APIマネジメントの世界はどのように変化してきたのか。この分野における代表的企業の1社として知られてきた3scaleは、なぜレッドハットに買収されたのか。3scaleの共同創業者で、元CEOのSteven Willmott氏に聞いた。
主要ITベンダーによる、APIマネジメント専業ベンダーの買収がこの1、2年で相次いだ。APIマネジメントの世界はこの間、どのように変化してきたのか。この分野における代表的企業の1社として知られてきた3scaleは、なぜレッドハットに買収されたのか。そして、今後どのような取り組みを進めようとしているのか。3scaleの共同創業者兼CEOを務め、現在米レッドハットのAPIインフラストラクチャ担当シニアディレクター&ヘッドとなっているSteven Willmott(スティーブン・ウィルモット)氏に、これらのポイントを聞いた。
――あなたが3scaleを創業した当時と現在では、APIマネジメントの世界はどのように違ってきているか。
過去3、4年に、多くの企業がAPIの基本的な重要さを認識するようになってきた。他の組織とのやりとりのためだけでなく、組織内部での利用のために必要だと分かってきたといえる。さまざまな部署間での安定したインタフェースとして使うことで、ソフトウェア開発チームの生産性を上げられる。このことが、APIマネジメントの世界を変えたと思う。
私たちが2007年に(3scaleの)ビジネスを始めたとき、最初に聞かれたのは「APIとは何だ」という質問だった。そこで説明すると、「君たちは頭がどうかしている。なぜサーバをインターネットにさらすような真似をするのか」と言われたものだった。今では誰もがやっていることだ。ただし、APIマネジメントは当初、社内ネットワークでいえばインターネットとの境界で機能するものとして使われた。現在ではマイクロサービスとともに使われ、社内、社外の双方に向けて利用されている。つまり、境界は流動的なものになったということだ。
また、企業向けソフトウェアの主要企業であるIBMやオラクル、レッドハット、マイクロソフトなどが、APIマネジメントをコアコンピタンスの1つと考えるようになり、この世界で買収を進めた。APIが顧客にとって不可欠な存在になったからだ。
――あなたはブログで、「Amazon Web Services(AWS)によるAmazon API Gatewayの提供開始は、業界にインパクトを与えた」と書いている。なぜなのか。
クラウドの世界で成功しているAWSが「Amazon API Gateway」を出したことは、APIのインフラにおける重要性を反映している。同サービスは、APIマネジメントという観点からは、全ての機能を備えているわけではないが、API関連のコンポーネントを提供し始めたことは確かだ。API関連では、ゲートウェイ機能を中核的な価値としてきたベンダーが多い。AWSがゲートウェイを出したことで、これらのベンダーはAWSと競合することになった。
一方3scaleでは、「全てのゲートウェイを通る全てのトラフィックの追跡に基づくポリシー管理が、APIマネジメントにおける最大の付加価値」だと当初から信じてきた。従って私たちの製品は、APIゲートウェイに対して中立的だ。Amazon API Gatewayとも連携して使える。これにより顧客は、AWSにおけるAPIとオンプレミスのAPIを、双方と統一的な仕組みで追跡できることになる。
多くの企業は、オンプレミスとパブリッククラウドをハイブリッド的に使い続けるだろう。双方を結び付ける糊(のり)のような役割を果たすのはAPIだ。従って、APIゲートウェイ機能とトラッキング機能は双方とも欠かせない。
――3scaleは、APIマネジメントのアーキテクチャに関してどのような考え方を持ってきたのか。
3scale創業当初、エージェントを利用するアーキテクチャを採用した。だが、6カ月ほど経って、競合他社が(プロキシ型のアーキテクチャを採用し、)トラフィックをクラウドに流す設計にしていることに気付いた。その頃は不安を感じる部分があった。だが、結局のところ、トラフィックをクラウドに流すとコストが大きくなり過ぎる可能性が高い。最近では、できるだけ直接通信したいというケースが増えている。従って、エージェント型のメリットが高まっている。
プロキシを使いたいと考える人は多いが、軽量な社内APIを運用したいと考えている人たちも多い。Webプロキシを運用することなく、シンプルなJavaエージェントやRubyエージェントを使えることは、非常に便利だ。
人々が「APIとは何なのか」をよく把握していなかった初期のころは、クラウドを通すのが安全だと考えられていて、私たちは苦労した。だが、APIはどこでも使われるようになった。このため私たちの当初のモデルの価値が理解されるようになってきた。
――日本でAPIマネジメントについての関心が高まり始めてから数年が経ったが、はっきりいってどの製品も同じような機能をうたっていて、どう選択すべきかが分かりにくいと感じている人は多いはずだ。あなたは、どのように製品を選択してほしいと思っているか。
機能のリストを見る限りでは、どの製品も同じように映るだろう。多くの製品が、レート制限、アナリティクス、開発者向けポータル、セキュリティなど、標準的な機能を備えている。
やはり私としては、最重要ポイントとしてアーキテクチャを挙げたい。多くのベンダーはまだ、境界セキュリティに焦点を当てている。彼らは、「組織における(インターネットとの)境界にゲートウェイを置いており、そこにAPIが存在する」と言い続けてきた。
