デジタルトランスフォーメーションで変わる、データ管理の在り方デジタル時代の「価値を生み出す」データ管理(1)(2/4 ページ)

» 2017年01月27日 05時00分 公開
[木島 亮伊藤忠テクノソリューションズ]

デジタルビジネス推進の2つのポイント

 では、以上のようなデジタルビジネスを実践するためには何がポイントになるのだろうか?

 まず既存ビジネスの業務を、単に電子化/効率化するだけではイノベーションや新しいビジネスは生まれない。そこで、全く新しい体験価値を創造するために、「オープンイノベーション」を実施する企業が増えつつある。積極的に外部のリソースを活用(他企業との連携/イノベーションの募集/オープンデータの活用など)し、協働/共創することで、1社だけでは成し遂げることができない新たな技術/新たなビジネスの開発を行うビジネスモデルである。また、ユーザー中心主義のイノベーションを起こすために、「デザイン思考」というイノベーション発想手法を取り入れる企業も出てきている。

 こうしたデジタルビジネスを実践する上では、大きく2つのポイントがあるとされている。1つは未知のものにチャレンジするスタンスと、トライ&エラーだ。このためには失敗を許容/推奨する企業文化を作ることも重要になる。ニーズの変化が激しくライバルも多いデジタルビジネスは、最初から正解が分かるわけではない以上、失敗を繰り返しながら正解を模索するスタンスが不可欠となるためだ。

 もう1つのポイントは、既存事業と新規事業の切り分けだ。新興企業であれば、既存事業とそれを支えるIT資産がない分、驚異的なスピードでビジネスを変革していくことができる。だがデジタルビジネス以前に、既存事業がある企業にとっては、速いペースで変化していくことは難しい。ビジネスで変革を起こすにしても、社内調整がどうしても多くなる他、長年かけて構築してきたシステムを変更する上でも、プログラムの変更だけではなく、その他システムに影響がないかどうかテストする必要があるなど、多くの時間が必要になるためだ。

 そこで、一般的な企業が変化していくためのヒントとして、ガートナーやIDCが提唱している考え方が注目されている。

 ガートナーが提唱しているのは、アプリケーションの目的と変更頻度に応じて、「革新システム」「差別化システム」「記録システム」の3つに分類する「ペース・レイヤ戦略」と、安定性・安全性を重視する「モード1」、変化対応のスピードや柔軟性を重視する「モード2」の2つに分類して考える「バイモーダル」という考え方だ。IDCは安定性・安全性を重視するSoR(Systems of Record)、変化対応のスピードや柔軟性を重視するSoE(Systems of Engagement)という分類を提唱している。

 これを踏まえて、SoR領域とSoE領域、それぞれのシステムの特徴的なポイントを列挙すると、以下のように整理できる。一般に、デジタルビジネスを支えるシステムはSoE領域に当てはまる。

SoRシステムの例 SoEシステムの例
・ミッションクリティカルな基幹システム
・ウォータフォール型開発
・約10年使用するシステム
・ERP、SCM
・月次処理
・提供者:IT部門
・利用者:ビジネス部門
・企業内の記録するべきデータ
・イノベーションのためのシステム
・アジャイル開発
・半年ごとに作り変えるシステム
・CRM
・週次/日次処理
・提供者:IT部門・ビジネス部門
・利用者:社外のパートナー、ユーザー
・IoTで生成されるデータ

デジタルビジネスの推進者は誰か?

 ここで注目したいのは、SoRシステムの場合、提供者はIT部門であり、利用者は主に社内のビジネス部門である一方、SoE領域のシステム、特にデジタルビジネスを支えるシステムの場合、利用者は社外のエンドユーザー、ビジネスパートナーであり、IT部門とビジネス部門が協働して提供者になる例が多い点だ。

 前述のように、デジタルビジネスは「優れたユーザー体験を届けること」がゴールである。そうした高度な要件を満たす上では、エンドユーザーのニーズを知り尽くしたビジネス部門と、テクノロジーを知り尽くしたIT部門が歩み寄り、共にアイデアを出し合ってシステムを築き上げていく必要があるのだ。

 これを受けて、従来のCIO(Chief Information Officer)に加え、CDO(Chief Digital Officer)を設置する企業も注目されている。一般的な企業では、CIOがCDOを兼任することは難しい。なぜなら、CIOの役割は「情報化戦略を立案/実行」「ITによる業務の自動化/合理化/効率化の促進」「情報システムの安定稼働」などであり、「既存システムの維持」と「デジタルビジネスのための変革」を両立することは難しいからだ。

 そこでCDOは、「社内外データの活用」「迅速な意思決定の支援」「他部署/他社との情報共有により新しい価値創造」を実施していくことが任務となる。前述のSoR/SoEの切り分けのように、既存ビジネスと既存システム、デジタルビジネスとそれを支えるシステムを切り分け、それぞれをリードする人材を個別に置くわけだ。CDOを設けないまでも、IT部門を、SoE領域を担うチームとSoR領域を担うチームの2組織体制にする例も増えつつある。

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