契約書に書かれている法律用語、トラブル時にIT訴訟で争点となるかもしれない契約の種類。エンジニアなら知っておきたいシステム開発契約にかかわる法律用語を、IT紛争解決の専門家 細川義洋氏が分かりやすく解説します。
準委任契約とは、発注者(委任者)が、法律行為(※)以外の事務を受注者に依頼するタイプの契約です(民法第656条)。
受注者が約束した時間だけ「発注者の仕事を手伝ってあげる」「代わりにやってあげる」という契約で、仕事を完成させる義務を負いません。システム開発でしたら、発注者側が行うべき要件定義や受入テストを受注者が代わりに行ってあげる場合などに、準委任契約を結びます。
準委任契約は、原則「一定のスキル、知識を持った人が決められた時間働く」ことを約束するもので、受注者は完成した「モノ」は納めませんが、代わりに「作業報告書」を提出します。
また、作ったモノに不具合があっても、それを無償で補修しなければならず、損害賠償の可能性もある「瑕疵担保責任」は発生しません。何らかの事情で期間内に約束したモノが完成しなくても、契約上の義務は果たしたことになります。
ただし現実には、約束の時間が来たからと出来かけのモノを途中で放り出して引き上げると問題になりますので、モノを完成させるまで、約束した時間を超えて働かざるを得ないケースも、多く見受けられます。
「約束した時間働く」という点で、準委任契約は「派遣契約」と同じようにも見えます。両者の違いは「誰が指揮命令を行うか」です。
派遣契約は、発注者(派遣先)が受注者(派遣者)に指揮命令を行います。
準委任契約では、受注者自身が仕事の段取りややり方を決めて作業を行います。発注者は、その内容を報告書などで見て、自分が望んだ通りの仕事をしているかを確認します。
準委任契約の受注者は、「Aができたら、次はBを3日後までにしてください」といった指示を発注者から受けることは原則ありません。「1週間で現状業務を確認し、次の1週間は問題点の抽出とシステム化範囲を切り出す」などの「作業計画」は、受注者が考えます。
だからこそ、準委任契約の受注者には、自ら仕事のやり方を考えるだけのスキル、知識、経験が必要です。
スキル、経験、知識については、民法第644条で「受注者は専門家としての能力から考えて、通常期待される注意義務を負う(一部省略)」と書かれています。プロとして、「やるべきこと」「やってはいけないこと」を見極めた上で作業をせよということです。
準委任契約とは、受注者が決められた時間、発注者の業務を代行したり手伝ったりするもの。受注者は自らの責任で作業計画を立て、やり方を決めて、作業を行う。
ITコンサルタント
NECソフトで金融業向け情報システムおよびネットワークシステムの開発・運用に従事した後、日本アイ・ビー・エムでシステム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーおよびITユーザー企業に対するプロセス改善コンサルティング業務を行う。
2007年、世界的にも希少な存在であり、日本国内にも数十名しかいない、IT事件担当の民事調停委員に推薦され着任。現在に至るまで数多くのIT紛争事件の解決に寄与する。
プロジェクトの失敗はだれのせい? 紛争解決特別法務室“トッポ―"中林麻衣の事件簿
細川義洋著 技術評論社 1814円(税込み)
紛争の処理を担う特別法務部、通称「トッポ―」の部員である中林麻衣が数多くの問題に当たる中で目の当たりにするプロジェクト失敗の本質、そして成功の極意とは?
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