」「所有権」「所有者であること」を指す。

 まず幾つかの分かりやすい事象を見てみよう。

 従来の世界では、われわれは主要なビジネス情報の大部分を社内で管理していた。情報ガバナンスの規律は、この管理が適切に行われるようにすることを目的としていた。

 だが、企業が他者と情報を共有するようになったことで、こうした管理は既に困難になってきている。銀行取引を考えてみよう。当事者は、銀行、その顧客、決済業者、取引相手の銀行、その顧客である取引相手だ。それぞれが、データのさまざまな要素に由来するメタデータを付加する。このため、誰が情報のどの部分を所有しているかを判断するのは、すぐに不可能になる。だがこの例で興味深いのは、それがあまり重要な問題とならないことだ。データはプロセスとシステムでロックされ、表に出ない。プロセスが失敗すると、銀行か決済業者が責任を負う。

 デジタル世界ではもっと厄介だ。ビジネスのどの瞬間においても、すべての当事者を把握できるとは限らず、使われているすべての技術を把握できるとは限らない。エージェントを介してやりとりが行われるからだ。そこで問題になるのが、「やりとりされるデータについて、誰が何を行うことを認可されているか」だ。

 さまざまな角度からこの問題を見てみよう。

法律

 社会には、争いを解決するために法律がある。情報ガバナンスが企業で果たす役割があるように、法律が社会で果たす役割がある。しかし、幾つかの但し書きがある。法律は、われわれが社会の中で取る行動の出発点ではなく、「われわれがどう行動しなければならないと思っているか」を示すものだ。言い換えれば、まず社会の動きがあり、それからわれわれは、行動などに関して望ましいと思う事柄を法律に明文化する。法律は“後追い”にならざるを得ないということだ。技術の分野では、それが明確かつ顕著に起こる。技術のイノベーションが急ピッチで進んでいるからだ。これは新しい話題ではないものの、依然として有効な論点だ。

 今後の新しい法律は、違ったものにならなければならないかもしれない。われわれは法律業ではなく、法的なアドバイスは提供しないが、実際のところ、何かを「測定」する当事者は、実質的にその情報を所有しているといえる。あるいは少なくとも、その情報を管理下に置いている。将来はこの状況を変え、著作権法のようなデータ法(「データの対象者がデータを所有または管理する」という趣旨の)を作る必要があるかもしれない。私に関する何らかのデータがあったら、誰がそれを測定したかにかかわらず、私がその利用を管理するというわけだ。これを行うための技術もあり、“デジタルロッカー”と呼ばれている。

 また法律は、争いが起こった場合のためにある。デジタル社会に適応していくには、争いや、法律が必要となる事態は避けたい。つまり、データの所有や管理について、法律以外のルールと運用も必要ということだ。

カストディアンシップ/スチュワードシップ(※)

 所有者が明確でない場合、何らかの集団的所有が必要になる。これは「スチュワードシップ」の領域だ。われわれ全員が責任を負うことになる。これは現実の社会でおなじみのルールだ。われわれは自宅の前の公道を掃除し、公共のインフラを注意して扱う(そうしないと、法律に触れることもある)。それはいわゆる“コモンズ(共有地)”の世界だ。こうしたルールは何世紀もの歴史を持つ。スイスでは“アルメンデ”と呼ばれている。

※カストディアン(custodian)は管理人、保管者の意味で、スチュワード(steward)は執事、財産管理人の意味。ここではカストディアンシップ、スチュワードシップは、共同で所有、使用するものについての責任ある行動を指している。

 こうしたルールはデジタル社会でも同様に通用するだろう。UberやAirbnbの評価システムは効果的に機能している。サービス提供者に対する評価が透明だからだ。これらの他にも、擬人化、ナッジング、技術スクリプトなどが機能する(「Modern Digital Technology Requires Shared Responsibility, Not Enforced Policy」をご覧いただきたい)。

 所有や管理を分散するもう1つのメカニズムがある。特定の機関が何らかの交渉を経て、特定の当事者が満たす必要があるコンテキストのルール、原理、要件に基づき、データ交換を処理するというものだ。だが、これが具体的にどのようなものになるかは不明だ。

サードパーティーの仲介

 今後、データの所有を前提として各種のサービス(監査、データ/アルゴリズム品質、認可、金融決済、承認など)を提供する企業が登場してくるだろう。私の同僚のアナリストは、「法的な取り決めに基づいてこうしたサードパーティーが信託を受け、便益の提供と引き換えにデータ資産を保持できるようになる」と指摘している。

 この同僚は、個人のデータが機密性、収集方法、デバイスコンテキスト、価値交換の想定などに基づいて、収集、分類される「Personal Data Trust(個人データ信託)」が成立すると予想している。これは、信託者を個人か、あるいは本人が未成年の場合はその親とし、データへのアクセスと使用権を、用途またはユーザーに応じて、許可または無効にする仕組みだという。

 こうした信託サービスの好例が「オープンデータアグリゲーター」だ。基本的に、そのビジネスモデルはオープンソースのマネージドサブスクリプションサービス全てと同じだ。データや技術は無料だが、データや技術のサポートと完全性の管理の対価として料金を支払うようになっている。http://dataportals.org/では、世界中の500以上のオープンデータポータルがリスト化されている。

 こうしたサービスはサードパーティーだけが提供しているわけではない。エコシステムの有力企業が手掛けることもある。例えば、VolvoのCEOは、Volvo製自動運転車が引き起こした問題については全て、Volvoが責任を取ると表明した。他社のCEOもこれに続いている。

オーナーシップが不要に?

 全ての問題が解消されたら、どうなるだろうか。銀行取引の場合のように、オーナーシップは必要なくなるのだろうか。おそらく、ソリューションとしてのブロックチェーンの真価はそこにあるのだろう。ブロックチェーンは、価値移転の考え方を根本的に刷新した素晴らしい例だ。従来の状況では、当事者を全て特定でき、取引データを保護するのに十分なセキュリティ対策を講じている場合に、信頼性の高い取引が実現される。

 ブロックチェーンの仕組みはその真逆だ。全ての取引がオープンで、分散台帳で管理される。取引に関わっている当事者が誰かは、他の当事者によって特定されない。ブロックチェーンは、アイデンティティ管理や情報管理に利用でき、ビジネスの金融決済にも利用できる可能性がある。

 また、あまり明確に定義されていないソリューションとして、“自己記述型データ”が挙げられるかもしれない。このデータは、何に利用でき、何に利用できないかが示されている。だが、この技術にどの程度現実性や将来性があるかは不明だ。

今後の世界はどうなっていくのか

 私に想像できるのは、「現実は、こうした全てと、われわれがまだ考えたこともない幾つかのことを組み合わせたものになるだろう」ということだけだ。だが、私はその一方で、データの所有と管理の在り方は大きく変わる必要があり、その過程でさまざまな試行錯誤が行われるであろうことを確信している。今後の展開からますます目が離せない。

出典:Who Owns The Data, Anyway?(Gartner Blog Network)

筆者 Frank Buytendijk

フランク・バウテンダイク

ガートナー リサーチ部門 バイス プレジデント兼ガートナー フェロー


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