トヨタTRI CEOが語った、自動運転技術開発における最大の課題は人間完全自動運転は2020年代前半に実現しない(1/2 ページ)

トヨタの自動運転関連技術研究開発組織、Toyota Research InstituteでCEOを務めているGill Pratt氏は2017年1月4日(現地時間)、CES 2017で、自動運転技術開発の現状と課題につき、示唆に富む説明をした。本記事では、この説明を再構成してお届けする。

» 2017年01月10日 05時00分 公開
[三木泉@IT]

 トヨタが2016年1月に設立した自動運転関連技術研究開発組織、Toyota Research Institute(TRI)でCEOを務めているGill Pratt(ギル・プラット)氏は2017年1月4日(現地時間)、米ラスベガスにおけるConsumer Electronics Show(CES) 2017のプレスカンファレンスで、自動運転技術開発の現状と課題につき、示唆に富む説明をした。本記事では、この説明を再構成してお届けする。

TRI CEOのGill Pratt氏

 自動運転についてのメディアの取り上げ方には時として混乱が見られるとPratt氏は話した。

 「どこかの企業が、『2020年代前半に自動運転車を路上に送り出したい』というとき、その企業が意味しているのはおそらく(注:完全な自動運転を意味するレベル5ではなく)レベル4だ。TRIは、複数の自動車メーカーが、10年以内にレベル4の自動運転車を特定の場所で走行できるようにすることはあり得ると考えている」

 「全ての自動車メーカーは、どのような交通・気候条件、場所、時間であっても完全に自動運転を実行可能なレベル5の達成を目指している。はっきり言っておくが、これは素晴らしい目標だ。だが、自動車産業、あるいはIT産業のどの企業も、真のレベル5の自律性達成からは程遠い位置にいる。(中略)レベル5の自律性に必要な完全さを達成するには、今後長年にわたる機械学習と、これまでの模擬あるいは路上の実験における走行距離を大きく上回る距離のテストを実施する必要がある」

 「ただし、いいニュースがある。レベル4の自律性はレベル5とほとんど同じで、(レベル5より)かなり早いうちに登場するだろう。レベル4は完全な自律性を実現する概念で、ミシガン大学のMCityテスト施設のような、特定のOperational Design Domain(走行条件)でのみ機能するものだ。制限としては走行地域、速度、時間帯、良好な気象条件などが考えられる」

 Pratt氏が上記で言及している自動運転のレベルは、モビリティ技術関連のエンジニア、科学者、業界関係者の団体であるSAE Internationalが策定した、「J3016」という自動運転技術に関する標準。自動運転技術を、レベル0から5まで6段階で定義している。

SAE International J3016で定義されている各自動運転レベルの概要(出所:SAE International、カッコ内は筆者による参考訳)

Level 0: No Automation

The full-time performance by the human driver of all aspects of the dynamic driving task, even when enhanced by warning or intervention systems

(レベル0 自動化なし:警告/介入システムの支援がある場合でも、人間のドライバーが、動的な運転操作のあらゆる側面をフルタイムで担う)

Level 1: Driver Assistance

The driving mode-specific execution by a driver assistance system of either steering or acceleration/deceleration using information about the driving environment and with the expectation that the human driver performs all remaining aspects of the dynamic driving task

(レベル1 運転者支援:特定の「運転モード」(注)において、運転者支援システムが運転環境の情報に基づきハンドル操作あるいは加速/減速を実行する。システムは、人間のドライバーが他の動的な運転動作を実行することを前提とする。)

Level 2: Partial Automation

The driving mode-specific execution by one or more driver assistance systems of both steering and acceleration/deceleration using information about the driving environment and with the expectation that the human driver performs all remaining aspects of the dynamic driving task

(レベル2 部分的自動化:特定の「運転モード」(注)において、単一あるいは複数の運転者支援システムが運転環境の情報に基づきハンドル操作および加速/減速を実行する。システムは、人間のドライバーが他の動的な運転動作を実行することを前提とする。)

Level 3: Conditional Automation

The driving mode-specific performance by an Automated Driving System of all aspects of the dynamic driving task with the expectation that the human driver will respond appropriately to a request to intervene

(レベル3 条件的自動化:特定の「運転モード」(注)において、自動運転システムが動的な運転操作の全ての側面を担う。システムは、人間のドライバーが介入リクエストに対し適切に対応することを前提とする。)

Level 4: High Automation

The driving mode-specific performance by an Automated Driving System of all aspects of the dynamic driving task, even if a human driver does not respond appropriately to a request to intervene

(レベル4 高度な自動化:特定の「運転モード」(注)において、人間のドライバーが介入リクエストに対し適切に対応しない場合を含め、自動運転システムが動的な運転操作の全ての側面を担う。)

Level 5: Full Automation

The full-time performance by an Automated Driving System of all aspects of the dynamic driving task under all roadway and environmental conditions that can be managed by a human driver

(レベル5 完全な自動化:人間のドライバーが対応できる全ての路面条件および環境条件において、自動運転システムが、動的な運転操作のあらゆる側面をフルタイムで担う。)

注)「運転モード」を、SAE J3016では「特徴的な動的運転動作要件に基づく運転シナリオの種類(すなわち高速道路への合流、高速クルージング、低速の道路混雑、限定地域内での走行など)」と定義している。

レベル2、3では運転者との関係が大きな課題に

 Pratt氏は次に、レベル3およびレベル2では人間との関係が大きな課題になってくることを説明した。

 「レベル3はレベル4とかなり近い。だが、その自動運転モードでは、時として(運転に)注意を向けていない人間のドライバーへ、制御のハンドオフ(引き渡し)を行わなければならないことがあるかもしれない」

 「このハンドオフは(中略)、難しい問題だ。SAEの定義によると、レベル3では、自動車制御のハンドオフが必要になった場合、ドライバーに十分な警告を与えなければならない。また、レベル3では、ハンドオフを必要とするような状況を、自動車が常に検知できなければならない。その理由は、レベル3ではドライバーによる自律性の監督が不要で、代わりに他の作業に没頭していてもいいことになっているからだ」

 「課題は、(自動車による)ハンドオフのリクエストがあった場合、ドライバーがチャットや読書などをやめるのにどれだけの時間を必要とするか、そしてシステムがハンドオフを必要とする状況を全く逃さないということが可能か、にある」

 「多くの研究によって、ドライバーが運転から離れている時間が長くなるほど、感覚を取り戻すのに時間がかかるようになることが分かっている。一方、時速65マイル(105キロメートル)で走行している車は、毎秒100フィート(約30メートル)進む。従って、この速度で走行中に、運転から離れているドライバーに対して15秒前に警告を発しようとすれば、システムは1500フィート先、あるいはフットボールのフィールド5個を並べた先で発生しているトラブルを発見しなければならないことになる。これは保証することが極度に難しく、すぐに達成できるとは考えられない。なぜなら、走行速度にかかわらず、15秒の間には多くのことが発生するからだ。このため15秒前に警告すること自体が非常に難しい」

 「実際、レベル3はレベル4と同程度に達成が難しいということもあり得る」

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