トヨタTRI CEOが語った、自動運転技術開発における最大の課題は人間完全自動運転は2020年代前半に実現しない(2/2 ページ)

» 2017年01月10日 05時00分 公開
[三木泉@IT]
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 「レベル2はおそらく最もホットな議論の対象となっている。既に実現されており、いくつかの車種は公道を走行しているからだ」

 「レベル2では、ドライバーへのハンドオフリクエストがいつでも起こり得る。1、2秒前の警告でもよいことになっている。すなわち、ドライバーは精神的にも肉体的にも、瞬時に対応しなければならない」

CES 2017でトヨタが発表したコンセプトカー「Toyota Concept-i 01」

 「より大きな課題は、レベル2ではドライバーが自動運転を常に監督し、前方の危険をシステムが検知しなかった場合には制御を肩代わりしなければならないということだ。これは、インテリジェントクルーズコントロールを起動していて、前方にセンサーが検知できないがれきが見えた際に、ブレーキを踏んで解除しなければならないのに似ている。レベル2ではこうしたことが起こり得る。私たちはこれを決して忘れてはならない」

 「驚くべきことではないが、人間の性(さが)は、私たちにとって最大の懸念点であり続けている。多くのドライバーが、システムに対し、過度な信頼、あるいは過度な不信を抱いている傾向が見られる」

 「レベル2システムの機能を過度に信頼する人は、運転という環境から自らの注意を遮断し、レベル2のシステムが実際よりも優れているという誤った思い込みをするかもしれない。TRIで恐れているのは、ハンドオフが発生しない走行が続くと、過度な信頼が生まれる可能性があるということだ。逆説的だが、ハンドオフの発生頻度が低いほど、過度な信頼の傾向が強まり得る。また、ドライバーの中には、意図的にシステムの限界を試す人が出てくる。実質的にデバイスを、想定用途とは違う形で誤用するということだ」

 Pratt氏はさらに、作業の監視と注意の継続の関係については、70年近く前から心理学の研究対象となっていると話し、監視が長時間化するほど、異常に気付きにくくなる傾向が明らかになっていると話した。

 「こうした証拠を前にすると、レベル2は良い考えではないということになるのだろうか? いくつかの企業は既にこれが難しすぎると判断し、レベル2およびレベル3をスキップする決定をしている」

 だが、現在のドライバーの多くがラジオを聴くように、軽度の作業をしていれば、注意が継続できる可能性があるという。

 「人とマシンの間のインタフェースおよび関係は、トヨタにとって非常に重要だ。TRIではこの点について今後も探究を続けていく。確かなのは、完全な自動運転という究極の目標に向けて進む過程で、できるだけ多くの生命を救うべく努力しなければならないということだ。なぜなら、米国における車両の多くがレベル4以上となるには、数十年の時が必要になるからだ」

 「TRIが2通りのアプローチを採用しているのはこのためだ。人間による運転をより安全なものにすることを目的とした『Guardian』と呼ぶシステムと、『Chauffeur』と呼ぶレベル2からレベル5までのシステムを同時並行的に開発している。Chauffeurを実現するために開発しているハードウェアおよびソフトウェアの多くは、Guardianにも適用できる。逆もしかりだ」

どれくらい安全なら十分なのか

 Pratt氏は今回のスピーチの冒頭部分で、「(自動運転車が)どれくらい安全なら十分なのか」という問題を提起している。

 人間は、理性的にはともかく、感情的には機械のやることに関する寛容度が低いとし、例えば米国で自動運転車が完全普及した結果、年間交通事故死亡者数は変わらないが、混雑は緩和し、利便性が向上したとしても、こうした状況を人間は受け入れないだろうと話した。

 「では、機械が人間のドライバーに比べて2倍安全で、年間交通事故死亡者数が半減したとしたらどうだろう。こうしたシステムの自律性を、私たちは受容するだろうか? 歴史的に、人間は機械の欠陥によって引き起こされた傷害や死について、ほぼゼロに近い寛容度を示してきた。そして私たちは、自動運転車が依存する人工知能システムは、現在のところ避けられないことではあるが、不完全だということを知っている」

 「どの程度安全なら十分なのか。非常に近い将来、この質問への答えが必要になる。私たちには答えがまだ分かっていない。誰が、どのように基準を生み出すのかも明確ではない。そして(この基準は)世界中で同じなのかどうかも分からない」

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