しかし、世界は変わってしまった。多くの人たちは、多層型セキュリティを求めている。組織の中のあらゆるシステムがAPIでつながりつつある。多数の顧客企業では、社内システム間連携のためのトラフィックが流れており、どの部門からどんなトラフィックが来ているのか分からない状態だ。どのサービスを止めていいのかも分からない。つまり、社内のどこでAPIが動いていても、これらを管理し、トラッキングできなければならない。ここに大きな違いが生まれる。
もう1つ言いたい。APIは重要な存在になっており、トラフィック量も増えてきている。従って、高いコスト効率で拡張できるようなソリューションが求められるようになってきたと思う。
日本でさまざまな人々と話した経験からすると、この国でもAPIを使った革新的な製品が続々と生まれている。組織内のあらゆるところでAPIを使う企業は増えてくるだろう。
――なぜレッドハットはあなたの会社を買収したのか。あなたの会社はなぜ、レッドハットに買収されることを選択したのか。
レッドハットはLinuxの会社だったが、今ではOpenShiftやFuseといったミドルウェアに力を入れていて、売り上げの4分の1を占めるようになっている。レッドハットの顧客はますますAPIマネジメントソリューションを求めていて、3scaleはレッドハットの製品担当部署と買収の約1年半から協業を進めてきた。その過程で、私たちがぴったりだと思ったのだろう。3scaleは先ほどから説明している通り、高度に分散化したモデルに基づいている。また、自動化にも力を入れていて、製品を構成するあらゆる要素が、APIを通じて操作できるようになっている。レッドハットはAnsibleなどとの相性も良いと考えたと思う。
――では、なぜあなたたちは買収されることを考えたのか。
買収される前、私たちには約700社の顧客がいた。その中には世界中に展開する大企業もあった。一方、私たちは従業員が45人のみの会社だった。利益は出ていたが、顧客をより深い意味で支え、さらに大きな市場を目指すことを考えたとき、大きな組織の一部になるべきだと考えた。レッドハットは1万人の会社で世界中に拠点を持っている。その意味で適していた。
他にも買収を申し出てくれたところがあった。だが私たちはエンジニアリング力で伸びてきた。また、自分たちの作った製品が、オープンに広く使われることを目指してきたため、オープンソースにも興味があった。この点でもレッドハットは適していた。APIはオープンでなければならない。この点で、レッドハットの一部になるべきだと考えた。
――もう一度、3scaleの基本的な競合優位性を説明してほしい。
2つの側面がある。
1つは組織の内部で、分散的かつ包括的な機能を提供できることだ。単一のポイントで、組織内の全てのAPIトラフィックを把握できなければならない。多数のゲートウェイ、多数のさまざまなAPIをカバーできる必要がある。こうしたビジョンや機能を備えているベンダーは、当社以外にない。
もう1つは自動化およびDevOpsだ。構成を含めてAPIの展開を自動化できることは不可欠だ。せっかくアジャイルなソフトウェア開発を行っているのに、APIは1カ月に一度くらいしか更新できないような状況はあり得ない。開発努力が無駄になってしまう。3scaleが備えていた機能にAnsibleを組み合わせることで、大きな違いが生まれる。
――他のレッドハット製品との統合はどのように進められているのか。
アイデンティティ管理を必要とする顧客は多い。このため、シングルサインオンへの対応を終えている。Fuseとの関連では、テンプレートを用意して容易な統合を進めている。
最も重要でエキサイティングなのは、OpenShiftとの統合だ。多くの顧客がマイクロサービス化に力を入れ、コンテナアプリケーションをAPIでつなげようとしている。
今後、コンテナアプリケーションによるAPIをタグ付けし、これを自動検知してリスト化する機能を搭載する。従って将来は、OpenShiftのワークロードをマイクロサービスとして立ち上げると、APIマネジメントに登録され、これについてユーザーが利用登録してキーを入手し、利用できるようになる。このプロセスが完全に自動化され、開発者が関与する必要は皆無となる。
また、拡張性の点でも、マイクロサービスの新しいコピーが立ち上がると、APIマネジメント側で自動的にルーティングを行うようになる。これは非常に重要な機能だ。スケールアップ、スケールダウンでのOpenShiftとの連携は大きな意味を持つ。
さらにAnsibleとの連携では、テスト段階のAPI、本番のAPIなど、それぞれのための構成を制御しやすくなる。
今述べた統合作業は全て、2017年中に実現する。
もう1つ、2017年9月ごろには完全なオープンソース化を果たす。これにより3scaleは、エンタープライズグレードのAPIマネジメントで、唯一の完全オープンソース製品になる。
――レッドハットに買収されなかったとしても、オープンソース化を進めたと思うか。
3scaleでは、トラフィックゲートウェイについてはオープンソースだったが、中核製品はそうではなかった。そこで完全なオープンソース化をしたいと以前から考え、社内で何度も議論を重ねていた。私は特にインフラ製品にとって、オープンソースであることは非常に重要だと考えている。標準的なシステムを生み出すことに貢献したいからだ。
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